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半七捕物帳(はんしちとりものちょう)63 川越次郎兵衛

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-28 19:07:51  点击:  切换到繁體中文


     三

 五平に連れられて、番太郎の女房が来た。お霜は二十七八で、眼鼻立ちもみにくくなく、見るからかいがいしそうな女であった。彼女は半七を御用聞きと知って、あがり口の板の間にかしこまった。
「いや、そんなに行儀好くするにゃあ及ばねえ」と、半七はあごで招いた。「まあ、ここへ掛けて、仲好く話そうじゃあねえか」
「親分に訊かれたことは、なんでも正直に云うのだぜ」と、五平もそばから注意した。
「次郎兵衛はおめえの弟で、川越から江戸へ奉公に出て来たのだね」と、半七は訊いた。「それが三月の三日に来て、五日からゆくえが知れなくなったと云うのは本当かえ」
「はい。五日の夕方にどこへかふらりと出て行きました、それぎり音も沙汰もございません」と、お霜は答えた。
 五平の話したとおり、本人は屋敷奉公をしたいと云い、要作は町奉公をしろと云い、その衝突から飛び出したのであろうと、彼女は云った。しかし弟は年も若し、初めて江戸へ出て来たのであるから、むやみに家を飛び出しても、ほかに頼るさきはない筈である。さりとて故郷へ帰ったとも思われず、どうしているか案じられてならないと、彼女は苦労ありそうに云った。
 番太郎へたずねて来た二人の女に就いて、彼女はこう説明した。
「三月二十八日のおひる過ぎでございました。浅草の者だと云って、粋な風体ふうていの年増の人が見えまして、次郎兵衛に逢いたいと云うのでございます。まさかに家出をしましたとも云えませんので、まあいい加減に断わりますと、むこうではわたくしが隠しているとでも疑っているらしく、強情に何のかのと云って立ち去りませんので、わたくしもしまいは腹が立って来まして、つい大きい声を出すようにもなりました」
「女はとうとう素直に帰ったのだな」と、半七はいた。
「はい。帰るには帰りましたが、帰りぎわに何だか怖いことを云って行きました」
「どんなことを云った」
「あの人にそう云ってくれ。あたしは決しておまえを唯では置かない。それが怖ければ浅草へたずねて来いと……」
「その女は江戸者だな」
「着物から口の利き方まで確かに下町したまちの人で、なにか水商売でもしている人じゃあないかと思います。初めて江戸へ出て来た弟がどうしてあんな人を識っているのかと、まったく不思議でなりません」
「おめえの弟は田舎者でもきりりとしていると云うから、素早く江戸の女にこまれたのかも知れねえ」と、半七は笑った。「女は浅草とばかりで、居どころを云わねえのだな」
「云いませんでした。次郎兵衛は知っているのでございましょう」
「それから、また別に若けえ女が来たと云うじゃあねえか。それはどうした」
「それは、あの……」と、お霜は云い淀んだように眼を伏せた。
「それはおめえも識っている女だな。おなじ村の者か」
 お霜はやはり俯向いていた。
「なぜ黙っているのだ。その女は弟のあとを追っかけて来たのか」と、半七は畳みかけて訊いた。
「いえ、そういうわけでは……」と、お霜はあわてて打ち消した。
「それにしても、おめえも識っている女だろう。名はなんというのだ」
「お磯と申しまして、おなじ村の者ではございますが、家が離れて居りますのと、わたくしどもは久しい以前に村を出ましたのでよくは存じません。親の名を云われて、初めて気がついたくらいでございます。これも江戸へ奉公に出て来て、浅草の方にいるとばかりで、くわしいことを申しませんでした」
「これも浅草か」
「これもやはり弟に逢わせてくれと申しまして、なかなか素直に帰りませんのを、わたくしが叱って追い帰しました」
「おめえの弟はよっぽど色男らしいな」と、半七はまた笑った。「年増に魅こまれ、娘に追っかけられ、あんまり豊年過ぎるじゃあねえか。それだから天狗に攫われるのだ。そうして、女二人はそれっきり来ねえのか」
「まいりません」と、お霜ははっきり答えた。「それぎりで再び姿を見せません」
「お磯の親はなんというのだ」
「駒八と申します」
 駒八は相当の農家であったが、いろいろの不幸つづきで今は衰微しているという噂であると、お霜は付け加えて云った。
「じゃあ、まあ、きょうはこの位にしよう」と、半七は云った。「おめえは今度のことに就いて、亭主と夫婦喧嘩でもしやあしねえか」
 お霜は黙っていた。
「弟の肩を持って、亭主と喧嘩でもしやあしねえか。ふだんもそうだが、こういう時に夫婦喧嘩は猶さら禁物きんもつだ。仲好くしねえじゃあいけねえぜ」
「はい」と、お霜は口のうちで答えた。
 次郎兵衛は勿論、ほかの女たちが立ち廻ったならば、すぐにここの自身番へとどけろと云い聞かせて、半七はここを出た。それから半丁ほども行くと、八丁堀の坂部治助に出逢った。坂部は市中見廻りの途中であった。
「半七。天狗はどうしてくれるのだ。不人情な事をするなよ」と、坂部は笑いながら行き過ぎた。
 冗談のように云ってはいたが、坂部は半七の怠慢を責めたのである。不人情と責められては、いよいよ捨て置かれなくなったので、彼はその晩、子分の亀吉を自宅へ呼び付けた。
「おい。御苦労だが、二、三日の旅だ。船に乗ってくれ」
「船へ乗って何処へ行きます」
「花川戸から乗るのだ」
「川越ですか」と、亀吉はうなずいた。「なにか見当が付きましたかえ」
 半七から今日の話を聞かされて、亀吉は又うなずいた。
「ようがす。そんな事なら訳はありません。わっし一人で行って来ましょう」
「二人で道行みちゆきをするほどの事でもあるめえ。よろしく頼むぜ」
 相当の路用を渡されて亀吉は帰った。あくる日の午過ぎに、半七は再び外神田の自身番を見まわると、五平は待ち兼ねたように訴えた。
「どうも困ったものです。きのうもお前さんにあれほど云い聞かされたのに、番太の女房はゆうべも夫婦喧嘩をはじめて、女房はどこへか出て行ってしまったそうで……」
「きょうになっても帰らねえのか」
「帰りません。亭主の要作も心配して、もしや身でも投げたのじゃあ無いかと、町内の用を打っちゃって置いて、朝から探して歩いているのです」
「仕様がねえな」と、半七は舌打ちした。
 五平の話によると、お霜は八年振りで尋ねて来た弟をひどく可愛がっているらしく、その肩を持って亭主と衝突することがしばしばある。次郎兵衛の家出も、要作が無理押しに我意がいを押し通そうとしたからである。若い者をあたまから叱り付けて、なんでもおれの云う通りになれと云えば、若い者は承知しない。結局ここを飛び出して、天狗騒ぎなどを惹き起こす事にもなったのであると、お霜は亭主に食ってかかると、要作も黙っていない。本人の為にならない事は飽くまでも叱るのが兄の役目で、むやみに家出などをするのは本人の心得違いである。それが為に、おれ達もどんな巻き添えの憂き目を見るかも知れない。飛んだ弟を持って災難であると、要作は云う。この喧曄がたびたび繰り返された末に、ゆうべは最後の大衝突となったらしい。
「となりの喧嘩はわたし達も薄々知っていましたが、また始まったのかといい加減に聞き流していましたら、飛んだ事になってしまって、親分にも申し訳がありません」と、五平は恐縮していた。
 まさかに死ぬほどの事もあるまいと思うものの、気の狭い女は何を仕でかすか判らない。困ったものだと半七も眉をひそめた。

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