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半七捕物帳(はんしちとりものちょう)63 川越次郎兵衛

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-28 19:07:51  点击:  切换到繁體中文


     四

 それから足掛け四日目の夕がたに、亀吉が帰って来た。
「親分。大抵のことは判りました」
「やあ、御苦労。まあ、ひと息ついて話してくれ」と、半七は云った。
「まず本人の次郎兵衛の方から片付けましょう」と、亀吉はすぐに話し出した。「次郎兵衛のうちにはおふくろと兄貴がありまして、まあ、ひと通りの百姓家です。本人は江戸へ出て屋敷奉公をしたいと云うので、二月の晦日みそかに家を出て、ひるの八ツ半(午後三時)の船に乗ったそうです。兄貴が河岸かしの船場まで送ったと云うから、間違いは無いでしょう」
「二月の晦日に船に乗ったら、明くる日の午頃には着く筈だ。ところが、次郎兵衛は三日に姉のところへ尋ねて来たと云う。そのあいだに二日の狂いがある。その二日のあいだに、どこで何をしていたかな。それからお磯の方はどうだ」
「お磯の家は相当の百姓だったそうですが、親父の駒八の代になってから、だんだんに左前ひだりまえになって総領娘のお熊に婿を取ると、乳呑児ちのみごひとりを残して、その婿が死ぬ。重ねがさねの不仕合わせで、とうとう妹娘のお磯を吉原へ売ることになったそうです」
「お磯は売られて来たのか」と、半七はすこし意外に感じた。「そこで、そのお磯は次郎兵衛と訳があったのか」
「そうじゃあねえと云う者もあり、そうらしいと云う者もあり、そこははっきりしねえのですが、なにしろ仲好く附き合っていて、次郎兵衛が江戸へ出るときは、お磯も河岸かしまで送って来て、何かじめじめしていたと云いますから、恐らく訳があったのでしょうね」
「川越辺では今度の一件を知っているのか」
「城下では知っている者もありましたが、在方ざいかたの者は知りません。どっちにしても、お城にこんな事があったそうだ位の噂で、川越の次郎兵衛ということは誰も知らないようです。本人の親や兄貴もまだ知らないと見えて、みんな平気でいました。近いようでも田舎ですね」
「お磯の勤め先は吉原のどこだ」
「それがよく判らねえので……」と、亀吉は首をかしげながら云った。「江戸の女衒ぜげんが玉を見に来て、二月の晦日にいったん帰って、三月の二十七日にまた出直して来て、金を渡して本人を連れて行ったそうですが、その勤めさきを駒八の家では秘し隠しにしているので、どうも確かに判りません。御用の声でおどかせば云わせるすべもありますが、なにかの邪魔になるといけねえと思って、今度は猫をかぶって帰って来ました。なに、近いところだから造作ぞうさはねえ、用があったら又出掛けますよ」
「その女衒はなんという奴だ」
「戸沢長屋のおようです」
「女か」
「亭主は化け地蔵の松五郎といって、女衒仲間でも幅を利かしていた奴ですが、二、三年前から中気ちゅうきで身動きが出来なくなりました。女房のお葉は品川の勤めあがりで、なかなかしっかりした奴、こいつが表向きは亭主の名前で、自分が商売をしているのですが、女の方が却って話がうまく運ぶと見えて、いい玉を掘り出して来るという噂です。年は三十五で、垢抜けのした女ですよ」
「番太郎へ次郎兵衛をたずねて来たのは、そのお葉だな」
「それに相違ありません。あしたすぐに行ってみましょう」
「むむ。今度はおれも一緒に行こう」
 あくる朝の四ツ(午前十時)頃、半七と亀吉は小雨こさめの降るなかを浅草へむかった。戸沢長屋は花川戸から馬道の通りへ出る横町で、以前は戸沢家の抱え屋敷であったのを、享保年中にひらいて町屋まちやとしたのである。そこへ来る途中、馬道うまみちの庄太に逢った。
「いい所で逢った。おめえは土地っ子だ。手をかしてくれ」と、半七は云った。
「なんです」と、庄太も摺り寄って来た。
 あらましの話を聞かされて、庄太は笑った。
「戸沢長屋のお葉……。あいつなら好く識っています。雨の降るのに大勢がつながって出かけることはねえ。わっしが行って調べて来ますよ」
「だが、折角踏み出して来たものだ。どんなところに巣を食っているか、見てやろう」
 三人は傘をならべて歩き出すと、やがてお葉の家の前に出た。小綺麗な仕舞家しもたや暮らしで、十五、六の小女がしきりに格子を拭いていた。この天気に格子を磨かせるようでは、お葉は綺麗好きの、口やかましい女であるらしく思われた。半七と亀吉を二、三軒手前に待たせて置いて、庄太はその小女に声をかけようとする処へ、おたなの番頭らしい四十五、六の男が来かかった。彼は庄太を識っていると見えて、挨拶しながら近寄って何か小声で話していた。
「馬鹿に長げえなあ。雨のふる中にいつまで立たせて置くのだ。親分、どうしましょう」
「まあ、待ってやれ。なにか大事の用があるのだろう」
 やがて庄太は引っ返して来て、かの男は馬道の増村という大きな菓子屋の番頭宗助であるが、親分たちにちょっとお目にかかりたいから、御迷惑でもそこまでお出でを願いたいと云う。それには仔細があるらしいから、ともかくも来てくれまいかと云った。
 余計な道草を食うことになると思ったが、半七らもよんどころなしに付いてゆくと、宗助は三人を近所の小料理屋の二階へ案内した。庄太に紹介されて、宗助は丁寧に挨拶した上に、飛んだ御迷惑をかけて相済みませんと繰り返して云った。
「実はね、親分」と、庄太は取りなし顔に云い出した。「今この番頭さんから頼まれた事があるのですが、お前さん、まあ聴いてやってくれませんか」
 その尾について、宗助も云い出した。
「御迷惑でございましょうが、まあお聴きを願いたいのでございます。手前の主人のせがれ民次郎は当年二十二になりまして、若い者の事でございますから、少しは道楽もいたします。ところが、先月以来戸沢長屋のお葉という女が時々に店へ参りまして、若主人を呼び出して何か話して帰ります。それがどうも金の無心らしいので、手前もおかしく思って居りますと、おとといは見識らない男を連れて参りまして、相変らず若主人を表へ呼び出して、なにか強面こわもてに嚇かしていたようで、二人が帰ったあとで若主人は蒼い顔をして居りました。あまり不安心でございますから、手前は人のいない所へ若主人をそっと呼びまして、これは一体どういう事かといろいろに訊きましたが、若主人はその訳を打ち明けてくれませんで、唯ため息をついているばかりでございます。御承知でもございましょうが、お葉は松五郎という女衒の女房で、手前どものような堅気な町人に係り合いのあろう筈はございません。それが毎度たずねて来て、なにか無心がましいことを云うらしいのは、どうも手前どもの腑に落ちません。年上ではありますが、お葉もちょいと垢抜けのした女ですから、もしや若主人とどうかしているのではないかと思いまして、それもいろいろ詮議したのでございますが、決してそんな覚えはないと若主人は申します。そうなるといよいよ理窟がわかりません。実を申しますと、若主人にはこの頃、京橋辺の同商売の店から縁談がございまして、目出たく纏まりかかっております。その矢先きへお葉のような女がたびたび押しかけて参りまして、その縁談の邪魔にでもなりましては甚だ迷惑いたします。主人夫婦も若主人を詮議いたしましたが、やはり黙っているばかりで仔細を明かしません。あまり心配でございますので、主人とも相談いたしまして、いっそお葉のうちへ行って聞きただした方がよかろう。仔細によっては金をやって、はっきりと埒を明けた方がよかろう。こういうつもりで唯今出てまいりますと、丁度そこで庄太さんに逢いまして……。庄太さんの仰しゃるには、お葉もなかなか食えない女だから、お前さんたちが迂闊うかつに掛け合いに行くと、足もとを見て何を云い出すか判らない。これは親分に一応相談して、いいお知恵を拝借した方がよかろうと申されましたので、お忙がしいところをお引き留め申しまして、まことに恐れ入りました」
「そこで、どうでしょう、親分」と、庄太は引き取って云った。「なまじい番頭さんなぞが顔を出すよりも、わっしが名代みょうだいに出かけて行って、ざっくばらんにお葉に当たってみた方が無事かと思いますが……」
「そこで、よもやとは思うが、若旦那とお葉とはまったく色恋のいきさつは無いのですね。相手は亭主持ちだから、そこをよく決めて置かないと、事が面倒ですからね」と、半七は宗助に訊いた。
「さあ、わたくしには確かなことは判りませんが……」と、宗助は考えながら答えた。「唯今も申す通り、本人は決してそんな覚えはないと申しております」
 女中が酒肴を運び出して来たので、話はひと先ず途切れた。かたのごとくに猪口ちょこの遣り取りをしているうちに、雨はますます強くなった。
「おたなの若旦那の遊び友達はどんな人達です」と、半七は猪口をおいて訊いた。
「そうでございます……米屋の息子さん、呉服屋の息子さん、小間物屋の息子さん、ほかに三、四人、どの人もここらでは旧い暖簾のれんの家の息子株で、あんまり人柄の悪いのはございません」と、宗助は指を折りながら答えた。
「お葉はおまえさんの店ばかりで、ほかのお友達の家へは行きませんか」
「さあ、どうでございましょうか」
「若旦那はどんな遊び方をします」
「それはよく存じませんが、なんでも太鼓持や落語家はなしかの芸人なぞを取巻きに連れて、吉原そのほかを遊び歩いているように聞いて居りますが……」
大店おおだなの若旦那だから、大方そんなことでしょうね」と、云いながら半七は少し考えていたが、やがて又しずかに云い出した。「じゃあ、番頭さん、ともかくもこの一件はわたくしに任せて下さい。庄太の云う通り、おまえさんが顔を出すと、相手は足もとを見て、大きなことを吹っかけるかも知れねえ、そうなると、事が面倒ですから、わたくしの一手で何とか埒を明けましょう。しかし番頭さん、こりゃあどうしても唯じゃあ済みそうもねえ。五十両や百両は痛むものと覚悟していておくんなさい」
「はい、はい。それは承知して居ります」
 勿論そのくらいの事は覚悟の上であるから、いつまでもあと腐れのないように宜しくお願い申すと、宗助は云った。

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