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小熊秀雄全集(おぐまひでおぜんしゅう)-15

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-29 7:03:04  点击:  切换到繁體中文



    (一)

 お寺の境内の踊り場で男はさんざんに踊つた、疲れてへと/\になるほどに、呼吸がぜいぜいと鳴りだすほどに手を振つたり足を振つたりした。
 その夜は月夜であつたので、踊りの輪をとりまく見物人もなかなか踊り見物を止して帰らうとしなかつたので、踊り子たちも調子づいて安心をして踊つてゐた。
 一本の枯れた松の木がぎら/″\白く光つて立つてゐて、その木にもたれかゝつた一人の若い娘さんの、夜眼にも白い細りとした首筋がことのほか踊つてゐる男の眼をひいた。
 そこで男は手拭ひをかむつた自分の顔をなんべんも傾けてその娘さんの顔をのぞきこんで見たのであつたがどんな瞳をしてゐるか松の木の枝が邪魔になつて判らなかつた、しかし娘さんは顔色の白い乳のふくれた女であることだけが男にはつきり判つた。
 男は待遠しい思ひで踊りの輪をだんだんとこの娘さんの立つてゐた松の木にちかづけて、娘さんの前を通すぎるとき、松の木にそつと三角形に指を揃へた娘さんの細い掌のどこかに自分の指をふれてみた。
 なんべんとなくそんなことをやつてゐるうちに、とうとうその娘さんの注意を男はひくことが出来たし、その上この娘さんがけつして松の木に住んでゐる毛虫と同じやうに男を怖ろしがつてゐないこと、かへつて自分の手をふれることを嬉しく思つてそつと掌を動かしたことなどを知つたので男は非常に面白がつた。
 娘さんは赤い前垂をしめてゐて十七歳ぐらいであつた、そして羽織の上からその前垂の紐を強くしつかりと締てゐるといふことが、いかにも厳格な家庭に育つた一人娘で、こんな淫らな盆踊りなどを見物にこられないのを、勝手仕事のひまを盗んで駈けてきたといふ、しんなりと曲がつた風情をして樹にもたれてゐた。
 ことに男にとつて嬉しかつたのは娘さんの着物がすべすべとした絹物であつたことゝ、まだ肩揚げが羽織についてゐたといふことであつた。

    (二)

 男は娘さんの肩揚げを発見すると急になんといふこともなく元気づいて、それから二度踊つてから思ひきつて娘さんの肩のところに強く自分の肩をうちつけてみた。
 娘さんはきらりとの中の犬のやうに白眼を光らしたきりで、たいして男を怖ろしがる風も見えなかつたので安心をして、こんどは踊りの輪をすらりと魚のやうにけて娘さんの立つてゐる膝のところの暗さにふいにしやがんで平気な顔をしておどりの輪を見返した、それからそつと下から空を仰ぐやうに、娘さんのあごをしげしげと見物した。
 男はしやがんでゐる自分の足をながめて、けつして毛脛は男として恥べきものではない、と男の仲の善い或友人が言つた言葉をふと思ひ出して、ひとりでににや/\と笑みが連続的にこみあげてきたので、てれ隠しに頬冠の手拭ひをかむり直して鼻だけ出した。
 見あげてゐる娘さんが、いかにも完全無欠な、りつぱな肉体に見える、その足もとに、しよんぼりとやすんでゐる自分の姿がいかにも、みぢめに思はれたので、男はぐつとさかんに眼球をみはつたり動かしたりして秋空の一角に、きら/\と光つてゐるいくつかの星を見あげた、しかし豆絞りの頬冠をしてゐるといふことが、いちばん気がゝりになつて悲しくなつたが、さりとてその頬を風に晒すといふことが気恥かしく思はれたのでじつと何かを鉄砲で射撃をするときのやうに、眼を片つ方だけぐつとひきしめて、びく/″\頬をけいれんさした。
 男はたいへん慌てだした、いつまでもこんな状態でしやがんでゐることができないこともわかつてゐるし、また手拭ひをぱらりと木の葉のやうに、とり除いてその頬を娘さんに見せて了ふか、手拭ひをかむつたまゝで、この娘さんの手を思ひきつて眼をつむつてぐつと一思ひに握つて了はうか、ふたつにひとつより他に分別がなかつたからであつた。

    (三)

 そのうちに娘さんがすらりと撫で肩である割に肥えた肩をもつてゐるといふことが男の眼をたいへんしげきしたので、よりかゝるやうに胸を動かした、はずみに乗つて力いつぱい娘さんの厚ぼつたい肩を手で押しつけてしまつてからはつママ思つた。
 しかしそのとき踊りの太鼓がいちだんと高く『とんとん』と鳴りひびき、娘さんも平気な顔をして月をながめてゐたので、男はほつと吐息をして、それから娘さんの丸い腕に添つて動かして、とうとう無事に手を握つてしまつた。

 男と女とがならんで草原を散歩した。
 男は河岸に来たときに、水面の月の反射を怖れて頬かむりの顔を水からそむけたが、女はいたつて平気に、水の反射と月光を正面からうけてぎら/″\と頬を動かしながら、でも自分から足を暗がりの方にさつさと向けて河沿ひに歩きつゞけた。
 男が河岸の斜面を歩く、せきこんだ落ちこむやうな感情に上気していまゝでたんねんに用意深く考へ
『でもわたしが若しあなたを嫌ひであつたら……どうして』
 娘さんは小さな低い声で男の頭のてつぺんでかう言つた。
 乳房のところを頭でぐんぐん動かしてゐるうちに、きつと娘さんがだまり込んでしまふときが来ることを知つてゐたので、横着に額を機械のやうに動かしてゐた男であつたが、でも娘さんの言葉が気がかりになり初めたので、念のために、娘さんの胸から不意に二三歩とびすさつて、片手を内ふところに荒つぽく襟のあたりにいれてふところの中で大きな拳骨をつくつて見た、眼は白眼ばかりにしてゐなければならないので、暫らくの間は胸苦しい呼吸いきがして娘さんがどんな顔をしてゐるのかさつぱりわからなかつた。
『刃物でおどかしたつて、駄目よ嫌ひなものは、どこまでも嫌よ』
 あゝなんといふすばらしい肩揚げだらうと男は落胆をしながら、つく/″\と娘さんの肩揚げをながめしぶ/″\とふところから手を出して、てれ隠しに引つぱり出した皮製の万年筆いれを月にかざして見せた。

    (四)

 娘さんと男とは、声を揃へて黒い土の上で一度に笑つた。
『むかふに見える橋の処に行くまでにわたしが、あなたを好きになれたらね』
 娘さんは鼻で斜めに遠望される橋をゆびさした。
 の中の橋が遠くに見えて、橋の下のあたりにごう/″\、といふ水の流れる響きが聞えた、その橋までに七本の電信柱がつゞいて立つてゐて、そして一本おきに殆どどの電柱にも笠がなんにもなかつたり、笠があつても欠けてゐたりした電燈が、上のところにぴか/\と光つてゐた。
 笠のいたんであるのは、みな河原遊びの子供が石を投げつけたのであらう、そして明りの点つてゐる電柱のつぎ/\の電柱は、ぼんやりと照らしだされて背の高い幽霊のやうにたつてゐた。
 男はいろ/\の身振や、言葉使ひや、を殊更に注意をして歩きだした、こゝろもち男よりも足早に先にたつて歩いてゐる娘さんの肩のあたりの柔らかい曲線を見てゐると、それが様々の姿態をつくりだして、しまひには見てゐる男の眼がぐら/″\と日射病のやうに、黄色い眩惑にをちこんでしまつたやうに思はれた。
 娘さんの手や足や首や胴体これらの白いすべ/\とした肉体が離ればなれになり、着てゐる着物やら羽織やら、前垂やら、前垂の白い紐やら、半襟足袋、そして頭髪のゴムの櫛などまでが、いつぺんに散りぢりに離れて、これらの分れ分れの個体が非常な早さと勢ひこんでくる/\と回転をはじめ、これが青や赤や黄の美事に配色された唐草模様のやうになつてしまつたのかとさへ思はれた。
 ふいに躍りかゝつて、この唐草模様をそこの暗闇にねぢ倒してその上に馬乗りになつて了ひたい逆上した血が頭の上の方にぐん/″\とのぼり、ことに太くなつた血脈が両足の爪先から胸のあたりに弓のつるを鳴らしたときのやうに、強く大きく鳴りだした。
『あゝ、大変なことになりかゝつてきた、女はだん/″\と河原におりてゆく、女の足を夜風に冷やしたり、河の水のちかくを歩かせては、いまゝでの苦心がみなふいになつて了ふ、あの女の両足をこの辺の乾いた土の道路にひつ張りあげなければ駄目だ』
 男はかう考へたので女の肩に自分の肩をならべて、それで河風をさいぎつて、堤の上の乾いた土の道路の上に女を歩かせようと、すくなからずいら/\と努力しながら、肩を櫓皿のやうにぐり/″\と女の肩に動かした。
『娘さんよ、河のあまり近くに行つては危険ですよ、河原の石がころ/\してゐますからね、こつちへいらつしやいな、柔らかい地面を選んで坐りませうよ』
 と男が熱心に呼びかけると女はちよつとふり返つたなりで、ぐん/″\と男の先にたつて足早にあるくのが男を激しくいら/\させた、男は追ひすがるやうに女の丸い肩に両手をかけて、地べたにむかつて静かに押へつけたので女は白い二本の足をきちんと揃へて草の上に坐つてしまつた。

    (五)

 足を女の足のしろさとならべてつま先のところをじつと男がみつめてゐると幾分地面が傾斜になつてゐることに気がついた、そして背中にすく/\と暗の中に新鮮な青い樹木のやうなかたちが大きな掌をひろげて男をどんと突いたので、危くがつくりと前のめりに娘さんの膝の上に頭を落してしまふところであつた。
 それと殆ど同時に後のくらがりに『ぽきり』とすばらしい大きな響きがして、娘さんの白い腕が男の眼にいつぱいはまりこんで、長く伸びた太い白い線が重々しいまん丸い何かの物体ママ男の膝の上に落ちてきたので、男はぎよつと気味悪く思ひながら、じつと自分の膝の上のその丸い品を見極めようとした。
 じつと遠くどこか未来のやうなところから娘さんの笑ふ声が聞えたと思ふうちに、こんどは耳のすぐ傍でれるやうな大きな鉄線をたゝきつけるふるへた娘さんの笑ひが起つた。
『おあがりなさいな、こんな大きな味瓜が鈴のやうになつてます、後に手が届きますよ』
 娘さんはかう云つて続けさまにぽきん/\と味瓜の蔓を折る音をまぢかにさせた。
 ふり返つてみると、くらやみの中にことさらに黒味を帯びた、ちやうど谷間の深淵のよどみをたてかけたやうな深みが、じつとみつめてゐると見とをしができるやうに思はれて、そしてまた壁のやうな不透明な幾つにも切断されて盛りあげられた影がふたりの背後にならんでゐた。
 最初はその黒い影が、だん/″\と不安な冷たいものと変つてきてしまいには黒味に一点の白をさしその白が無数に殖へだし散らばつて見事に銀色のマリのやうにふくれだし、果てはあつちにもこつちにも、はつきりとした線をもつてまんまるい味瓜が描きだされた。
『味瓜を喰べてはいけませんよ、味瓜を喰べてはいけませんよ、味瓜は冷たい冷たい』
 男はなにかの歌でもうたふやうな調子で女の手から小さな二つの味瓜をひつたくつた、そしてたくさんの御追従笑ひをした。
『ね、なぜ喰べてはいけないのかしら、こんなに沢山あるのにね、盗んだのだから、口にいれるのがあなたは怖ろしい気がしてゐるのでせう、臆病ね』
『女が南瓜や味瓜をたべるのはよくないのです、血が荒れるといふ話ですよ、ざくざくになつてしまうんでせう』
『血が荒れたつてざく/″\になつても喰べて見たい、こんなに美味しさうにふくれてゐるんですもの、わたしなんかとつくに荒れてしまつてゝよ、かまふものですか』
『そんなことはありません、娘さんちよつとお手を拝見しませう』
 からだをゆすぶつてゐる、娘さんの手を男はそつと握つた、自分の掌の上に娘さんの重たい掌をのせてみると、どつしりとした厚ぽつたく動かない魚のやうに、またいかにも金目のなにかの貴金属でものせてゐるやうにも思はれた。

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