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泥濘(でいねい)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-30 8:09:24  点击:  切换到繁體中文


     二

 お茶の水から本郷へ出るまでの間に人が三人まで雪ですべった。銀行へ着いた時分には自分もかなり不機嫌になってしまっていた。赤く焼けている瓦斯煖炉ガスだんろの上へ濡れて重くなった下駄をやりながら自分は係りが名前を呼ぶのを待っていた。自分の前に店の小僧さんが一人差向かいの位置にいた。下駄をひいてからしばらくして自分は何とはなしにその小僧さんが自分を見ているなと思った。雪と一緒に持ち込まれた泥でよごれている床を見ているこちらの目が妙にうろたえた。独り相撲だと思いながらも自分は仮想した小僧さんの視線に縛られたようになった。自分はそんなときよく顔のあかくなる自分の癖を思い出した。もう少し赧くなっているんじゃないか。思うしりから自分は顔が熱くなって来たのを感じた。
 係りは自分の名前をなかなか呼ばなかった。少し愚図過ぎた。小切手を渡した係りの前へ二度ばかりも示威運動をしに行った。とうとうしまいに自分は係りに口をいた。小切手は中途の係りがぼんやりしていたのだった。
 出て正門前の方へゆく。多分行き倒れか転んで気絶をしたかした若い女の人を二人の巡査が左右から腕を抱えて連れてゆく。往来の人が立留って見ていた。自分はその足で散髪屋へ入った。散髮屋は釜をこわしていた。自分が洗ってくれと言ったので石鹸で洗っておきながら濡れた手拭てぬぐいで拭くだけのことしかしない。これが新式なのでもあるまいと思ったが、口が妙に重くて言わないでいた。しかし石鹸の残っている気持悪さを思うとたまらない気になった。たずねて見ると釜を壊したのだという。そして濡れたタオルを繰り返した。金を払って帽子をうけとるとき触って見るとやはり石鹸が残っている。なんとか言ってやらないと馬鹿に思われるような気がしたが止めて外へ出る。せっかく気持よくなりかけていたものをと思うと妙に腹が立った。友人の下宿へ行って石鹸は洗いおとした。それからしばらく雑談した。
 自分は話をしているうちに友人の顔が変に遠どおしく感ぜられて来た。また自分の話が自分の思う甲所かんどころをちっとも言っていないように思えてきた。相手が何かいつもの友人ではないような気にもなる。相手は自分の少し変なことを感じているに違いないとも思う。不親切ではないがそのことを言うのが彼自身おそろしいので言えずにいるのじゃないかなど思う。しかし、自分はどこか変じゃないか? などこちらから聞けない気がした。「そう言えば変だ」など言われる怖ろしさよりも、変じゃないかと自分から言ってしまえば自分で自分の変な所を承認したことになる。承認してしまえばなにもかもおしまいだ。そんな怖ろしさがあったのだった。そんなことを思いながらしかし自分の口はしゃべっているのだった。
「引込んでいるのがいけないんだよ。もっと出て来るようにしたらいいんだ」玄関まで送って来た友人はそんなことを言った。自分はなにかそれについても言いたいような気がしたがうなずいたままで外へ出た。苦役くえきを果した後のような気持であった。
 町にはまだ雪がちらついていた。古本屋を歩く。買いたいものがあっても金に不自由していた自分は妙に吝嗇けちになっていて買い切れなかった。「これを買うくらいなら先刻さっきのを買う」次の本屋へ行っては先刻の本屋で買わなかったことを後悔した。そんなことを繰り返しているうちに自分はかなり参って来た。郵便局で葉書を買って、家へ金の礼と友達へ無沙汰のわびを書く。机の前ではどうしても書けなかったのが割合すらすら書けた。
 古本屋と思って入った本屋は新しい本ばかりの店であった。店に誰もいなかったのが自分の足音で一人奥から出て来た。仕方なしに一番安い文芸雑誌を買う。なにか買って帰らないと今夜がたまらないと思う。その堪らなさが妙に誇大されて感じられる。誇大だとは思っても、そう思って抜けられる気持ではなかった。先刻の古本屋へまた逆に歩いて行った。やはり買えなかった。吝嗇臭いぞと思ってみてもどうしても買えなかった。雪がせわしく降り出したので出張りを片付けている最後の本屋へ、先刻値を聞いてした古雑誌を今度はどうしても買おうと決心して自分は入って行った。とっつきの店のそれもとっつきに値を聞いた古雑誌、それが結局は最後の選択になったかと思うと馬鹿気た気になった。他所よその小僧が雪を投げつけに来るのでその店の小僧はその方へ気をとられていた。覚えておいたはずの場所にそれが見つからないので、まさか店を間違えたのでもなかろうがと思って不安になってその小僧にきいてみた。
「お忘れ物ですか。そんなものはありませんでしたよ」言いながら小僧は他所よそのをやっつけに行こう行こうとしてうわの空になっている。しかしそれはどうしても見つからなかった。さすがの自分も参っていた。足袋を一足買ってお茶の水へ急いだ。もう夜になっていた。
 お茶の水では定期を買った。これから毎日学校へ出るとして一日往復いくらになるか電車のなかで暗算をする。何度やってもしくじった。そのたびたびに買うのと同じという答えが出たりする。有楽町で途中下車して銀座へ出、茶や砂糖、パン、牛酪バターなどを買った。人通りが少い。ここでも三四人の店員が雪投げをしていた。かたそうで痛そうであった。自分は変に不愉快に思った。疲れ切ってもいた。一つには今日の失敗しくじり方が余りひど過ぎたので、自分は反抗的にもなってしまっていた。八銭のパン一つ買って十銭で釣銭を取ったりなどしてしきりになにかに反抗の気を見せつけていた。聞いたものがなかったりすると妙に殺気立った。
 ライオンへ入って食事をする。身体を温めて麦酒ビールを飲んだ。混合酒カクテルを作っているのを見ている。種々な酒を一つの器へ入れて蓋をして振っている。はじめは振っているがしまいには器に振られているような恰好をする。洋盃グラスへついで果物をあしらい盆にのせる。その正確な敏捷びんしょうさは見ていておもしろかった。
「お前達は並んでアラビア兵のようだ」
「そや、バグダッドの祭のようだ」
「腹が第一滅っていたんだな」
 ずらっと並んだ洋酒の壜を見ながら自分は少し麦酒の酔いを覚えていた。

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