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哀詞序(あいしじょ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-31 10:39:16  点击:  切换到繁體中文

底本: 現代日本文學大系 6 北村透谷・山路愛山集
出版社: 筑摩書房
初版発行日: 1969(昭和44)年6月5日
入力に使用: 1985(昭和60)年11月10日初版第15刷
校正に使用: 1977(昭和52)年4月20日初版第7刷

 

 歓楽は長く留り難く、悲音は尽くる時を知らず。よろこびは春の華の如く時にしたがつて散れども、かなしみは永久の皷吹をなして人の胸をとゞろかす、会ふ時のよろこびは別るゝ時のかなしみを償ふべからず。はたまた会ふ時の心は別るゝ時の心の万分の一にだも長からず。生をけ、人間じんかんに出でゝ、心を労して荊棘けいきよくすぐる、或は故なきに敵となり、或は故なきに味方となり、恩怨ふたつながら暴雨の前の蛛網ちゆまうに似て、いたづらにだ毛髪の細き縁を結ぶ、夕に笑ひしに因て朝に泣くの果を見つ、朝に泣きしに因つて更に又た夕に笑はんとす、斯の如きはあはれむべし、斯の如きは悲しむべし、斯の如きはいとふべし、我れつら/\世相を観ずるに、誰か亦た斯の如くならざらむ。娼婦の涕は紅涙とたゝへられ、狼心の偽捨は慈悲ととなへらる。友と呼び愛人といふも、はしたなきもつれにもろくも水と冷ゆるは世の習ひなり、鷺を白しと云ひ、鴉を黒しといふも唯だ目にみゆるところを言ふのみ、人の心を尋ぬれば、よしなきことを諍ひては瞋恚しんいほむらを懐にもやし、露ほどの恨みもとこしへに解くることなく人をそこなはんと思ふ。右に行くものゝ袂は左に往くものゝ手に把られ、左に行くものも亦た右に往くものに支へらる。鴿はとの面をもてる者に蛇の心あり、美はしき果実に怖ろしき毒を含めることあり、洞にちかづけば※蛇げんじや[#「虫+元」、162-下-19]ちつし、林に入れば猛獣遊ぶ。二世といふ縁に二世あるは少なく、三世といふに三世あるも亦すくなし、まことの心にて契る誓ひは稀にして、唯だ目前の情と慾とに動くも亦たはかなき至りなり、讐と恩とに於て亦た斯の如し。必らずむくふべしと思ふ程ならば、酬はずしておのづから酬ゆるものを。必らず忘れじといふ恩ならば、忘るゝとも自から忘るまじきを。讐には手をもて酬ひんと思ふこと多く、恩には口をもて報ずること多し。敵と味方に於いて亦た斯の如し。一時の利の為めに味方となるものは、又た一時の害の為めに離るゝを易しとす。一時の害の為めに敵となるものは、又た一時の利の為めに味方となるを易しとす。西風には東に飛び、東風には西にがるは紙鳶たこなり、人の心も大方は斯くの如し。風の西に吹くを能く見るものを達識者と呼び、風の東に転ずるを看破するものあれば、卓見家となへんとす。勇者はその風に御して高く飛び、智者はその風を袋に蓄はへて後の用を為す。運よくして思ふこと図に当りなば傲然がうぜんとして人をしのぎ、運あしくしてきはまりなば憂悶して天を恨む。凌がるゝ人は凌ぐ人よりも真に愚かなりや、恨まるゝ天は恨む人の心を測り得べきや。斯の如きは世なり。斯の如きは人間なり。深く心を人世に置くもの、いづくんぞ憂なきを得ん。安くんぞ悲なきを得ん。甘露をらす法の道も、世をうるほすこと遅く、仁義の教も人の心をいかにせむ。天地の間に我が心を寄するものを求めて得ざれば、我が心は涸れなむ。
 我はあからさまに我が心を曰ふ、物に感ずること深くして、悲に沈むこと常ならざるを。我は明然あきらかに我が情を曰ふ、美しきものに意を傾くること人に過ぎて多きを。然はあれども、わが美くしと思ふは人の美くしと思ふものにあらず、わが物に感ずるは世間の衆生が感ずる如きにあらず。物を通じて心に徹せざれば、自ら休むことを知らず。形をうがちて精に入らざれば、自ら甘んずること難し。人われを呼びて万有的趣味の賊となせど、われは既に万有造化の美に感ずるの時を失へり。多くの絵画は我を欺けり、名匠の手に成るものと雖、多く我を感ぜしむる能はず。絵画既に然り、この不思議なる造化も、然り、造化も唯だ自然に成りたる絵画のみ。われは世の俗韻俗調の詩人が徒らに天地の美を玩弄ぐわんろうするをにくむこと甚だし。然れども自ら顧みる時は、何が故に我のみは天地の美に動かさるゝことの少なきかを怪しまずんばあらず。動かさるゝこと少なきにあらず、多く動かされて多く自ら欺きたればなり。我は再び言ふ、われは美くしきものに意を傾くること人に過ぎて多きを。花のあしたを山に迷ひ、月のゆふべを野にくらすなど、人には狂へりと言はるゝも自から悟ることを知らず、人には愚なりと言はるゝとも自から賢からんことをねがはず。或時は蝶の夢の覚め易きを恨み、またある時は虫の音の夜を長うするを悲しむ。この恨み、この悲しみを何が故の恨み、何が故の悲しみぞと問ふも、蝶の夢は夢なればこそ覚め、虫の音は秋なればこそ悲しきなれ、と答ふるの外に答なきに同じ。嗚呼あゝ天地味ひなきこと久し、花にあこがるゝもの誰ぞ、月にうそぶくもの誰ぞ、人世の冉々ぜん/\として減毀げんきするをし、ちうとして命運のわたくししがたきを慨す。
 身は学舎にあり、中宵枕を排して、燈をりて亡友の為に哀詞を綴る。筆動くこと極めて遅く、涕つること甚だ多し。相距あひへだゝること二十余日、天と地の間に於てこの距離は幾何いくばくぞ。(哀詞本文は未だ稿をまつたうせず)

(明治二十六年九月)




 



底本:「現代日本文學大系 6 北村透谷・山路愛山集」筑摩書房
   1969(昭和44)年6月5日初版第1刷発行
   1985(昭和60)年11月10日初版第15刷発行
初出:「評論 十二號」女学雜誌社
   1893(明治26)年9月9日
入力:kamille
校正:鈴木厚司
2005年3月30日作成
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    「虫+元」    162-下-19


 

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