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右門捕物帖(うもんとりものちょう)02 生首の進物

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 8:59:51  点击:  切换到繁體中文


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 しかし、翌日はあいにくのじめじめとしたさみだれでした。わるいことには、その雨の日にかぎってまたちょうど勤番で、もちろん事件がその手にあったならば、勤番、非番の区別はないわけでしたが、知らるるとおりこの生首事件はかれの手に委嘱されたものではなかったのでしたから、非役のてまえとして、出仕するの必要がありました。けれども、たとい非役であったにしても、このぷきみな怪談を耳に入れて、いまさら出仕などゆうちょうなまねが、なぜにしていられましょうぞ! 手に材料がないだけに、一歩敬四郎に先んじられているだけにいっそう競争意識をあおられましたので、かれは病気のていにつくろって、当分出仕ご免の許しを得ておくと、心を新たにして事件に向かおうと思いたちました。こういうときに、すなわち、心を新たにしようというときに、いつも右門の取る方法は、碁盤に向かうことです。お打ちになられるかたがたはご存じのことと思いますが、心に煩悶はんもんの多いときに、ないしはくふうのつかない事件なぞがあるときに、まず端然と威儀を改め、それからおもむろに心気を静めて盤に面し、しかるのちに、あのかぐわしきかやの木の清浄なかおりをたしなみながら、ひんやりと手に冷たい石をとりあげて、戞然かつぜんと音たてながら打ちこんで行くことは、まことに颯々爽々さつさつそうそうとして心気の澄み静まるもので、だから右門はちゅうちょなく盤に対しました。腕は職業初段に先というところ――したがって、石の音は真に戞然と高い!
 と――まことに人は碁のごとき清戯をも覚えておくものですが、その第一石の石の音が終わるか終わらないうちに、ふと気がついて、右門はおもわず、なんのことだ! そう吐き出すように大きく叫びました。肝心なことに、ほんとうに肝心かなめの肝心なことについて気がつかずにいたことが、ふと思い出されたからです。ほかでもなく、それは首――三晩つづけて胸の上にのっかっていたというその生首の実物を、このときにいたるまで、まだ一度も改めずにいたことが思い出されたからでした。訴えてきた以上は、むろんご番所へその実物を提供してあるにちがいないと思われましたので、右門は気がつくと同時に、一刻を争いながら数寄屋橋すきやばしへ駆けつけました。
 と――はたしてあった。三個とも厳重に蝋封ろうふうを施した箱に入れて、ちゃんとご奉行席のわきに置かれてあったのです。かれはただちに、内見をお奉行神尾元勝に申し入れました。功名はたてておきたいもので、これが普通の与力同心ならば、ごく内密にといったそのことばのてまえ、容易に披見は許されないはずですが、右門の才腕がものをいいました。
「内聞にいたせよ」
 そういう注意のもとに、お奉行神尾元勝みずからが蝋封を破ってくれましたものでしたから、右門はひとみをこらしながら、順次に三個の生首へ目をそそぎました。伝六の報告どおり、第一の首はまだうら若い女、第二の首は坊主頭、第三の首は五十を越した老人で、左の片目はこれも報告どおり、一様にえぐりぬかれてあるのです。それから、べっとりと血がまだたれたままで。――
 けれども、じっと見つめているうちに、右門ははっと思いました。血が新しい割合にしては首が古い! だのに、首が古い割合にしては腐乱が見えない! 四月というこの陽気ですから、かりに腐乱が来ないにしても、もうにおいぐらいはついていなければならないはずですが、古い首なのに、それすらもないのです。
「はてな!」
 と思いましたから、右門はぶきみなことをも忘れながら、かまわずに指先をもってその首の面をなであげました。と――なにかねっとりとした湿気を感じましたから、さらにひるむことなく首に触れたその指先をくちびるにあててみると――塩っ辛い! まるで、口がゆがむほど塩っ辛いのです! 右門はすかさずにお奉行へ問いただしました。
「これなる首は、当ご番所へ参りましてから塩づけになされたのでござりまするか」
「なに、塩づけ……? そのような形跡があるとすれば少しく奇怪じゃが、いずれもそれらは小田切殿持参されたままの品じゃぞ」
 持参のままの品と聞きましたから、右門の明知は瞬時にさえ渡って、瞬間に断案を下しました。首は拾いものか買いものか、いずれにしても塩づけの骨董品こっとうひんをほかから求めきたったものに相違ないのです。そして、その骨董品を生首と見せかけるべく、別な血を塗ったものに相違ないのです。としたら――右門は必死と考えました。いったい、この首の骨董品はいずこに売っているか?――いうまでもなく、人の死に首なぞ売りひさぐ酔狂な商家は、江戸広しといえどもあるはずはないんですから、出所はむろんのことに、平生塩づけの首の貯蔵を許されている個所に相違ないはずでした。しからば、その公許の塩づけ貯蔵個所なるものは、そもそもどこであるか?――右門の判断を待つまでもなく、それは鈴ガ森と小塚こづかぱらの二個所です。すなわち、首は罪人の首、いまわしきあの獄門首に相違ないという判定が、たなごころをさすごとくたちどころにつきましたものでしたから、右門はただちにお番所の獄門記録について、事件前後に死罪に処せられたさらし首で、右の三名に相当するものの有無を調査いたしました。
 と――ある、ある! 俗称白縫しらぬいのおよし、窃盗きんちゃっ切りの罪重なるをもって四月三日死罪に処せられしうえ梟首獄門きょうしゅごくもん座頭ざとう松の市、朋輩ほうばいをあやめしかどにより四月四日斬罪ざんざいのうえ梟首獄門。尾州無宿の久右衛門きゅうえもん、破牢の罪により四月五日江戸引きまわしのうえ梟首獄門。しかも、三個ともにさらし首とされたところは小塚ッ原であることまでも判明しましたのでしたから、もうしめたものでした。さみだれをおかしながら、時を移さずに小塚ッ原へ一路ご番所を駆けだそうとすると、いいことのあるときは、いいことの重なるものですが、ばったり出会ったのは伝六で――顔を合わせるやいなや、のっけにいいました。
「おっ、だんな! いいところで会いやした。もう、しめこのうさぎでがすよ」
 なんか新しい材料をつかんできたらしいなということがすぐにわかりましたから、右門はたたみかけてききました。
「きさまも何かひきあげたな」
「え? きさまもというと、じゃ、だんなもほしを拾いましたね。そうと決まりゃてっとり早くいいますがね。ちょうどゆんべでさ。あれからうちへけえったんですが、あばたのだんなにしてやられるかと思うと、いかにも業腹で寝られませんからね、当たって砕けろと思って、実あこっそり小田切のお屋敷へ様子見に出かけたんでがすよ。するてえと、裏口の不浄門がこっそりあいて、中間かなんかでがしょう、いいかげん年寄りのおやじが、とくりをさげて出てきたじゃごわせんか。こいつ寝酒の買い出しだなとにらんだものでしたから、あばたのだんなの手下どもが居眠りしてたのをさいわい、うまいことそのおやじを抱き込んで、二、三本もよりの居酒屋でふるまいながら、すっかりうちの様子聞いちまったんでがすよ」
「なに、うちの様子? そいつぁおめえに似合わないてがらだが、ほしゃどんな筋だ」
「どんなにもこんなにも、つまり、そのほしが下手人でがさあ。ね、そのおやじのいうことにゃ、ついこの一カ月ばかりまえに、小田切のだんなのうちで長年使われていた用人がお手討ちになったっていうんでがすよ。ところが、その首にされた用人の顔てえものがただの顔じゃなくて、つまり、この事件の因縁話になるところだと思うんでがすがね。そら、例の目が、左の目玉が、あの生首の顔のように、一方つぶれていたというんでがすよ。だから、ははんそうか、さてはだれかその用人の身内の者がお手討ちの恨みを晴らすために、あんな左の目のない生首をこしらえて、味なまねしやがったんだなと思いましたからね、すぐにおやじへきいたんでがすよ。その用人にゃ、せがれか、おいか、血筋の者はなかったかってね」
「あったか!」
「大あり、大あり。二十五、六のせがれで、飲む、打つ、買うの三拍子そろったならず者があったというからね、あっしゃもうてっきりそいつのしわざだと思うんでがすがね」
「ちげえねえ」
 その報告が事実とするなら、まさにこれは「ちげえねえ」にちがいありますまい。手討ちにされた用人の片目であったところから思いついて、生首の左の目玉ばかりを同じようにくりぬき、これでもかこれでもかと、いやがらせにあんなまねをしたにちがいないので、それにしては今までの苦心の大きかった割合に、あまりにもてっとり早く下手人のめぼしがつきすぎたものですが、しかし、だいたいのほしがついた以上はもう猶予がなりませんでしたから、小塚ッ原行きなぞはむろん不必要、伝六が聞いてきたそのならず者の宿所をたよりに、右門はすぐさまめしとりの行動を開始いたしました。
 伝六は十手、取りなわ、右門はふところ手に例の細身を長めにおとして、雨中を表へご番所を門から出ようとすると、行き違いに向こうから、意気昂然こうぜんとひとりのなわつきを従えながらやって参りました者がありました。だれでもない、あばたの敬四郎です。
「あっ!」
 同時にそれを認めた伝六があっといいましたので、右門もぴんと感じてささやきました。
「あのなわつきが、きさまの聞いたほしか!」
「そうらしいでがすよ、そうらしいでがすよ。おやじの話した人相書きによると、その若い野郎は右ほおに刀傷があるといいましたからね。ちえッ! ひと足先にやられたか。くやしいな! いかにもくやしいな!」
 まことならば万事休す!


 

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