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右門捕物帖(うもんとりものちょう)04 青眉の女

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 9:03:06  点击:  切换到繁體中文

底本: 右門捕物帖(一)
出版社: 春陽文庫、春陽堂書店
初版発行日: 1982(昭和57)年9月15日
入力に使用: 1996(平成8)年12月20日新装第7刷
校正に使用: 1996(平成8)年12月20日新装第7刷

 

右門捕物帖

青眉の女

佐々木味津三




     1

 ――その第四番てがらです。
 すでにもうご承知のごとく、われわれの親愛なる人気役者は、あれほどの美丈夫でありながら、女のことになると、むしろ憎いほどにも情がこわくて、前回のおしの城下の捕物とりもの中でも、はっきりとそのことをお話ししておいたとおり、尋常な女では容易なことに落城いたしませんので、右門を向こうへ回してぬれ場やいろごとを知ろうとするなら、小野小町か巴御前ともえごぜんでも再来しないかぎり、とうてい困難のようでございますが、まてば海路のひより――いや、捕物怪奇談でございますから、海路ではなくて怪路のひよりとでもしゃれたほうがいきでしょう。それほどの石部いしべ金吉なむっつり右門が、今回の四番てがらにばかりは珍しくも色っぽいところも少少お目にかけることになりましたから、まことに春は価千金、あだやおろそかにはすべからざるもののようです。
 ところで、その事件の勃発ぼっぱついたしましたのは、右門がおなじみのおしゃべり屋伝六とともに、前節の忍の城下から江戸へ引き揚げてまいりまして約半月後の六月初めのことでございましたが、普通ならばあのとおり遠い旅先へてごわい大捕物に行ってきたあとでございますから、月の十日や半月ぐらい大手をふって骨休みがもらえますのに、われわれのむっつり右門はどこまでも変わり者の変わり者たるところを発揮いたしまして、べつに疲れたというような顔もせず、すぐとそのあくる日からご番所へ出仕したものでありました。
 しかし、出仕はいたしましても、根が右門のことですから少々様子が変わっていますが、まず朝は五つに出勤いたしますと――五つといえばただいまのちょうど八時です。その五つかっきりにご番所へ参りますると、さっそく訴状箱をひっかきまわして、ひと渡りその日の訴状を調べます。これは自分の買って出るような事件があるかないかを当たって見るので、ないとなるとフンといったような顔つきで同心控え室の片すみに陣取り、もう右門党のみなさまがたにはおなじみな、あのひげをぬく癖をあかずにくりかえしくりかえし、半日でも一日でも金看板のむっつり屋をきめ込むのがそのならわしでした。もっとも、その間になにか珍しいお吟味でもあるときは、お白州に出向いていって、にこりともせず玉川じゃりを見つめていることもあるにはありますが、で、その日も無聊ぶりょうに苦しんでおりましたから、例のごとく同心控え室へ陣取り、そこの往来に面したひじ掛け窓の上にあごをのっけて、あの苦み走った江戸まえの男ぶりを惜しげもなく風にさらしていると、
「だんな! ね、だんなえ!」
 ささやくような小声ではありましたが、なにごとか重大なことをでもかぎ出してきたとみえて、人目をはばかりながら、ぽんと右門の肩をたたいた者がありました。いうまでもなく、おしゃべり屋の伝六でした。けれども、そういうときのむっつり右門は、まゆげが焦げだしてきてもめったに返事なぞすることではないのでしたから、振り向きもせずにぼんやりと往来の人通りを見詰めておりますと、相手にしないので伝六は少し腹がたったか、ぐいとその肩をこちらへねじ向けて、兄貴をでもたしなめるようにいいました。
「ちえッ。またなんかごきげんがわるいですね。うすみっともねえ。心中の相手を捜すんじゃあるめえし、だんなほどの人気男がぼんやり往来ばたへつら突き出して、なんのざまです。ね、いい事件あなみつけてきたんですよ」
 しかし、右門はぐいと伝六にその顔をねじ向けさせられるにはさせられましたが、依然ぼんやりと小首をかしげて、さもたいくつしきったようにむっつりとおし黙ったままでしたから、心得て伝六がかってにあとをつづけました。
「ようがす、ようがす。そんなにあごがだるけりゃ、あっしがこうやってつっかえ捧になってあげますからね、話の筋だけをお聞きなせえよ。ね、ゆうべおそくになって駆け込み訴訟をしたんだそうですが、だんなは牛込の二十騎町の質屋の子せがれが、かどわかされたって話お聞きになりませんでしたか」
「なんだ、それか。じゃ、きさま、小当たりに当たってみたな」
 すると、意外にも右門がちゃんとその事件を知っていて、あごを伝六にささえさせたまま話に乗ってまいりましたものでしたから、おしゃべり屋が急に活気づきました。
「へえい。じゃとおっしゃいましたところをみると、だんなもその事件もうご存じですね」
「あたりめえさ。それがために、毎朝訴訟箱をひっかきまわしているんじゃねえか。きさまのこったから、当たるには当たったが、しくじっちまったんだろ」
「ずぼし、ずぼし。実あ、だんなのめえだがね、あっしだっていざとなりゃ、これでなかなか男ぶりだってまんざら見捨てたもんじゃねえでがしょう。それに、なんていったってまだ年やわけえんだからね、人さまからも右門のだんなの一の子分と――」
「うるせえな。能書きはあとにして、急所だけてっとり早く話したらどうだ」
「ところが、そいつがくやしいことにはおあいにくさま。だんなの一枚看板がむっつり屋であるように、あっしの能書きたくさんもみなさまご承知の金看板ですからね。だから、はじめっから詳しく話さねえと情が移りませんが、でね、今いったとおり、あっしだってもこの広い江戸のみなさまから、むっつり右門のだんなの一の子分だとかなんだとか、ちやほやされているんでしょう。しかるになんぞや、一の子分のその伝六様がいつまでたってもどじの伝六であったひにゃ、たといだんなはご承知なすったにしても、あっしひいきの女の子たちが承知しめえと思いやしてね、ひとつ抜けがけの功名に人気をさらってやろうと思って、こっそりいましがた話のその二十騎町へちょっと小当たりに当たってきたんですが、お目がねどおり、そいつがどんなにしても、あっしひとりの力じゃ手におえなくなったんでね。だんなの知恵借りに、おっぽ振ってきたんですよ。不憫ふびんとおぼしめして聞いてくださいますか」
「ウッフフフ。若いと差しになりゃ恥ずかしくてものもいえなくなるくせに、女の子が承知しねえたあよかったよ。陽気のせいだよ、陽気のせいだよ。しかたがねえ、不憫をたれてやるから、早いとこ急所を話してみな」
「ありがてえッ。じゃ、大急行で話しますがね。あの訴え状にもあるとおり、時刻は夕がたとしてありますが、その夕がたのおよそいつ時分に、どこでどうやってあの質屋の子せがれがかっさらわれたのか、かいもく手がかりがねえっていうんでしょ。だから、こいつやり口のしっぽをちっとものこさねえあたりからいって、ただの人さらいや人買いのしわざじゃねえなとにらみましたからね、けさご番所へ来てみるてえと、まだだれも手をつけてねえようでしたから、すぐ駆けつけていったんですよ。するてえと――」
「ちょっと待ちな。その質屋は牛込のどこだとかいったな。そうそう、二十騎町といったな」
「へえい、さようで――二十騎町から市ガ谷のお見付のほうへぬけていくちょうど四つつじですよ。のれんに三河みかわ屋という屋号が染めぬいてありましたから、たぶん生国もその屋号のほうでござんしょうがね」
「ござんしょうがねというところを見ると少し心細いが、じゃ詳しい素姓は洗ってみなかったんだな」
「いいえ、どうつかまつりまして――。あっしだっても、だんなの一の子分じゃごわせんか。だんながいつも事件にぶつかったとき、まずからめてからねたを集める手口や、あっしだっても見よう見まねでもう免許ずみですからね、ご念までもなく、ちゃんともうそいつあまっさきに洗ったんですよ」
「どういう見込みのもとに洗ったんだ」
「知れたこと、牛込の二十騎町といや、ともかくも二本差りゃんこばかりの、ご家人町じゃござんせんか。こいつが下町の町人町にのれんを張っているただの質屋だったら、それほどに不思議とも思いませんがね、わざわざお武家を相手のあんな山の手に店を張ってるからにゃ、ひとくせありそうな質屋だなと思いやしたんで、あっしの力でできるかぎりの素姓を洗ったんですよ」
「偉い! 大いに偉い! おれも実あ今ちょっとそのことが気になったんで、わざときいてみたんだが、そこへきさまも気がつくたあ、なかなか修業したもんだな。おめえのてがらを待ってるとかいったその女の子のために、久しぶりで大いにきさまをほめといてやろう。やるが、それにしてはしかし、生国が三河だというだけの洗い方じゃ少し心細いな」
「だから、そのほうもだんなの知恵を借りたいといってるんでがすよ。とにかく、生国が三河であるということと、十年ばかりまえからあそこで今の質屋渡世を始めたってことだきゃはっきりと上がったんですが、それ以上はあっしの力でどうにも見込みがたちませんからね、じゃ別口でもっと当たってやろうと思いやして、子せがれの人相書きやかっさらわれた前後のもようをいろいろにかき集めてみるてえと――」
「何か不審なことがあったか」
「大あり、大あり。消えてなくなったその子せがれは、十だとか十一だとかいいましたがね、女中の口から聞き出したところによると、質屋の子せがれのくせに、だいいちひどく鷹揚おうようだというんですよ。金のありがたみなんてものは毛筋ほども知らず、商売しょうべえが商売だからそろばんぐれえはもう身を入れて習いそうなものだのに、朝っちからいちんちじゅう目の色変えて夢中になっているものは、いったいだんな、なんだとおぼしめします?」
八卦見はっけみじゃあるめえし、おれにきいたってわからねえじゃねえか。だが、察するに鷹揚おうようなところを見ると、その子せがれは万事がきっと上品で、顔なぞも割合にやさ形だな」
「お手の筋、お手の筋。そのとおりの殿さま育ちで、今いったそのいちんちじゅう目色を変えて夢中になっているっていうものがまた草双紙のたぐいというんでしょう。だから、自然おしばやのまねとか、役者の物まねばかりを覚えましてね、女中なんかにも、おれゃ大きくなったら役者になるんだって口ぐせにいってたところへ、ちょうどまた行きがた知れずになったというその日の夕がた、質屋の家のまわりをうろうろとうろついていたしばや者らしい男があったっていうんだから、あっしがこいつをてっきりほしとにらんだな、おかしくも目違いでもねえじゃごわせんか」
「たれもおかしいとはいやしないよ。このとおり、さっきから神妙に聞いているんだが、それでなにかい、知恵を借りたいっていうな、そのほしが実は目きき違いだったとでもいうのかい」
「いいえ、どうつかまつりまして。今もあっしゃ、むろんのことに、もうそいつめが人さらいのほしだとにらんでいますが、だからね、いろいろと番頭や主人にも当たって、そいつの人相書きから探りを入れてみるてえと、やっぱりしばや者で、久しいまえから家へも出入りの源公というやつなんだそうでがすよ。下谷したやの仲町に住んでいて、おくやま(浅草)の掛け小屋しばやとかの道具方をやっているというねたが上がりましたからね。こいつてっきり欲に迷いやがって、子せがれに役者の下地のあるのをさいわい、そこの小しばやへ子役にでもたたき売りやがったなと思いやしたから、さっそくしょっぴきに駆けつけていってみるてえと、少しばかり不審じゃごわせんか。野郎が裏口の日あたりへ出やがって、にたにたと青白い顔にうすっ気味のわりい笑いをうかべながら、いま切りたてのほやほやといったような子どもの足を二本、日にかわかしているんでがすよ」
「なに? 子どもの足※(感嘆符疑問符、1-8-78)
「そうでがしょう。だんなだって、そいつを聞きゃ、聞いただけでもおもわずぎくっとしなさるでがしょう。なにしろ、ももから下の両足ばかりをぶらぶらと両手にさげて、日に干していたんですからね、あっしがちっとばかり肝を冷やして、このとおり、今もおぞ毛をふるいながら、だんなのところへ、いちもくさんに知恵借りに来たな、まんざら筋にはずれたことでもねえじゃごわせんか」
「そうよな。で、なにかい、その日にかわかしていたとかいう子どもの足にゃ、ほかに何か不審と思える節は気がつかなかったのかい」
「ところが、それが大ありなんでがすよ。ね、血をね、血をぬぐいとって、もう長いこと日にあててでもいたものとみえましてね、いやにのっぺりとなまっちろいうえに、なんだか少しかさかさとしているように思えたものでしたから、このあんばいだとこいつ何かのまじないに子どもをかっさらっては足を干していやがるなと思ったんで、なまじなま兵法びょうほうに手出しをやって、せっかくのほしを逃がしでもしてはと、だんなの草香流を大急ぎで拝借に駆けつけてきたんでございますよ」
 すると、右門が、聞き終わるやいなやのように、伝六のからだをはじき飛ばすがごとく突きのけながら、すっくと立ち上がってすっくと長刀をたばさみ、両手の指節をぽきぽきと音も高らかに鳴らして、今いったその草香流、柔術やわらの奥儀を、いかにも所望どおりに貸してやろうといわんばかりなたのもしいいでたちで、黙々と表へ歩きだしたものでしたから、右門のそういうときのたのもしすぎる以上にたのもしい点をだれよりも多く知り、だれよりも多く接している伝六は、ことごとくもう親舟に乗ったような気になって、活気づきながらひとりでうれしがりました。
「ちえッ、ありがてえッ。ありがてえッ。こいつがてがらになりゃ、あっしもこれでようやっとごひいきの女の子たちに一人まえの顔が合わされるというもんだ。ねえ、だんな、このとおりにわか天気じゃござんすが、きのうまでの梅雨つゆで往来はまだぬかるみだから、ひとっ走りまたつじ駕籠かごでも仕立てますかね」
 けれども、右門の行動のうちに、伝六のそのひとりよがりを、しだいしだいにぬか喜びとさせるがごとき節が見えだしましたものでしたから、少々不思議でありました。
「――さるほどに雪姫の申すには……」
 なんという名の謡曲の文句であるか、小声で渋いのどを続けながら、片手の扇子であざやかな素謡の手の内を見せていたようでありましたが、まずだいいちにその方向が違いだしたので、伝六が必死に呼び止めました。
「あっ、だんな! だんな! そっちゃ方角違いじゃごわせんか。今のそのほしの居どころは下谷ですよ、下谷の仲町ですよ!」
 だのに、右門は右へほりばた沿いに曲がるべきところを断然反対の左へ曲がりながら、ごく澄ましきって、同じほがらかさをつづけました。
「――雪姫の申すには、われ今生に生まれおちて、いまだ情けの露を知らず、いまだ情けの露を知らず、のうのうそこの影法師、わがために情けがあるならば、日のみ子の顔見せてたべ、われみずから露となって散らむ、みずから露となって散らむ――」
 ゆうゆうとうたいながら、京橋めがけてやって参りましたようでしたが、そこの橋のたもとについせんだってから昼屋台を出している『いさこずし』というのへぬうと首をつっ込むと、おちつきはらってあなごをもうその指先につまみだしたものでしたから、あっけにとられて伝六があたりかまわずに口をとんがらかしました。
「ちえッ。すし屋なんぞは今でなくとも逃げやしねえじゃごわせんか! 下谷のほうはいっときを争うってだいじなどたん場ですよ。また夢中になって、がつがつといくつ召し上がるんですか! あなごの味を知らねえ国から来たんじゃあるめえし、いいかげんにおしなすって、早く草香流の腕まえを貸してくだっせえよ」
 しかし、右門は目をほそくしながら、伝六ではなく、そこのおやじに、ごく上のきげんでいったものです。
「ほう。あなごばかりと思ったら、こっちのはまのほうもなかなかの味だな。この梅雨つゆどきに、これほどの薄酢だけで、かくもみごとな味をもたせる腕まえは、どうして江戸随一じゃ。これからもちょいちょいやっかいかけに参るによって、よく顔を覚えておきなよ。あなごと蛤をまたたくうちに二十平らげたおおぐらいの男と思ってな――」
 そして、満腹そうにほうじ立ての上がりばなを喫しながら、小ようじで並びのいい歯の上下をさかんにせせくっていましたが、ちゃらりとそこへ小銀を投げ出すと、のどを鳴らしながらも手を出しえないほどに、もうさっきからひとり気をあせりきっていた伝六のほうへようやくにふり返って、おどろくべきことをごくさわやかにいったものでした。
「だいぶ手間どらしたな。おかげでじゅうぶんの満腹、これでぐっすり昼寝もできるというものだ。じゃ、おれはこれからお小屋にかえってひと寝入りするからな。また、晩にでもなったら遊びにきなよ」
 しかも、人を食ったあいさつをしたばかりではなく、ほんとうに八丁堀めがけてさっさと帰りかけたものでしたから、伝六のかんかんにおこってしまったのはむろんのことです。
「えッ。じゃ、なんですかい。だんなはあっしにこれまで気を持たせておいて、あんたには一の子分がせっかくてがらをしようていうのに、お自分は高見の昼寝で、あっしなんぞは見殺しになさるご了見でげすかい」
 けれども、右門はさようとも、いいやともいわずに、さっさと引き揚げていってしまったものでしたから、かんかんどころか、たこのようになって伝六があびせかけました。
「じゃ、もうようござんす! あっしも江戸のおかきだ、手を貸してやろうっていったって頼むことじゃねえんだから、あとでじだんだ踏みなさんなよ!」
 むきになって下谷を目がけて駆け去りましたが、それすらも右門には耳にはいったかどうか疑わしいくらいのものでした。


 

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