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右門捕物帖(うもんとりものちょう)10 耳のない浪人

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 9:12:54  点击:  切换到繁體中文

底本: 右門捕物帖(一)
出版社: 春陽文庫、春陽堂書店
初版発行日: 1982(昭和57)年9月15日
入力に使用: 1982(昭和57)年9月15日新装第1刷
校正に使用: 1996(平成8)年12月20日新装第7刷

 

右門捕物帖

耳のない浪人

佐々木味津三




     1

 ――今回は第十番てがらです。
 ところが、少しこの十番てがらが、右門の捕物とりもの中でも変わり種のほうで、前回にご紹介いたしました九番てがらの場合のごとく、抜くぞ抜くぞと見せかけてなお抜かなかったむっつり右門が、今度ばかりはほんとうにあの細身の一刀をさや走らせて、切れ味一品のわざものにはじめてたっぷり人の生き血を吸わすることとなりましたから、いよいよ右門の捕物秘帳は、ここにいっそうの凄艶せいえんみと壮絶みとをそのページの上に加えることとなりました。
 事件の勃発ぼっぱついたしましたのは、前回の遊女事件が終結を告げまして幾日もたたないまもなくのことでしたが、例年のごとくにまた将軍家がご保養かたがたお鷹狩たかがりを催すこととなりまして、もうその日も目前に迫ってまいりましたから、今でいえば当日の沿道ご警戒に対する打ち合わせ会とでも申すべきものでしょう、ご奉行ぶぎょう職からお招き状がありましたので、右門も同役たち一同とともにそのお私宅のほうへ参向いたし、何かと協議を遂げて、お組屋敷へ引きさがったのは、かれこれもう晩景に近い刻限でした。
 ところが、帰ってみると、火もつけないで暗い奥のへやに、るす中例のおしゃべり屋伝六がかってに上がり込んで、ちょこなんとすわっているのです。伝六とても生き物である以上は、ときに横へはうこともあるであろうし、あるいはまたさかだちもするときがあるでしょうから、たまにお行儀よくすわっていたとて、なにもことさらに不思議がる必要はありませんが、どうしたことか、そのすわり方というものがまたおそろしく神妙で、あの口やかましいがさつ者が、まるで人が変わったようにひどくきまじめな顔をしながら、しきりとなにか考え込んでいたものでしたから、珍しく主客が変わって、きょうばかりは右門が聞き役となりました。
「どうしたい。いやにおちついているが、おへそのつくだ煮でも食べすぎたのかい」
 すると、伝六が黙ってなにか気味のわるいものでも見るように、向こうのへやのすみをあごでしゃくったものでしたから、なにげなく右門も視線を移すと、少しばかりめんくらいました。そこの薄暗いへやのすみに、豆からはえた子どもではないかと思われるくらいな、珍しいほどにも小造りのちまちまっとした少年僧が、衣のそでをたくしあげて、いかにもこまちゃくれたかっこうをしながら、ちょこなんとこちら向きにすわっていたからです。たいていなことにはおどろかない右門でしたが、それにしてもその豆僧の小さかげんというものは、むしろかわいさを通りこして少しおかしいくらいでしたから、ついいぶかしさのあまり冗談をいって尋ねました。
「ひどくまとまって粒がちっちゃいが、まさかおもちゃじゃあるまいね」
「そう思えるでしょう、だから、あっしもさっきからこうやって、しげしげと見物していたんですよ」
「じゃ、おめえが連れてきたんじゃねえのかい」
「いいえ、連れてきたな、いかにもあっしですがね、それにしたって、どうも少し変わりすぎているから気味悪がっているんですよ」
「何が変わっているんだ、少し造りが小粒なだけで、見りゃなかなか利発そうじゃねえか」
「ところが、いっこうバカだかりこうだか見当がつかねえんですよ。年はやっと九つだとかいうんだがね。さっき通りがかりに見たら、くまを切るんだといって、しきりとつり鐘をたたいていたんですよ」
「禅の問答みたいだな。じゃなにかい、そのつり鐘がくまのかっこうでもしていたのかい」
「いいえ、それならなにもあっしだって不思議に思やしねえんだがね。実あきょういけはたにちょっと用足しがあって、いまさっき行ったんですよ。するてえと、そのかえり道に切り通しを上がってきたらね、あそこの源空寺っていうお寺の門前で、しきりとこのお小僧さんが、その門のところにひっころがしてあったつり鐘を竹刀しないでたたいていましたからね、なにふざけたまねするんだ、つり鐘だってそんなものでたたかれりゃいてえじゃねえかっていったら、いまさっきいったように、こうやってくまを切るんだっていうんですよ」
「じゃ、それがおかしいんで、ひっぱってきたんだな」
「ええ、ま、そういえばそうなんだが、その先が少し不思議だから、そう急がずにお聞きなせえよ。だから、あっしも妙なことをいう豆僧だなと思いましたからね、だって、このつり鐘がくまの形も犬のかっこうもしていねえじゃねえかってきいてやったら、あたりめえだい、つり鐘がくまやこまいぬのかっこうしていたら、おじさんの頭はとっくに三角のはずだいって、こんなことをいうんですよ」
「ほほう、なかなか達者だな。じゃ、なんだっていうんだな。そのつり鐘をけいこ台にして、剣術のけいこでもしていたっていうんだな」
「そ、そうなんですよ。だから、いよいよいわくがありそうだなと思いやしたから、どこにそのくまがいるんだってきいてやったら、どこにいるかわからねえが、うちのたいせつなあんちゃんがそのくまに殺されたから、それでかたきを取るためこうやって、毎日けいこしているんだっていうのでね、ひょっとすると、こいつあまただんなの畑だなと気がついたものだから、何はともあれいっぺんおめがねにかけなくちゃと思って、わざわざひっぱってきたんですよ」
「そうか、なかなか禅味のある話でおもしれえや。じゃが出るかへびが出るか知らねえが、じゃおれがひとつ当たってやろう」
 すでになにか見抜いたところでもあるかのごとく、右門はまず一服というようにしみじみと茶をたしなんでいましたが、そこへ伝六がを入れて短檠たんけいを持ってきたので、すわり直しながら少年僧を手招きました。
 すると、少年僧は恐るるけはいもなくちょこちょこと前へ進みながら、さすがは作法に育てられた仏弟子ぶつでしだけあって、活発にあいさつをいたしました。けれども、まだなんといっても頑是がんぜない子どもでしたから、あいさつはあいさつであっても、少々ばかりふるった口上でありました。
「遠いところをよくいらっしゃいました」
 つい平生お寺で人の顔をみたらそういえと教えられてもいたものか、主客をまちがえて主人の右門によくいらっしゃいましたといったものでしたから、むろんのことに思いやりのない伝六はぷッと吹き出しましたが、しかし右門は反対に、かえってそのむじゃきなまちがいが愛くるしさを添えましたので、目を細くしながら答えました。
「はいはい、これはどうもごていねいなごあいさつで痛み入りました」
 そして、自分の手あぶりを半分そちらへ回してやると、赤くかじかんでいる少年僧の豆みたいにちっちゃな両手を、上下から暖めるように持ち添えてやりながら、やさしく尋ねました。
「お名まえはなんといいますな」
「モクザンと申します」
「モクザン……? モクとはどのように書きますな?」
「黙った山と書きます」
「ああ、なるほど、その黙山でありましたか。なかなかよいお名まえでありますな。生まれたお国は?」
天竺てんじくだと申しました」
「なに、天竺……? 天竺と申せばからの向こうの国じゃが、どなたにそのような知恵をつけられました」
「うちのお師匠さまが申されました。仏の道に仕える者は、みんな如来にょらいさまと同じ国に生まれた者じゃとおっしゃいましたので、おじさんとても万一わたくしのお弟子になるようなことがござりますれば、やはり天竺の生まれになります」
「ははあ、なるほどな、なかなか利発なことをいいますな。きけばお兄いさまがあったそうじゃが、おいくつでありました」
「十二でござりました」
「ほう。では、そなたのようにかわいかったでありましょうな」
「はい、みなさまが源空寺の豆兄弟、豆兄弟とおっしゃいまして、ときどきないしょに、くりのきんとんなぞをくださりました」
「ほほう、くりのきんとんをとな。では、お兄いさまもそなたのように源空寺へお弟子でし入りをしていましたのじゃな」
「はい、鉄山と申しまして、わたくしよりか太鼓を打つことがじょうずでありました」
「なるほどのう。でも、今きけばくまに殺されたとかいうてでしたが、そのくまというのは、けだもののくまでありましたか、それともくまという名の人でありましたか」
「それがくまという名の人じゃやら、けだもののくまじゃやらわかりませぬゆえ、毎朝おときのおりにいっしょうけんめい如来にょらいさまにもお尋ねするのだけれど、どうしたことやら、阿弥陀あみださまはなんともおっしゃってくださりませぬ」
 いうと少年僧は、阿弥陀如来の何もいってくれぬことが、くやしくてくやしくてならぬというように、突然じわじわと両眼をいっぱいのしずくにうるませました。右門もついそのむじゃきな信仰に胸を打たれて、ほろほろと涙を催しましたが、それだけにいっそうこの少年僧の偽りを含まぬ陳述は、しだいに職業本能をそそりましたので、語をつづけながらさらにやさしく尋ねました。
「では、お兄いさまが、どこで、どのようにご最期をとげたかもわかりませんのじゃな」
 すると、少年僧は急に元気づいて、活発に陳述いたしました。
「いいえ、そのことならばよう存じてござります。つい十日ほどまえの晩がたでござりましたが、お師匠さまのお使いで浅草へ参りましたのに、どうしたことやらお帰りがおそうござりましたので、わたしがあそこの門前へ出てお待ちしておりましたら、衣までまっかになさって、よろよろしながら帰ってまいりますると、いきなりわたくしの足もとへばったり倒れたのでござります」
「ほう。では、そのときお兄いさまはどこぞ切られておいでなすったのじゃな」
「はい、肩のところを大きくぐさりと切られてでござりました」
「肩をのう。それで、そなたはどういたしました」
「だから、いっしょうけんめい傷口のところを押えて、お兄いさまお兄いさまと呼んでさしあげましたら、くまにやられた、くまにやられた、とこのように、たったふたことおっしゃっただけで、それっきりもう極楽へいんでしまわれました」
「なに、たったふたこと? では、どこでそのくまに会うたかもいわずにいんでしまわれたというのでありますな」
「はい、よっぽどおくやしそうだったとみえて、息が絶えてしまうときにも、お兄いさまはお目々にいっぱい涙をためてでござりました」
「おかわいそうにのう、そなたもさぞお力おとしでありましたろう。――では、それゆえ人間のくまじゃやら、けだもののくまじゃやらわからぬけれど、お兄いさまのかたきを討つために、ああして毎日、つり鐘と剣術のおけいこをしていなさるのじゃな」
「はい。如来にょらいさまの教えのうちには殺生戒せっしょうかいとやら申すことがあるんじゃそうにござりますけれど、わたくしとふたりできんとんをないしょにいただいたほかには、なに一つわるいことをせぬあんなおやさしいお兄いさまですもの、くやしゅうてなりませぬ」
 言い終わると、少年僧はじいっと空をみつめて、太鼓を打つことがじょうずだったというその兄僧が、どんなに自分にとってやさしくなつかしい存在だったかを新しく思い出しでもしたかのように、きらきらとまたまつげをしずくにぬらしました。


 

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