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右門捕物帖(うもんとりものちょう)20 千柿の鍔

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 9:28:18  点击:  切换到繁體中文


     3

 行きついたとき、初更のちょうど五ツ――
「ここだッ。ここだッ。ここが千柿老人の住まいでこぜえます! 今度ばかりゃ、いかなどじの伝六でもへまをするこっちゃねえから、あっしに洗わしておくんなせえまし! 石にかじりついても辰のかたきを討って成仏させてやらなくちゃ、兄分がいがねえんだから、伝六に男をたてさせておくんなせえまし!」
 手がかりの一刀を名人の手から奪い取って、矢玉のようにおどりこむと、そこの細工場でこつこつと刻んでいた千柿老人に鍔元つばもとをさしつけながら、かたきが目の前にいでもするかのように、どもりどもりやにわといいました。
「こ、こ、これに覚えはねえか!」
「…………?」
「急ぐんだッ、パチクリしていねえで、はええところいってくれッ。この鍔は、どこのどいつに頼まれて彫ったか覚えはねえか」
「控えさっしゃい」
「控えろとは何がなんだッ。右門のだんなと、伝六親方がお越しなすったんだッ。とくと性根をすえて返事しろッ」
「どなたであろうと、まずあいさつをさっしゃい!」
「ちげえねえ! ちげえねえ! おいらふたりの名めえを聞いても恐れ入らねえところは、さすがに名人かたぎだな! わるかった! わるかった! じゃ、改めて、こんばんはだ。この鍔に覚えはねえか!」
「なくてどういたしましょう! まさしく、こいつはてまえが、大小そろえ六年かかって刻みました第八作めの品でございますよ」
「そうか! ありがてえ! 注文先はどこのどいつだ!」
生駒いこまさまのご家来の――」
「なにッ。ああ、たまらねえな! だんな! だんな! 眼だッ、眼だッ、眼のとおりだッ――あっしゃ、あっしゃもう、うれしくって声が、ものがいえねえんです! 代わって、代わって洗っておくんなせえまし……! うんにゃ、まて! まて! やっぱりあっしが洗いましょう! 辰が喜ぶにちげえねえから、あっしが洗いましょう!――とっさん! 生駒のご家来の名はなんていう野郎なんだッ」
権藤四郎五郎左衛門ごんどうしろうごろうざえもん様といわっしゃる長い名まえのおかたでございますよ」
「身分もたけえ野郎か!」
「野郎なぞとおっしゃっちゃあいすまぬほどのおかたでごぜえます。禄高ろくだかはたしか五百石取り、三品流みしなりゅうの達人とかききましたよ」
「つらに覚えはねえか!」
「さよう……?」
「覚えはねえか! なんぞ人相書きで目にたつようなところ、覚えちゃいねえか!」
「ござります。四十くらいの中肉中背ちゅうぜいで、ほかに目だつところはございませぬが、たしかに左手の小指が一本なかったはずでござります」
「ありがてえ! ありがてえ! ああ、ありがてえな!――だんな! だんな! お聞きのとおりでごぜえます。これだけの手がかりがありゃ、ぞうさござんすまいから、はええところなんとかしてくだせえまし! どけえ逃げやがったか、はええところ眼をつけておくんなせえまし!」
「よしッ。泣くな! 泣くな!」
 じっとうち考えていましたが、ひらりと駕籠にうち乗ると、
「お陸尺ろくしゃく! お屋敷へ!」
 いかなる秘策やある?――ふたたび豆州ずしゅう家のお下屋敷目ざして息づえあげさせました――雪はもとより降りつづいて、文字どおりの銀世界。ぼうッと夢のようにぼかされた白銀しろがねのその雪の夜道を、豆州家自慢のお陸尺たちは、すた、すた、と矢のように飛びました。
 行きついたときは――天下の執権松平伊豆守様がお手ずからもったいないことです。恩顧の隠密おんみつ古橋専介のむくろに並べて、善光寺辰こと辰九郎のなきがらをもいっしょに、お屋敷内の藩士たまりべやに安置しながら、香煙縷々るるとしてたなびく間に、いまし、おみずからご焼香あそばさっていられるところでした。
「御前!」
「おお! 首尾はどうじゃ!」
「もとより――」
「上首尾じゃと申すか!」
「はっ。下手人はやはり生駒家がお取りつぶしになるまでろくをはんでいたやつにござりまするぞ」
「では、新しゅう浪人となった者じゃな!」
「御意にござります。生駒家お取りつぶしとともに、浪人となったはずにござります。それゆえ――」
「なんじゃ! 余になんぞ力を貸せと申すか」
「はっ。てまえ一人にてぜひにも捜せとのごじょうでござりますれば、少しく日にちはかかりましょうとも、必ずともに潜伏先突きとめてお目にかけまするが、古橋どのはもとよりのこと、辰九郎ことも御前にはご縁故のものにござりますゆえ、できますことなら――」
「わかった! わかった! 力を貸す段ではないが、余に何をせよというのじゃ」
「下手人はこのごろ新しく浪人になった者でござりましょうとも、浪人とことが決まりますれば、御前の、あの――あとはご賢察願わしゅう存じます」
「おお! そうか! しかとわかった! いうな! いうな! あとをいってはならぬ! その者はどのような人相いたしているやつじゃ」
「四十年配の中肉中背で、左手の小指が一本ないやつじゃそうにござります」
「それだけわかっていればけっこうじゃ。――みなの者も人相書きのことを聞いたであろうな」
 宰相伊豆守は、かたわらに居流れていた近侍の面々を顧みると、猪突ちょとつに命じました。
「わからば、采女うねめ! そちが采配さいはい振って、火急に七、八頭ほど、早馬の用意せい!」
 不思議な命令です。早馬を八頭近くも用意させて、いずこへ飛ばせようというのか! 浪人者と決まりますれば、御前の、あの――あとはご賢察願わしゅう存じます、といった御前のあの、というその「あの」なる「あの」はなんであるか?――よしわかった。いうな、いうな、あとをいってはならぬ、といったその「あと」なる「あと」は、いかなるなぞであるか?――。いつもながら、捕物名人と、名宰相とのやりとりは、まこと玄々妙々の腹芸ですが[#「ですが」は底本では「ですか」]、しかし、ありようしだいを打ち割ってみれば、不思議でもない、不審でもない、名人のいったその、御前のあのなる「あの」は、伊豆守の浪人取り締まり政策を利用しようというのでした。ご存じのごとく、松平信綱という人は、ほとんどその半生を浪人の弾圧取り締まりに費やした秘密政治家の大巨頭です。なかんずく、この事件の前後における時代は、浪人のほうも極度に跋扈ばっこし、伊豆守のほうでもまた、極度に弾圧取り締まりに力をつくした時代で、ご府内すなわち江戸市中に浪人の潜入し、跋扈するのを防ぐために、五街道ごかいどうへの出入り口出入り口に、浪人改めの隠し目付け屯所とんしょなるものを秘密に設け、すなわち、東海道口は品川の宿、甲州街道口は内藤新宿ないとうしんじゅく中仙道なかせんどう口は板橋の宿、奥羽、日光両街道口は千住せんじゅに、それぞれまったくの秘密な隠し屯所を設けて、四六時中ゆだんなくそれらの五街道口を出入する浪人の身分改め、ならびに不審尋問を行ない、市中そのものにはまた一町目付けという隠語をもって呼ばれた、同じ浪人取り締まりの隠し目付け屯所を各町各町に設置しておいて、ある者は町人に化け、ある者はまた職人にやつして、市中在住の浪人どもを絶えず監視せしめ、かつまたその動静を内偵せしめて、大小残らずの報告を細大漏らさずおのれの身辺へ集中せしめるような、じつにおびただしくも精密な取り締まり網が張りめぐらされていたことを熟知していたればこそ、名人はさとくもそのくもの手のごとき浪人取り締まり網を利用しようと思いついたのでした。もしも、権藤四郎五郎左衛門なる長い名のその生駒家新浪人が、いちはやくご府外へ逐電したならば、五街道口のいずれかの隠し屯所へ、まだ市中に潜伏しているならば一町目付けのどこかの隠し場所へ、必ずなんらかの足跡動静を残しておいたであろうと知ったからです。
 命ぜられた采女以下の近侍も、もとよりそれなる浪人網は熟知してのこと、たちまちそこへ引き出した馬は、いずれも駿馬しゅんめの八頭でした。秘密の急使に立つ乗り手の八人は、伊豆小姓と江戸に評判の美童ぞろい――。
「おう、いずれも用意ができたな。よいか、四人は街道口隠し屯所へ。あとの四人は市中の一町目付けへ、いま右門が申した人相書きの浪人を目あてに、ぬかりなく動静探ってまいれよ。念までもあるまいが、隠し屯所へ出入りいたすときは、人に見とがめられぬよう、じゅうぶんに注意いたすがよいぞ」
「はっ」
 とばかりに八美少年は、馬上ゆたかに雪の道を、八方に散っていきました。――ときに二更近くの五ツ下がり。


 

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