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やどなし犬(やどなしいぬ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-12 9:53:43  点击:  切换到繁體中文


       二

 あくる朝、肉屋がいつもの時間に店をあけますと、犬はもうちゃんと来てまっていて、くんくん言いながら尾をふります。肉屋は町じゅうの人々や、買いものに来たお客たちに一々その犬の話をして聞かせました。すると、だれもかれも、
「へえ。」と感心して、犬を見入ったり、くびをなでたりしていきます。犬はやはり夕方まで店の番をつづけました。肉屋はきょうは肉の分量を少しおおくしてやりました。犬はあいかわらずそれをくわえてかえっていきました。肉屋はそのあとから、水さしに水を入れて、それをもってついていきました。
「どら、おれもいって見よう。」と、話を聞いた、となりの人も一しょに出かけました。
 それからいく週間もたちました。感心な犬の話は、そこからかしこへとつたわって、町中で大評判になり、わざわざ肉を買いがてら見に来る人もあったりして、肉屋ははんじょうしました。
 そのうちに夏が来ました。或朝のことです、これまではいつもひとりで来つづけていた犬は、その日は、ほかの一ぴきの犬と二人で店先へ来ていました。犬は、つれの犬を肉屋にひきあわすように、くんくん言い言い尾をふりました。片方は、やせ骨ばって、よろよろしています。それが、こわごわ肉屋の足もとへ来て、顔を見上げました。れいの病犬が歩けるようになって、一しょに来たのです。肉屋は、
「おお、よく来たね。」と、病犬をなでて、上等の肉を切ってなげてやりますと、すぐにがつがつ食べました。せんからの犬はそれを見て、さも満足したように尾をふりました。それからは毎朝ふたりで出て来ました。ふたりとも店の中へは、めったにはいらないで、しき石の上にすわっていたり、そこいらを歩いて来たりします。ふたりがけんかなぞをしたことは、ただの一どもありません。夕方になると、いつも肉のきれをもらって食べて、ふたりで町はずれの寝場所へかえっていきます。町ののら犬たちも、このふたりが肉屋のまえにいるのを、もうあたりまえのように思って、けっしてあらそいもせず、さっさととおっていきます。たまに、はじめてまよいこんで来た犬などが、肉屋の店先にでも近よりますと、ふたりの犬はうんうんおこって、すぐにみぞの中へおとしこんだりします。そのころでは、もはや、町中全部の人が、そのふたりの犬のことを話にのぼしました。
 そのうちに、町には急に或大工場が出来て、何千人という職工たちが移住して来ました。そのために、町のそとへは、どんどんうちがたちつまりました。こうして町が大きくなるにつれて、方々からいろいろの人がどっさりりこんで来ます。その中には、浮浪人ふろうにんもかなりたくさんいて、いろいろわるいことばかりするので、警察も急にいろいろのやかましい法令をつくり、ついで衛生上のことにもあれこれと手をつくし出した結果、恐水病きょうすいびょうをふせぐために、町中に、のら犬を歩かせないことにきめてしまいました。その手段として、警察では、ほろのついた、大きな野犬やけん運ぱん用のはこぐるまをつくり、それを馬にひかせて、飼主のわからない犬を見つけると、片はしからつかまえてつんでいき、きまった撲殺場ぼくさつじょうへもってって殺しました。
 ほろ馬車のはこは、鉄のこうしがはまって、中に入れられた犬が見えるようにしてあります。ふとしてくび輪をつけわすれたりしていたために、野犬としてつかまえていかれた場合には、警察へいって罰金をおさめると、はこから出してわたしてくれるのでした。町の人たちの中には、このとりしまり法のために、たとえ野犬でも、いつも来なれていた犬がどんどんひっくくられていくので、恐水病のおそれよりもまえに、じつにひどいことをすると言って、警察へ悪感情をいだくものがずいぶんいました。
 或日、そのほろ馬車の一つが、びっこの馬へびしびしむちを入れながら、でこぼこのしき石の上をがたがたと、肉屋のとおりへはいって来ました。
「やあ、来た来た、犬殺しの馬車が来た。」と、向いの人が往来でどなりました。肉屋は、
「どら。」と言って出て見ました。馬車のうしろには巡査が乗って、野犬はいないかと目を光らせています。
「だんな、うちの犬が二ひきとも見えないがだいじょうぶでしょうか。」と店のものが言いました。
なあに。あいつは二ひきともきびんだからだいじょうぶだよ。」と言っているうちに、馬車は、十四、五けん手前で、ぱたりととまりました。
「おや。」と思って見ていますと、巡査は、先に針金はりがねの輪のついた、へんな棒きれをもったまま、馬車を下りて、そこの横丁へはいっていきました。と、一分間もたたないうちに、巡査は、犬を一ぴきつかまえて引きずッて来ました。犬はきゃんきゃんなきなきていこうしましたが、くびに綱を引っかけられて、ぐんぐん引っぱられるのですからかないません。馬車使つかいは、すばやく鉄ごうしの戸をあけました。犬はたちまちその中へなげ入れられ、綱をとかれてとじこめられてしまいました。
「あきれたね。」と言いながら、肉屋は馬車に近づきました。警官は馬車のうしろへ乗りました。馬車使はちょっととびりて馬の頬革ほおかわをしめなおしています。肉屋がのぞいて見ますと、中には二十ぴきばかりの犬がごろごろしています。まさか、うちの犬はいないだろうな、と、よく見ようとするとたんに、「わうわう。」と、かなしそうなうなり声を上げた犬がいます。肉屋は、おやッとびっくりしました。うちの犬がつかまっているのです。病犬もいます。二ひきともやられてしまったのです。馬車使は車台しゃだいへあがりました。
「おいおい、ちょっとまった。」と、肉屋はまっ青になって、馬のくつわを引ッつかみながら、巡査に向って、
「もしもし、わたしんとこの犬を二ひきとも出して下さい。何という乱暴なことをするんだ。」とってかかりました。
「どけよ。野犬なら仕方がないじゃないか。こら。」と言いながら、馬車使は、ぴしんとむちで肉屋をなぐり、馬にもぴしぴしむちをあてて、かけ出そうとしました。
「ちきしょう、人をぶちゃァがったな。」と言いながら、肉屋は、すとんと馬車使を引きずりおろしてつきはなし、馬の口をもって、むりやりに店先の方へまわすはずみに、馬は足をすべらして、ばたんとたおれかけました。
なんだ何だ。」
「どうしたんだ。」と、町中のものや通行人たちがどやどやかけつけて来ました。
「こいつらがおれんとこのあの犬を、二ひきともひっくくりゃァがったんだ。りろ、きさま。」と肉屋は巡査の足をつかまえて、むりやりに引きずりおろしました。人々はみんな、あの二ひきの犬の同情者であるのは言うまでもありません。みんなは、
「なぐれなぐれ。」と言って、巡査をとりかこみました。そのうちに、気の早い男が、大きなおおおのをかかえて来て、がちゃん/\と馬車をこわしはじめました。巡査はみんなにつきとばされ、けりつけられて、よろよろしながら、そばの或店の中へにげこみました。そのあいだに、またある一人が鉄の棒をもって来て、がちゃんがちゃんと馬車をたたきつけ、とうとうふたりで鉄ごうしをやぶってしまいました。中の犬たちはおおよろこびでとび出して、八方へにげていきました。肉屋の二ひきの犬は肉屋の足もとへとんで来て、くんくん言ってよろこびました。
 こんなさわぎがあってから、二、三年ののちです。ふたりは、やはり毎日一しょに出て来ましたが、そのうちに、もと病犬だった方は、だんだんにのつやがなくなり、のちには、あばら骨がかぞえられるほどやせて来て、食べものもろくに食べなくなり、店先へ出て来ても、ただ一日じゅう、しき石の上にごろりとなったきりで、ときには、何時間となく、こんこんと眠りつづけています。目も急にかすんで来たようです。肉屋はくびをかしげて考えました。
 夕方になると、その犬は、もうひとりの犬について、よちよちと寝どころへかえっていきます。ところが或とき、犬は一ぴきだけ来て、そのやせた犬は一日いちんちすがたを見せない日がありました。出て来た方は、夕方になると、もらった肉のきれを食べないでくわえてかえりました。
「ふふん、とうとうまた寝ついてしまったな。」と言い言い、肉屋は、あとからついていって見ました。犬の寝場所は、もとのところは、家でもたちつまっておいたてられたと見えて、せんとはちがった場末ばすえの、きたない空地あきちにうつっていました。病犬は、そこにころがっているふる材木の下にこごまって、苦しそうに腹でいきをしていました。
 肉屋は、あくる日、大きなあきだるをもって来て、わらをどっさり入れて、小屋がわりにおいてやりました。そのあくる日は、どうしたものか、じょうぶな方の犬も出て来ません。肉屋はへんだとおもっていって見ますと、じょうぶな方の犬はたるのまえにすわって、中にいる病犬の見はりをしていました。
「おい、どうしたい。」と、そのくびをなでたのち、
「これこれ、おれだよ。おきないか、おい。」と言って、中の犬をよびました。しかし犬は、目もあけないで、ぐんなりしているので、肉屋はひきおこしてやろうと思って、手をのばして、からだにさわりましたが、いきなり、あッと言って手を引っこめました。犬は、もう死んでつめたくなっていたのです。
 肉屋は、そこいらの片すみへ穴をほって、おお/\、かわいそうに/\と言い言い、死がいをうめてやり、その上へ土をもり上げました。もうひとつの犬は、かなしそうに、くんくんなきなきうろうろしていました。
 そのあくる日、肉屋は、のこった犬をその空地あきちへかえさないようにして、すべてをわすれさせてやろうと思って、じぶんの家のうら手へきれいなわらをしいたはこをすえてやりました。しかし犬はどうしてもそこへ寝ないで、かえっていきます。ときには、もらった肉を、そのままくわえていくこともありました。へんだと思って、そのつぎの日についていって見ますと、きのうもってかえった肉は、そのままたるのまえにころがっていました。犬は、ときどきあの犬がなくなってしまったのをわすれて、ものを食べさせようと思ってはもってかえるものと見えます。店先へ来ているあいだも死んだ犬と同じ毛色の犬がとおりかかると、いそいでとび出して、じろじろ見ていますが、間ちがったとわかると、さもがっかりしたように、しおしおとひきかえして来ます。
 犬はそののち、だんだんにやせて元気がなくなって来ました。出て来ても、これまでのように、店の番もせず、何かなくしたものをさがすように、そこいらをまわって歩いたり、からになったような目つきをして、ものうそうに一つところを見つめていたりします。毛色も目立って灰色になり、皮がたるんで、だんだんにあばら骨まで見えて来ました。肉屋は、そのすべてが、みんなあの犬をうしなったかなしみから来ているのだと思うと、かわいそうでたまりませんでした。
 その年の冬近くでした。犬はいよ/\よぼ/\におとろえてしまいました。或日、一日中いちんちじゅうちっともすがたを見せないので、肉屋は夕方、れいの空地へ出かけて見ますと、犬は、たるの中で死んでいました。
 肉屋は、その死がいをいつまでもなでつづけていましたが、間もなく、うちへかえって、シャベルとズックのきれとをもって来ました。そして、せんの犬のつかのとなりへ穴をほり、死がいをていねいにズックのきれでつつんで中へ入れ、ちゃんと土をもり上げました。そしてシャベルの土をおとしおとししていましたが、とうとうたまらなくなって、おんおん泣き出しました。





底本:「鈴木三重吉童話集」岩波文庫、岩波書店
   1996(平成8)年11月18日第1刷発行
底本の親本:「鈴木三重吉童話全集」文泉堂書店
   1975(昭和50)年
初出:「赤い鳥」
   1924(大正13)年1月
入力:鈴木厚司
校正:佳代子
2004年1月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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●表記について
  • このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
  • 「くの字点」は「/\」で表しました。
  • 傍点や圏点、傍線の付いた文字は、強調表示にしました。

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