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蜘蛛となめくじと狸(くもとなめくじとたぬき)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-10-29 15:54:24  点击:  切换到繁體中文

 蜘蛛と、銀色のなめくじとそれから顔を洗ったことのない狸とはみんな立派な選手でした。
 けれども一体何の選手だったのか私はよく知りません。
 山猫(やまねこ)が申しましたが三人はそれはそれは実に本気の競争をしていたのだそうです。
 一体何の競争をしていたのか、私は三人がならんでかける所も見ませんし学校の試験で一番二番三番ときめられたことも聞きません。
 一体何の競争をしていたのでしょう、蜘蛛は手も足も赤くて長く、胸には「ナンペ」と書いた蜘蛛文字のマークをつけていましたしなめくじはいつも銀いろのゴムの靴(くつ)をはいていました。又(また)狸は少しこわれてはいましたが運動シャッポをかぶっていました。
 けれどもとにかく三人とも死にました。
 蜘蛛は蜘蛛暦(くもれき)三千八百年の五月に没(な)くなり銀色のなめくじがその次の年、狸が又その次の年死にました。三人の伝記をすこしよく調べて見ましょう。

   一、赤い手長の蜘蛛

 蜘蛛の伝記のわかっているのは、おしまいの一ヶ年間だけです。
 蜘蛛は森の入口(いりくち)の楢(なら)の木に、どこからかある晩、ふっと風に飛ばされて来てひっかかりました。蜘蛛はひもじいのを我慢(がまん)して、早速(さっそく)お月様の光をさいわいに、網(あみ)をかけはじめました。
 あんまりひもじくておなかの中にはもう糸がない位でした。けれども蜘蛛は
「うんとこせうんとこせ」と云(い)いながら、一生けん命糸をたぐり出して、それはそれは小さな二銭銅貨位の網をかけました。
 夜あけごろ、遠くから蚊(か)がくうんとうなってやって来て網につきあたりました。けれどもあんまりひもじいときかけた網なので、糸に少しもねばりがなくて、蚊はすぐ糸を切って飛んで行こうとしました。
 蜘蛛はまるできちがいのように、葉のかげから飛び出してむんずと蚊に食いつきました。
 蚊は「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」と哀(あわ)れな声で泣きましたが、蜘蛛は物も云わずに頭から羽からあしまで、みんな食ってしまいました。そしてホッと息をついてしばらくそらを向いて腹をこすってから、又少し糸をはきました。そして網が一まわり大きくなりました。
 蜘蛛はそして葉のかげに戻(もど)って、六つの眼(め)をギラギラ光らせてじっと網をみつめて居(お)りました。
「ここはどこでござりまするな。」と云いながらめくらのかげろうが杖(つえ)をついてやって参りました。
「ここは宿屋ですよ。」と蜘蛛が六つの眼を別々にパチパチさせて云いました。
 かげろうはやれやれというように、巣(す)へ腰(こし)をかけました。蜘蛛は走って出ました。そして
「さあ、お茶をおあがりなさい。」と云いながらかげろうの胴中(どうなか)にむんずと噛(か)みつきました。
 かげろうはお茶をとろうとして出した手を空にあげて、バタバタもがきながら、
「あわれやむすめ、父親が、
 旅で果てたと聞いたなら」
と哀れな声で歌い出しました。
「えい。やかましい。じたばたするな。」と蜘蛛が云いました。するとかげろうは手を合せて
「お慈悲(じひ)でございます。遺言(ゆいごん)のあいだ、ほんのしばらくお待ちなされて下されませ。」とねがいました。
 蜘蛛もすこし哀れになって
「よし早くやれ。」といってかげろうの足をつかんで待っていました。かげろうはほんとうにあわれな細い声ではじめから歌い直しました。
「あわれやむすめちちおやが、
 旅ではてたと聞いたなら、
 ちさいあの手に白手甲(しろてこう)、
 いとし巡礼(じゅんれ)の雨とかぜ。
 もうしご冥加(みょうが)ご報謝と、
 かどなみなみに立つとても、
 非道の蜘蛛の網ざしき、
 さわるまいぞや。よるまいぞ。」
「小しゃくなことを。」と蜘蛛はただ一息に、かげろうを食い殺してしまいました。そしてしばらくそらを向いて、腹をこすってからちょっと眼をぱちぱちさせて
「小しゃくなことを言うまいぞ。」とふざけたように歌いながら又糸をはきました。
 網は三まわり大きくなって、もう立派な蜘蛛の巣です。蜘蛛はすっかり安心して、又葉のかげにかくれました。その時下の方でいい声で歌うのをききました。
「赤いてながのくぅも、
 天のちかくをはいまわり、
 スルスル光のいとをはき、
 きぃらりきぃらり巣をかける。」
 見るとそれはきれいな女の蜘蛛でした。
「ここへおいで。」と手長の蜘蛛が云って糸を一本すうっとさげてやりました。
 女の蜘蛛がすぐそれにつかまってのぼって来ました。そして二人は夫婦になりました。網には毎日沢山(たくさん)食べるものがかかりましたのでおかみさんの蜘蛛は、それを沢山たべてみんな子供にしてしまいました。そこで子供が沢山生まれました。ところがその子供らはあんまり小さくてまるですきとおる位です。
 子供らは網の上ですべったり、相撲(すもう)をとったり、ぶらんこをやったり、それはそれはにぎやかです。おまけにある日とんぼが来て今度蜘蛛を虫けら会の相談役にするというみんなの決議をつたえました。
 ある日夫婦のくもは、葉のかげにかくれてお茶をのんでいますと、下の方でへらへらした声で歌うものがあります。
「あぁかい手ながのくぅも、
 できたむすこは二百疋(ぴき)、
 めくそ、はんかけ、蚊のなみだ、
 大きいところで稗(ひえ)のつぶ。」
 見るとそれは大きな銀色のなめくじでした。
 蜘蛛のおかみさんはくやしがって、まるで火がついたように泣きました。
 けれども手長の蜘蛛は云いました。
「ふん。あいつはちかごろ、おれをねたんでるんだ。やい、なめくじ。おれは今度は虫けら会の相談役になるんだぞ。へっ。くやしいか。へっ。てまえなんかいくらからだばかりふとっても、こんなことはできまい。へっへっ。」
 なめくじはあんまりくやしくて、しばらく熱病になって、
「うう、くもめ、よくもぶじょくしたな。うう。くもめ。」といっていました。
 網は時々風にやぶれたりごろつきのかぶとむしにこわされたりしましたけれどもくもはすぐすうすう糸をはいて修繕(しゅうぜん)しました。
 二百疋の子供は百九十八疋まで蟻(あり)に連れて行(ゆ)かれたり、行衛不明(ゆくえふめい)になったり、赤痢(せきり)にかかったりして死んでしまいました。
 けれども子供らは、どれもあんまりお互いに似ていましたので、親ぐもはすぐ忘れてしまいました。
 そして今はもう網はすばらしいものです。虫がどんどんひっかかります。
 ある日夫婦の蜘蛛は、葉のかげにかくれてお茶をのんでいますと、一疋の旅の蚊がこっちへ飛んで来て、それから網を見てあわてて飛び戻って行きました。
 すると下の方で
「ワッハッハ。」と笑う声がしてそれから太い声で歌うのが聞えました。
「あぁかいてながのくぅも、
 あんまり網がまずいので、
 八千二百里旅の蚊も、
 くうんとうなってまわれ右。」
 見るとそれは顔を洗ったことのない狸でした。蜘蛛はキリキリキリッとはがみをして云いました。
「何を。狸め。一生のうちにはきっとおれにおじぎをさせて見せるぞ。」
 それからは蜘蛛は、もう一生けん命であちこちに十(とお)も網をかけたり、夜も見はりをしたりしました。ところが困ったことは腐敗(ふはい)したのです。食物(しょくもつ)がずんずんたまって、腐敗したのです。そして蜘蛛の夫婦と子供にそれがうつりました。そこで四人(よったり)は足のさきからだんだん腐(くさ)れてべとべとになり、ある日とうとう雨に流れてしまいました。
 それは蜘蛛暦三千八百年の五月の事です。

   二、銀色のなめくじ

 丁度蜘蛛が林の入口(いりくち)の楢(なら)の木に、二銭銅貨の位の網をかけた頃(ころ)、銀色のなめくじの立派なおうちへかたつむりがやって参りました。
 その頃なめくじは林の中では一番親切だという評判でした。かたつむりは
「なめくじさん。今度は私(わたし)もすっかり困ってしまいましたよ。まるで食べるものはなし、水はなし、すこしばかりお前さんのためてあるふきのつゆを呉(く)れませんか。」と云いました。
 するとなめくじが云いました。
「あげますともあげますとも。さあ、おあがりなさい。」
「ああありがとうございます。助かります。」と云いながらかたつむりはふきのつゆをどくどくのみました。
「もっとおあがりなさい。あなたと私(わたくし)とは云わば兄弟。ハッハハ。さあ、さあ、も少しおあがりなさい。」となめくじが云いました。
「そんならも少しいただきます。ああありがとうございます。」と云いながらかたつむりはも少しのみました。
「かたつむりさん。気分がよくなったら一つ相撲をとりましょうか。ハッハハ。久しぶりです。」となめくじが云いました。
「おなかがすいて力がありません。」とかたつむりが云いました。
「そんならたべ物をあげましょう。さあ、おあがりなさい。」となめくじはあざみの芽やなんか出しました。
「ありがとうございます。それではいただきます。」といいながらかたつむりはそれを喰(た)べました。
「さあ、すもうをとりましょう。ハッハハ。」となめくじがもう立ちあがりました。かたつむりも仕方なく、
「私(わたし)はどうも弱いのですから強く投げないで下さい。」と云いながら立ちあがりました。
「よっしょ。そら。ハッハハ。」かたつむりはひどく投げつけられました。
「もう一ぺんやりましょう。ハッハハ。」
「もうつかれてだめです。」
「まあもう一ぺんやりましょうよ。ハッハハ。よっしょ。そら。ハッハハ。」かたつむりはひどく投げつけられました。
「もう一ぺんやりましょう。ハッハハ。」
「もうだめです。」
「まあもう一ぺんやりましょうよ。ハッハハ。よっしょ、そら。ハッハハ。」かたつむりはひどく投げつけられました。
「もう一ぺんやりましょう。ハッハハ。」
「もうだめ。」
「まあもう一ぺんやりましょうよ。ハッハハ。よっしょ。そら。ハッハハ。」かたつむりはひどく投げつけられました。
「もう一ぺんやりましょう。ハッハハ。」
「もう死にます。さよなら。」
「まあもう一ぺんやりましょうよ。ハッハハ。さあ。お立ちなさい。起こしてあげましょう。よっしょ。そら。ヘッヘッヘ。」かたつむりは死んでしまいました。そこで銀色のなめくじはかたつむりをペロリと喰べてしまいました。
 それから一ヶ月ばかりたって、とかげがなめくじの立派なおうちへびっこをひいて来ました。そして
「なめくじさん。今日は。お薬を少し呉れませんか。」と云いました。
「どうしたのです。」となめくじは笑って聞きました。
「へびに噛(か)まれたのです。」ととかげが云いました。
「そんならわけはありません。私(わたし)が一寸(ちょっと)そこを嘗(な)めてあげましょう。なあにすぐなおりますよ。ハッハハ。」となめくじは笑って云いました。
「どうかお願い申します。」ととかげは足を出しました。
「ええ。よござんすとも。私(わたくし)とあなたとは云わば兄弟。ハッハハ。」となめくじは云いました。
 そしてなめくじはとかげの傷に口をあてました。
「ありがとう。なめくじさん。」ととかげは云いました。

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