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竜宮の犬(りゅうぐうのいぬ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-2 9:10:15  点击:  切换到繁體中文


 ある田舎に貧乏なぢいさんと、ばあさんとが二人きりで暮してをりました。耕す畑も田もないから、仕方なく爺さんは楊枝やうじ歯磨はみがき、洗粉あらひこなどを行商して、いくらかのおあしを取り、婆さんは他人の洗濯せんたくや針仕事を頼まれて、さびしい暮しをつゞけてをりました。
 すると或年の秋も末になり、紅葉もみぢ綺麗きれいに色づき、かきの実があかくれて、風の寒い夕方、爺さんが商売から帰りみちに、多勢の人が集まつて、何やら声高にののしり騒いでをりますから、何だらうかと一寸ちよつとのぞいてみますと、一羽の年寄つた牝鶴めづるが、すつかり羽をいためて其処そこに降りてゐるのでした。集つた人達ひとたちはその鶴を捕つてやらうとしましたが、みんなめい/\自分こそは真先まつさきに見付けたのだから、自分が捕るのが当然だと言ひ張つて、はてしがつかず、ガヤ/\と騒いでをるのでした。爺さんは慈悲心の深い人でしたから、これを見ると可哀かはいさうでたまらなくなりました。そこで爺さんは人混みを押分けて前に出て申しました――
「マア/\皆さん、ちよつとわたしのいふことを聞いて下さい。一体鶴は千年のよはひをもつといふものですから、この鶴はだ/\永く生きのびることが出来ます。それだのに、あなたがたがこれを捕り、殺してべたところで、たゞ一時おいしいと思ふだけで、何にもなりません。又これを他人に売つたところが大した金にもなりません。そして買つた人は矢張りそれを殺して喰べるでせう。そんな殺生をするよりか、これを助けて、逃がしてやつた方が、立派な功徳になります。どうぞこの鶴は私に売つて下さい。私はたんとお金も持つてはゐませんけれど、今日の売りめをみんなあげますから、それを、あなたがた、この鶴を見付けた人達の間で分けて、鶴は私に下さい。し又それでもおあしが足りないなら明日あしたの夕方まで待つて下さい。」
 爺さんが言葉を尽して説くものですから、その人達も納得して鶴を爺さんに売つてしまひました。
 爺さんは「これは善いことをした。」と、うれしく思ひながら、その鶴をもつてうちへ帰りました。
「婆さん/\。今帰つた。今日は売りだめのおあしは一文も持つて来なかつたが、その代りとても幾百両だしても買へないいお土産をもつて来た。何だか当てゝみなさい。」
 爺さんは鶴を入れた風呂敷ふろしきの包みをとかずに、かう言ひました。
「さあ何だらうね。」と、婆さんは小首を傾けました。「わたしにはさつぱり見当がつかないよ。」
「これさ、この鶴だよ。」
 爺さんは風呂敷の中から、羽をいためたよぼ/\の鶴をそこへ出しました。鶴は驚いたやうなつきでそこらを見廻みまはしました。
 婆さんは思はずアッと叫びました。
「オヤ/\爺さん、お前さんはマア気でもちがやしないか。鶴なんかを持つて来てさ。」
 爺さんはニコ/\して、
「気なんか少しもちがつてはゐない。これにはわけのあることだ。」と、それから自分が行きがかりにその鶴を救つて来たことを詳しく話してきかせましたので、婆さんも同じく慈悲深い性質でしたから、成程そんな訳だつたかと、その晩は自分達の喰べるおかゆを分けて喰べさせ、家の片隅かたすみにとまらせました。

 一月あまりもかうして養つてをりました。すると鶴はいためた羽もすつかり直つて、自由にとべるやうになりました。そこで或日あるひ、爺さんと婆さんとは、鶴にかう言ひました。
「さあお前もすつかり丈夫になつたから、お前の好きなところへ飛んでいつてもよろしい。けれどもさう言つたからつて、是非出て行きなさいといふのぢやない。お前が此処ここにゐたければ、何時いつまでゐたつてかまやしない。それは、お前の心まかせなんだ。」
 鶴は幾度も頭を下げて、眼から涙をながしてをりましたが、やがて悲しい声を出して、羽搏はばたきすると同時に、空に舞ひ上りました。そして幾度も家の上をまはつて、名残りを惜みながら何処かへ飛び去りました。

 月日のつのは早いものです。鶴が去つてから一月経ちました。するとその晩遅くなつてから戸をたたくものがありますから、爺さんが起きて開けてみますと、天女といふやうな美しい、気高い十八九の美人が巻物を手にもつてそこに立つてをりました。白い真珠色の衣服きもの袖口そでくちには、広い黒天鵞絨くろびろうどのやうなものでふちが取つてあつて、頭にはあかい絹で飾りをつけてをりました。
「おぢいさん、おばあさん。しばらくでございましたね。」と、その女は懐しさうに申しました。お爺さんは不思議さうに、
「へえ、どなた様でいらつしやいますか、とんとお見忘れ申しました。どうぞ御免下さいませ。」と、ペコ/\頭を下げました。
 美人はにつこりしました。
「おやもうお忘れですか? なる程姿が変つてをりますから無理もありません。わたしは一月前まであなたがたに飼はれてをつた鶴でございます。どうも命を助けていたゞいた上、なみ/\ならぬ親切なお世話を受けまして、ほんとに有難く思つてをります。実はあの時分王様のお猟にゆきあひまして、その時たかに羽をいためられましたが、やう/\あすこまで逃げて、田の中のあぜへ降りますと、若い者に見付かつて、あぶなく殺されるところでした。そこへ丁度おぢいさんが来て助けて下さつたのでした。私は七夕様の織女でございます。丁度あまがはの向うまであの日はお使ひに参つたところでございましたので、私が帰るのが遅いと、御主人様は大そう心配していらつしやいましたが、私が帰つて詳しくお話を致しますと、御主人様は大悦おほよろこびで、それではその御礼に、おぢいさん、おばあさんに天の羽衣を織つて、御礼にあげなさいと、おつしやいました。そこで私が心をこめてこれを織りました。で、どうか十二月三十日の夜に、天の羽衣、鶴の羽衣と言つて、売つて歩いて下さいまし。その代金は御二人が生涯しやうがいたのしく、お楽に暮していかれるだけはございます。どうぞ随分とお身体からだをお大事に、いのち長くお暮しなさい。」
 鶴の美人はさう申しまして、この天の羽衣を渡して、立ち去りました。
 と、二人は夢から醒めました。しかし鶴の美人が手にもつてゐた巻物はたしかにそこに置いてありました。
 さて十二月三十日の夜になりますとお爺さんは鶴の美人に教はつたとほりに、
「天の羽衣、鶴の羽衣。」と、いつて売つて歩きました。
「天の羽衣とはどんなものか、一寸ちよつと見せなさい。」と言つて、見るものもありました。けれどもそれは一寸見たゞけではただ真白まつしろな絹布のやうに見えました。
「なんだ、こりや白羽二重しろはぶたへぢやないか。こんなものが何で天の羽衣だ。」
 その人はあざけり笑つて立ち去りました。すると又一人の女が見せてくれと言ひますから、出してみせますと、かう申しました――
「マア珍らしく奇麗だこと、そしていくらで売らうといふのだね。」
「えゝ千両で売り度いと存じます。」
「マア途方もない! せめて十両ぐらゐならわたしも買つてみようけれど……」
 その女は驚いたふうをして立ち去りました。こんな工合で、一日中売つて歩きましたけれど、だれも買つてくれる人がありません。お爺さんはガツカリして、とある海岸までくると、かう思ひました――
「えゝ天人のものなんかは地の人間が買やしない。私達わたしたちがいつまでこれをもつてゐたところが何の用にもたりないから、いつそのことこれは竜宮様へ差し上げてしまへ。」と、海の中へ天の羽衣をはふり込んで、さつさとうちへ帰り、床に入つて、寝てしまひました。すると間もなく戸口で鈴をかけた馬の音が聞えて、それが立止まつたかと思ふと、だれやらがトン/\とたたきます。
「どなたですか今頃いまごろ戸をお叩きなさるのは?」と、爺さんはねむい眼をこすり/\申しました。

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