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人間腸詰(にんげんソーセージ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-10 10:02:31  点击:  切换到繁體中文


 そう思っているうちに菜ッ葉服の大男が、カント・デックに腮でシャクられると直ぐに一つうなずいて菜ッ葉服の袖口をマクリ上げて、あっし太股ふとももくれえある毛ムクジャラの腕を二本、突出しました。その熊みたいな手で何の雑作もなく女の手をかせて、シッカリ握っている右手を開かせますと、中から見覚えのある台湾館備付そなえつけの桃色の支那便箋を幾つにも折ったものが出て来ました。そのレターペーパの折り目を拡げたやつを受取ったカント・デックは、あっしの鼻の先にブラ下げて見せながら、今一度ニコニコと笑いました。赤チャンをあやすような顔で、あっしの顔を覗き込みましたがね。
 それは筆と墨で書いた立派な日本文でした。多分、台湾館の事務室に在った藤村さんの硯箱すずりばこを使ったものでしょう。昔の百人一首に書いて在るような立派な文字でしたがね。
「チイちゃんと一所に出かけてはいけません。チイちゃんは支那人です。亜米利加のギャングの手先です。わたくしはチイちゃんと一緒にギャングのメカケになった、かわいそうな日本の女です。あたしの事を日本の両親につたえて下さい。

天草早浦はやうら生れ
  ハル吉親方様
中田フジ子より」
 その死骸がフイちゃんの死骸だとわかると、あっしは何かしら叫びながら飛び付こうとしたように思います。今までに無い力が出たので、あぶなくデックを振り離すところでしたが、そのあっしの左の手首をガッシリと掴み止めたデックは面と向って立ちながら今一度ニヤニヤと笑って見せました。
「わかりましたか。仕事しますか」
「何をッ」
 とか何とか怒鳴ったように思います。だしぬけに思いがけない力が出たもんで、鉄の噛締器バイトみてえなデックの手を振放して、火の玉のようになって相手に飛びかかろうとしましたが間に合いませんでした。背後うしろから菜ッ葉服の男に息の詰まるほどガッチリと抱きすくめられちゃったんです。そうして犬ころでも棄てるように軽々とデックの夜会服の腕の中へ投渡なげわたされちゃったんです。
 あっしを受取ったデックは喰い付いたり引っ掻いたりするあっしの手と足を背後うしろからたばにしてギューと掴み締めてしまいました。それから何か英語で二言三言云ったと思うと毛ムクジャラの菜ッ葉服が、トロッコの上の女の身体からだを抱き上げて、何の雑作もなく傍の肉挽器械の中へ投込みました。
 ……ヘエ。その時に肉挽き器械の中から聞えて来た恐ろしい声を、あっしは一生涯忘れないでしょう。フイちゃんはまだ生きてたんです。多分、日本人のあっしたすけるためにギャング仲間を裏切ったかどで、デックの配下てしたに拷問されて気絶していたものなんでしょう。
 あっしもそのまんま気絶していたようです。

「じゃぱん、がばめん、ふおるもさ、ううろんち、わんかぷ、てんせんす。かみんかみん」
 てお呼び声がどこからか聞えるように思ってフイッと眼をいてみるてえと、コンクリート作りの馬小舎ごやみてえに狭い藁束わらたばだらけの床の上へ投げ出されているのに気が付きました。
 片隅のドアの前に置いて在る汚いバケツの中を這い寄って覗いてみますと、ジャガ芋と肉のゴッタ煮の上にパンのかたまりと水と、牛乳の瓶が投込んで在ります。……つまり何ですね。まだあっしを殺す気じゃなかったのでしょう。あわよくば仲間に引っぱり込んで仕事をさせる気でいたのでしょう。
 しかしあっしは助かったのが嬉しくも悲しくも何ともありませんでした。今からかんげえてみるとあの時はヨッポド頭が変テコになっていたんですね。やっぱり地球癲癇てんかんの続きだったかも知れませんでしたがね。自分がどこに居るやら、どうなっているやらわからないまま、眼が醒めないめえから続けていたらしい譫言うわごとを、そのまんま云いつづけておりました。
「じゃぱん、がばめん、ふおるもさ、ううろんち、わんかぷ、てんせんす。かみんかみん」
 と繰り返し繰り返し大きな声で云ってたようですが、口癖ってものは恐ろしいものですね。
 ところがこの御祈祷の文句のお蔭で、無事にこうやって日本に帰ることが出来たんですから、人間の運てえものはドコまでも不思議なもので……ヘエ……。

 博覧会の方では大騒ぎだったそうです。あっしと二人の女がダシヌケに行方不明になったてんで警察に頼んだり何かして騒いだそうですが、わかる気づかいはありませんや。気の毒なのは藤村さんで、あっしの代りに礼服フロッキを着て台湾館の前に立たされて、代りが出来るまでノスタレじいと一所に「わんかぷ、てんせんす」をやらされたもんだそうで、二三日やってる中にお尻のポケツへジャラジャラ銀貨が溜まったのはいいが、声がスッカリれちゃって電話にかかれなくなっちゃったそうで……無理もありませんや。木遣りなんか唄ったこたあねえんですからね。おまけに怒鳴りながらも、ずいぶん気もんだそうですからね。……多分あっしが二人の女を誘拐かどわかしたんだろうテンデ、あべこべに世話あした支那料理店しなりょうりやから台湾館が損害を取られそうになっちゃったそうで……大工の治公はるこうって奴はソンナ大それた人間じゃねえテンデ藤村さんが一生懸命、頑張ってくれたそうですがね。
 そのうちに聖路易セントルイスの何とか云いましたっけが、目貫めぬきの通りに在るホテルの七階の屋上に夜遅くなってから幽霊が出る。そいつがドウヤラ新聞に出た台湾館の行方不明の客呼び男らしいていう噂がホテルのお客さんたちの間に立ち初めました。馬鹿馬鹿しい怪談おばけばなしですがね……治公はるこうがまだチャント生きているのに幽的ゆうてきが出る筈はないんですが、毛唐って奴は元来ゾッコン怪談おばけばなしが好きなんだそうで……つまらねえものを怪談おばけにしちまう癖があるんだそうですが、そんな噂がどこともなく散り拡がって行くうちに運よくギャング連中の耳に這入らないまに、藤村さんの耳に這入ったもんです。
貴女あなた……お聞きになりましたか、あのホテルのお化けの話を……」
「イイエ。まだ聞きませんわ。聞かして頂戴」
「一週間ばかり前からの事です。真夜中の二時頃……電車のまる頃になるとあのホテルの屋上庭園のマン中に在る旗竿の処へフロッキコートを着た日本人の幽霊が出るんです。ホラ直ぐそこに若いスマートな男と、赤っ鼻の禿頭はげあたまが立っているでしょう。あの通りの姿で幽霊が出て来て、あの通りの事を云うんだそうです」
「アラ怖い……ホント……」
「ホントですとも……それがあの新聞に出た行方不明の……ホラ……ずっと前に来た時にあすこに立っていたでしょう。ミスタ・ハルコーっていうあの男の姿にソックリなんだそうです」
「まあ……ホテルじゃ困っているでしょうねえ」
「ところが反対あべこべですよ。お蔭で屋上庭園に行く者は一人も居なくなった代りに、その声を聞きに行く者であのホテルは一パイなんだそうです。警察ではまだ知らないそうですが、あの日本人の行方不明事件はあのホテルと台湾館とが組んでやっている日本人一流の宣伝方法に違いないってミンナ云っておりますがね」
「シッ聞えるわよ。日本人に……」
「ナアニ。彼奴あいつ等は英語がわかりやしません。暗記した事だけを繰り返している忠実な奴隷なんですから……」
 こんな話を入口の近くのテーブルでやっているのを小耳に挿んだ藤村さんが、指を折って数えてみると、ちょうどあっしが行方不明になってから八日目だったそうです。
 藤村さんは西洋通ですから直ぐにピインと来たんでしょう。直ぐにその晩ホテルへ泊って、夜中の二時頃コッソリと屋上庭園へ来てみると世にも哀れっぽいかすかな微かなあっしの声で、
「じゃぱアーん。がばアーンめんとオー。ふおるもっさあアー。うう……ろん……ちいイイイ。わんかぷう……ウ。てんせえんすう――ッ……」
 てやっているんだそうです。そこで藤村さんは胸をドキドキさせながら抜き足、さし足その声の聞える方に近付いてみると、その声の主は屋上庭園のどこにも居ない。その向い側のメイ・フラワ・ビルデングの七階の片隅に在る真暗な小窓の中から聞えて来る事が、夜が更けて来るにつれてハッキリとわかって来た……というんです。
 しかし亜米利加通の藤村さんは決して慌てませんでした。何喰わぬ顔をして翌る朝、台湾館へ帰って来ると直ぐに華盛頓ワシントンの大使に頼んで、紐育ニューヨークのプレーグっていう腕っこきの警察官に頼んだものだそうです。
 ちょうどそのプレーグっていう警察官は一生懸命になってギャングの巣を探していたところだったそうで、早速紐育ニューヨークの警視庁へズキをまわして取っときの刑事や巡査を借りて聖路易セントルイスへ乗込んで、土地の警察へも知らさないようにメイ・フラワ・ビルの様子を探ると、出入りする奴はみんな変装した前科者ばかりなんで、イヨイヨそれと目星を附けて水も洩らさねえように手配りをきめた二十人ばかりのプレーグの配下てしたが、アッという間もないうちにメイ・フラワ・ビルの地下室から七階まで総マクリにしてしまいました。双方とも怪我けが人や死人が出来たりして一時は戦争みたいな騒ぎだったそうですが、あっしはチットも知りませんでした。そこから抱え出されて聖路易セントルイスの市立病院の病床ベットに寝かされても相も変らず「わんかぷ、てんせんす」をやっていたそうです。
 ……ところで、まだ話があるんです。これからがホントに凄いんですね。

 あっしがあらん限りの注射と滋養物のお蔭で、やっとモトの頭になって退院させられた時はもうユーカリの葉が散っちゃった秋の末で、博覧会なんかトックの昔におしまいになっておりました。退院すると直ぐに警察に呼び出されて、ほんの型ばかりの訊問を通訳附きで受けますと、領事さんからの旅費を貰って桑港シスコから日本へ帰りましたが、その途中のことです。たしか出帆してから十日目ぐらいのお天気のいい朝でしたがね。あんまり航海ナベゲタが退屈なもんですから、眼が醒めても起き上る気がしません。そのまんま特別三等とくさんの寝床の中で足をツン伸ばしてアーッと一つ大きな欠伸あくびをしたもんですが、そのトタンに桑港シスコで知り合いの領事館の人からお土産に貰った小さな紙包みのことを思い出しました。ハテ何だったろうと思いながら、寝床の下のバスケットの中からその紙包を取り出して開けてみると、どうでげす。それが平べったいソーセージの缶なんで……。
 コイツは占めたと思って飛び起きると、食堂から五十二セントの日本ビールを一本買って来て、ベットの上にアグラを掻きながら、缶の蓋を開けて、美味うまそうな腸詰ちょうづめの横ッ腹をジャクナイフで薄く切り初めたもんですが、そのうちに何やらナイフのからまるものがあります。……ハテ……おかしいなと思いながら、そのナイフの刃を暗い窓あかりに透かしてみるとソイツが黒い女の髪の毛なんで……あっしはドキンとしましたよ。それでもマサカと思いながら今のソーセージの切口をよく見ると、薄桃色の肉の間に何だか白い三角がたのものが挟まっているようです。ハテナと思い思いホジクリ出してみると、そいつがどうです。三分角ぶかくぐらいの薄桃色の紙片かみきれの端なんで……永いこと赤い肉の間に挟まってフヤケちゃっているんですから色合いなんかアテになりませんし、紙の質だって支那出来のレターペーパだか何だか、わかったもんじゃ御座んせんが、それでもその紙が、その黒い髪の毛と一つとこに這入っていたことだけは間違いねえんで……。
 それでもマサカ……とは思いましたがドウモ変な心持ちになりましたよ。あっしに惚れていたフイちゃんが、あっしの身代りにソーセージになって、ここまでいて来たんじゃねえか……ナンテかんげえておりますと、最早もはや、ビールのさかなどころじゃ御座んせん。こっちの頭がソーセージみたいにゴチャゴチャになっちまいました。世界の丸っこい道理がズンズンとわかって来るように思いましてね……まったく……ヘエ……。
 ……ヘエ。どうも奥様……いろいろと御馳走様で……これで御免を蒙りやす。





底本:「夢野久作全集6」ちくま文庫、筑摩書房
   1992(平成4)年3月24日第1刷発行
※底本の「腸詰ソーセージにに」を、「腸詰ソーセージに」に改めました。
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2004年1月5日作成
青空文庫作成ファイル:
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●表記について
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  • 「くの字点」をのぞくJIS X 0213にある文字は、画像化して埋め込みました。
  • 傍点や圏点、傍線の付いた文字は、強調表示にしました。

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