| 底本: | 芥川龍之介全集 第十二巻 |
| 出版社: | 岩波書店 |
| 初版発行日: | 1996(平成8)年10月8日発行 |
| 入力に使用: | 1996(平成8)年10月8日発行 |
国民文庫刊行会の「世界名作大観」の第一部の十六冊の――どうも少し長い。が、兎に角国民文庫刊行会の「世界名作大観」の第一部の十六冊の大部分は平田禿木先生の翻訳である。平田先生にはまだ一度しか御目にかかつたことはない。が、好男子で、もの優しくて、美しい声をしてゐて――要するに如何にも往年の「文学界」同人の一人らしい、甚だ瀟洒とした先生である。この瀟洒とした先生が国民文庫刊行会の「世界名作大観」の第一部の十六冊の大部分を翻訳したと言ふことは少くとも僕には神秘だつた。元来瀟洒としたなどと言ふ感じは精力を想はせるものではない。しかし平田先生の翻訳を見れば、デイケンズ、サツカレエ、ラム、メレデイス、ジエエムス、ハアデイイ、ワイルド、コンラツド等を網羅してゐる。僕は翻訳することは勿論唯一通り意味をとるのにさへ、これ等の中の或るものには、――たとへば「エゴイスト」(メレデイス)には辟易した。それをかかる瀟洒とした先生が何冊も翻訳したと言ふことは――平田先生には或は失礼かも知れない、けれども正直に白状すれば、確に僕は今更のやうに、人は見かけによらぬものだと思つた。
これだけの翻訳をすることは勿論容易ならぬ仕事である。殊に平田先生のやうに真剣に翻訳することは
僕の平田先生の翻訳を読んだのは「ヴアニテイ・フエエア」(虚栄の市)と「エゴイスト」(我意の人)とだけである。が、読んだ所を以て読まない所を推すとすれば、今度の「テス」や「チヤンス」の翻訳も定めし立派なものであらうと思ふ。元来後学僕の如きものは先生の翻訳を云々する資格のないものに違ひない。が、万一先生の仕事も
底本:「芥川龍之介全集 第十二巻」岩波書店
1996(平成8)年10月8日発行
入力:もりみつじゅんじ
校正:松永正敏
2002年5月17日作成
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