「兵隊さんだなぃ。鉄砲持ってなぃぞ。」けれどもその時は二人はもう旅人の三間ばかりこっちまで来てゐました。
「兵隊さん。」善コは又叫んでからをかしな顔をしてしまひました。見るとその人は赤ひげで西洋人なのです。おまけにその男が口を大きくして叫びました。
「グルルル、グルウ、ユー、リトル、ラズカルズ、ユー、プレイ、トラウント、ビ、オッフ、ナウ、スカッド、アウヰ[#「ヰ」は小書き]イ、テゥ、スクール。」
と雷のやうな声でどなりました。そこで二人はもうグーとも云はず、まん円になって一目散に逃げました。するとうしろではいかにも面白さうに高く笑ふ声がします。向ふの方ではお母さんたちが心配さうに手をかざしてこっちを見てゐましたが、やがて一寸おじぎをしました。二人は振り返って見ますとその鼠色の旅人も笑ひながら帽子をとっておじぎをして
お日さまが又かっと明るくなり、二人はむしろに座ってひばりもゐないのに、
「ひばり焼げこ、ひばりこんぶりこ、」なんて
そのうちに嘉ッコ[#底本は「嘉っこ」]がふと思ひ出したやうに歌をやめて、一寸顔をしかめましたが、俄かに云ひました。
「ぢゃ、うなぃの
「うんにゃ、おれぁの爺ん[#「ん」は小書き]ごぁ酔ったぐれだなぃ。」善コが答へました。
「そだら、うなぃの爺ん[#「ん」は小書き]ごど俺ぁの爺ん[#「ん」は小書き]ごど、爺ん[#「ん」は小書き]ご取っ換へ[#「へ」は小書き]だらいがべぢゃぃ。取っ換へ[#「へ」は小書き]なぃどが。」嘉ッコがこれを云ふか云はないにウンと云ふくらゐひどく耳をひっぱられました。見ると嘉ッコのおぢいさんがけらを着て
「なにしたど。爺ん[#「ん」は小書き]ご取っ換へ[#「へ」は小書き]るど。それよりもうなのごと山山のへっぴり
「ぢさん、許せゆるせ、取っ換へ[#「へ」は小書き]なぃはんて、ゆるせ。」嘉ッコは泣きさうになってあやまりました。そこでぢいさんは笑って自分も豆を抜きはじめました。
※
火は赤く燃えてゐます。けむりは主におぢいさんの方へ行きます。
嘉ッコは、
よるはよもやまはなしがはづむ
母が手ぎはのだいこんなます
これがゐなかのとしこしざかな。第十三課……。」
「なあにこの書物ぁ倹約教へだのだべも。」
ところが嘉ッコの兄さんは、すっかり怒ってしまひました。そしてまるで泣き出しさうになって、読本を鞄にしまって、
「嘉ッコ、猫ぉおれさ寄越せぢゃ。」と云ひました。
「わがなぃんちゃ。
「寄越せったら、寄越せ。嘉ッコぉ。わあい。寄越せぢゃぁ。」
「
「そだら
「お
「
「ホーォ。」ととなりの善コの声が聞えます。
「ホーォ。」と嘉ッコが答へました。
「ホーォォ。」となりで又叫んでゐます。
「ホーォォー。」嘉ッコが
嘉ッコの兄さんは雹を取らうと
南のずうっと向ふの方は、白い雲か霧かがかかり、稲光りが月あかりの中をたびたび白く渡ります。二人は
「ホーォ。」善コの声がします。
「ホーォ。」嘉ッコと嘉ッコの兄さんとは一所に叫びながら垣根の柳の木の下まで出て行きました。
となりの垣根からも小さな黒い影がプイッと出てこっちへやって参ります。善コです。嘉ッコは走りました。
「ほお、雹だぢゃぃ。大きぢゃぃ。こったに大きぢゃぃ。」
善コも一杯つかんでゐました。
「
稲づまが又白く光って通り過ぎました。
「あ、山山のへっぴり
底本:「新修宮沢賢治全集 第八巻」筑摩書房
1979(昭和54)年5月15日初版第1刷発行
1984(昭和59)年1月30日初版第7刷発行
入力:林 幸雄
校正:久保格
2002年10月27日作成
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