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桃太郎(ももたろう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-18 15:42:14  点击:  切换到繁體中文

底本: 芥川龍之介全集5
出版社: ちくま文庫、筑摩書房
初版発行日: 1987(昭和62)年2月24日
入力に使用: 1995(平成7)年4月10日第6刷
校正に使用: 1996(平成8)年7月15日第7刷


底本の親本: 筑摩全集類聚版芥川龍之介全集
出版社: 筑摩書房
初版発行日: 1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月

 

   一

 むかし、むかし、大むかし、ある深い山の奥に大きい桃(もも)の木が一本あった。大きいとだけではいい足りないかも知れない。この桃の枝は雲の上にひろがり、この桃の根は大地(だいち)の底の黄泉(よみ)の国にさえ及んでいた。何でも天地開闢(かいびゃく)の頃(ころ)おい、伊弉諾(いざなぎ)の尊(みこと)は黄最津平阪(よもつひらさか)に八(やっ)つの雷(いかずち)を却(しりぞ)けるため、桃の実(み)を礫(つぶて)に打ったという、――その神代(かみよ)の桃の実はこの木の枝になっていたのである。
 この木は世界の夜明以来、一万年に一度花を開き、一万年に一度実をつけていた。花は真紅(しんく)の衣蓋(きぬがさ)に黄金(おうごん)の流蘇(ふさ)を垂らしたようである。実は――実もまた大きいのはいうを待たない。が、それよりも不思議なのはその実は核(さね)のあるところに美しい赤児(あかご)を一人ずつ、おのずから孕(はら)んでいたことである。
 むかし、むかし、大むかし、この木は山谷(やまたに)を掩(おお)った枝に、累々(るいるい)と実を綴(つづ)ったまま、静かに日の光りに浴していた。一万年に一度結んだ実は一千年の間は地へ落ちない。しかしある寂しい朝、運命は一羽の八咫鴉(やたがらす)になり、さっとその枝へおろして来た。と思うともう赤みのさした、小さい実を一つ啄(ついば)み落した。実は雲霧(くもきり)の立ち昇(のぼ)る中に遥(はる)か下の谷川へ落ちた。谷川は勿論(もちろん)峯々の間に白い水煙(みずけぶり)をなびかせながら、人間のいる国へ流れていたのである。
 この赤児(あかご)を孕(はら)んだ実は深い山の奥を離れた後(のち)、どういう人の手に拾われたか?――それはいまさら話すまでもあるまい。谷川の末にはお婆(ばあ)さんが一人、日本中(にほんじゅう)の子供の知っている通り、柴刈(しばか)りに行ったお爺(じい)さんの着物か何かを洗っていたのである。……

        二

 桃から生れた桃太郎(ももたろう)は鬼(おに)が島(しま)の征伐(せいばつ)を思い立った。思い立った訣(わけ)はなぜかというと、彼はお爺さんやお婆さんのように、山だの川だの畑だのへ仕事に出るのがいやだったせいである。その話を聞いた老人夫婦は内心この腕白(わんぱく)ものに愛想(あいそ)をつかしていた時だったから、一刻も早く追い出したさに旗(はた)とか太刀(たち)とか陣羽織(じんばおり)とか、出陣の支度(したく)に入用(にゅうよう)のものは云うなり次第に持たせることにした。のみならず途中の兵糧(ひょうろう)には、これも桃太郎の註文(ちゅうもん)通り、黍団子(きびだんご)さえこしらえてやったのである。
 桃太郎は意気揚々(ようよう)と鬼が島征伐の途(と)に上(のぼ)った。すると大きい野良犬(のらいぬ)が一匹、饑(う)えた眼を光らせながら、こう桃太郎へ声をかけた。
「桃太郎さん。桃太郎さん。お腰に下げたのは何でございます?」
「これは日本一(にっぽんいち)の黍団子だ。」
 桃太郎は得意そうに返事をした。勿論実際は日本一かどうか、そんなことは彼にも怪(あや)しかったのである。けれども犬は黍団子と聞くと、たちまち彼の側へ歩み寄った。
「一つ下さい。お伴(とも)しましょう。」
 桃太郎は咄嗟(とっさ)に算盤(そろばん)を取った。
「一つはやられぬ。半分やろう。」
 犬はしばらく強情(ごうじょう)に、「一つ下さい」を繰り返した。しかし桃太郎は何といっても「半分やろう」を撤回(てっかい)しない。こうなればあらゆる商売のように、所詮(しょせん)持たぬものは持ったものの意志に服従するばかりである。犬もとうとう嘆息(たんそく)しながら、黍団子を半分貰う代りに、桃太郎の伴(とも)をすることになった。
 桃太郎はその後(のち)犬のほかにも、やはり黍団子の半分を餌食(えじき)に、猿(さる)や雉(きじ)を家来(けらい)にした。しかし彼等は残念ながら、あまり仲(なか)の好(い)い間がらではない。丈夫な牙(きば)を持った犬は意気地(いくじ)のない猿を莫迦(ばか)にする。黍団子の勘定(かんじょう)に素早(すばや)い猿はもっともらしい雉を莫迦にする。地震学などにも通じた雉は頭の鈍(にぶ)い犬を莫迦にする。――こういういがみ合いを続けていたから、桃太郎は彼等を家来にした後も、一通り骨の折れることではなかった。
 その上猿は腹が張ると、たちまち不服を唱(とな)え出した。どうも黍団子の半分くらいでは、鬼が島征伐の伴をするのも考え物だといい出したのである。すると犬は吠(ほ)えたけりながら、いきなり猿を噛(か)み殺そうとした。もし雉がとめなかったとすれば、猿は蟹(かに)の仇打(あだう)ちを待たず、この時もう死んでいたかも知れない。しかし雉は犬をなだめながら猿に主従の道徳を教え、桃太郎の命に従えと云った。それでも猿は路ばたの木の上に犬の襲撃を避けた後だったから、容易に雉の言葉を聞き入れなかった。その猿をとうとう得心(とくしん)させたのは確かに桃太郎の手腕である。桃太郎は猿を見上げたまま、日の丸の扇(おうぎ)を使い使いわざと冷かにいい放した。
「よしよし、では伴をするな。その代り鬼が島を征伐しても宝物(たからもの)は一つも分けてやらないぞ。」
 欲の深い猿は円(まる)い眼(め)をした。
「宝物? へええ、鬼が島には宝物があるのですか?」
「あるどころではない。何でも好きなものの振り出せる打出(うちで)の小槌(こづち)という宝物さえある。」
「ではその打出の小槌から、幾つもまた打出の小槌を振り出せば、一度に何でも手にはいる訣(わけ)ですね。それは耳よりな話です。どうかわたしもつれて行って下さい。」
 桃太郎はもう一度彼等を伴に、鬼が島征伐の途(みち)を急いだ。

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