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薬(くすり)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 15:50:30  点击:  切换到繁體中文

底本: 魯迅全集
出版社: 改造社
初版発行日: 1932(昭和7)年11月18日
入力に使用: 1932(昭和7)年11月18日

 

魯迅

井上紅梅訳




        一

 あかるい月は日の出前に落ちて、寝静まった街の上に藍甕あいがめのような空が残った。
 華老栓かろうせんはひょっくり起き上ってマッチを擦り、油じんだ燈盞とうさんに火を移した。青白い光は茶館の中の二間ふたまに満ちた。
「お父さん、これから行って下さるんだね」
 と年寄った女の声がした。そのとき裏の小部屋の中で咳嗽せきの声がした。
「うむ」
 老栓は応えて上衣うわぎぼたんめながら手を伸ばし
「お前、あれをお出しな」
 華大媽かたいまは枕の下をさぐって一つつみの銀貨を取出し、老栓に手渡すと、老栓はガタガタふるえて衣套かくしの中に収め、著物きものの上からそっと撫でおろしてみた。そこで彼は提灯ちょうちんに火を移し、燈盞を吹き消して裏部屋の方へ行った。部屋の中には苦しそうなむせび声が絶えまなく続いていたが、老栓はそのひびきのおさまるのを待って、静かに口をひらいた。
小栓しょうせん、お前は起きないでいい。店はお母さんがいい按排あんばいにする」
「…………」
 老栓はせがれが落著いてねむっているものと察し、ようやく安心して門口かどぐちを出た。
 街なかは黒く沈まり返って何一つない。ただ一条の灰白はいじろみちがぼんやりと見えて、提灯の光は彼の二つの脚をてらし、左右の膝が前になりあとになりして行く。ときどき多くのいぬったが吠えついて来るものもない。天気は室内よりもよほど冷やかで老栓は爽快に感じた。何だか今日は子供の昔に還って、神通じんづうを得て人の命の本体を掴みにゆくような気がして、歩いているうちにも馬鹿に気高くなってしまった。行けば行くほど路がハッキリして来た。行けば行くほど空が亮るくなって来た。
 老栓はひたすら歩みを続けているうちにたちまち物に驚かされた。そこは一条の丁字街ていじがいがありありと眼前に横たわっていたのだ。彼はちょっとあと戻りしてある店の軒下に入った。閉め切ってある門にもたれて立っていると、身体が少しひやりとした。
「ふん、親爺」
「元気だね……」
 老栓は喫驚びっくりして眼を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)みはった時、すぐ鼻の先きを通って行く者があった。そのうちの一人は振向いて彼を見た。かたちははなはだハッキリしないが、永く物に餓えた人が食物たべものを見つけたように、つかみ掛って来そうな光がその人の眼から出た。老栓は提灯を覗いて見るともう火が消えていた。念のため衣套をおさえてみると塊りはまだそこにあった。老栓はかしらを挙げて両側を見た。気味の悪い人間が幾つも立っていた。三つ二つ、三つ二つと鬼のような者がそこらじゅうにうろついていた。じっと瞳をえてもう一度見ると別に何の不思議もなかった。
 まもなく幾人か兵隊が来た。向うの方にいる時から、著物の前と後ろに白い円い物が見えた。遠くでもハッキリ見えたが、近寄って来ると、その白い円いものは法被はっぴの上の染め抜きで、暗紅色あんこうしょくのふちぬいの中にあることを知った。一時足音がざくざくして、兵隊は一大群衆に囲まれつつたちまち眼の前を過ぎ去った。あすこの三つ二つ、三つ二つは今しも大きな塊りとなってうしおのように前に押寄せ、丁字街の口もとまで行くと、突然立ち停まって半円状にむらがった。
 老栓は注意して見ると、一群の人は鴨の群れのように、あとから、あとからくびを延ばして、さながら無形の手が彼等の頭を引張っているようでもあった。暫時静かであった。ふと何か、音がしたようでもあった。すると彼等はたちまち騒ぎ出してがやがやと老栓の立っている処まで散らばった。老栓はあぶなく突き飛ばされそうになった。
「さあ、銭と品物の引換えだ」
 身体じゅう真黒な人が老栓の前に突立って、その二つの眼玉から抜剣ぬきみのような鋭い光を浴びせかけた時、老栓はいつもの半分ほどに縮こまった。
 その人は老栓の方に大きな手をひろげ、片ッぽの手に赤い饅頭まんじゅうつまんでいたが、赤い汁は饅頭の上からぼたぼた落ちていた。
 老栓は慌てて銀貨を突き出しガタガタ顫えていると、その人はじれったがって
「なぜ受取らんか、こわいことがあるもんか」
 と怒鳴った。
 老栓はなおも躊躇ちゅうちょしていると、黒い人は提灯を引ッたくってほろを下げ、その中へ饅頭を詰めて老栓の手に渡し、同時に銀貨を引掴ひっつかんで
「この老耄おいぼれめ」
 と口の中でぼやきながら立去った。
「お前さん、それで誰の病気をなおすんだね」
 と老栓は誰かにきかれたようであったが、返辞もしなかった。彼の精神は、今はただ一つのパオ(饅頭)の上に集って、さながら十世単伝じっせたんでん一人子ひとりごいだいているようなものであった。彼は今このパオの中の新しい生命を彼の家に移し植えて、多くの幸福を収めたいのであった。太陽も出て来た。彼のめのまえには一条の大道だいどうが現われて、まっすぐに彼の家まで続いていた。後ろの丁字街の突き当たりには、破れた※(「匚+扁」、第4水準2-3-48)へんがくがあって「×亭口ていこう」の四つの金文字きんもじ煤黒すすぐろく照らされていた。


 

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