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白蛇の死(しろへびのし)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 17:12:34  点击:  切换到繁體中文

底本: 海野十三全集 第1巻 遺言状放送
出版社: 三一書房
初版発行日: 1990(平成2)年10月15日
入力に使用: 1990(平成2)年10月15日第1版第1刷
校正に使用: 1990(平成2)年10月15日第1版第1刷

 

浅草寺せんそうじの十二時の鐘の音を聞いたのはもう半時はんとき前の事、春の夜はけて甘くなやましく睡っていた。ただ一つ濃い闇を四角に仕切ってポカッと起きているのは、厚い煉瓦塀れんがべいをくりぬいた変電所の窓で、内部なかには瓦斯ガスタンクの群像のような油入あぶらいり変圧器が、ウウウーンと単調な音を立てていた。真白な大理石の配電盤がパイロット・ランプの赤や青の光を浮べて冷たく一列に並んでいた片隅には、一台の卓子テーブルがポツンと置かれて、その上に細い数字を書きこんだ送電日記表そうでんにっきちょうの大きな紙と、鉛筆が一本無雑作むぞうさに投げ出されていたが、しかし当直技手の姿は何処にも見えなかった。
 今、全く人気ひとけの無いこの大きい酒倉さかぐらのような変電所の中では、ただ機械だけが悪魔の心臓のように生きているのであった。
 スパーッ!
 リンリンリンリン。
 突然白け切った夜の静寂せいじゃくを破って、けたたましい音響がほとばしる。毒々どくどくしい青緑色せいりょくしょく稲妻いなずま天井裏てんじょううらにまで飛びあがった。――電路遮断器サーキット・ブレッカーが働いて切断したのだった。
 と、思い掛けぬ窓のかげから素早く一人の男が飛び出して、配電盤の前へ駈けつけた。彼は慣れ切っている正確な手附きで、抵抗器の把手ハンドルをクルクルと廻すと、ガチャリと大きな音を立てて再び電路遮断器サーキット・ブレッカーを入れた。パイロット・ランプが青から赤に変色して、ぱたりとベルが鳴止なりやむ。そのまま技手は配電盤の前に突っ立って、がっしりした体を真直まっすぐに、見えぬ何物かを追っているようであった。もう四十年輩の技術には熟練しきった様な男である。――一分、二分。春の夜は闌けて、甘く悩しく睡っていた。
土岐ときさん! 土岐さん、一寸ちょっと……」
 不意に裏口へつづく狭いドアが少し開いて、その間から若い男の顔がヒョクリと現われた。ひどく蒼白い顔をして、明らかに何事か狼狽ろうばいしながら四辺あたりはばかっていた。
「おう」くるりと振返った技手は、
「国ちゃんか、なんだい?」と、何気なにげなく配電盤を離れた。
「あの、一寸来てくれませんか、うも可笑おかしいんです。およしたおれちゃって」
 青年は一途いちずに救いを求めるような、混乱した表情を見せなから、からびた言葉をぐっと呑みこんだ。
「お由――」
「ええ、仆れちゃったきり、どうしても起きないんです。困ってしまってね」
 土岐健助けんすけは濃い眉を寄せてチラリと窓の方を眺めた。
「弱ったな、相棒あいぼうは起せないし――」
「ええ?」
喜多公きたこうなんだよ。考えものだからね」
 さっと青年の眼はおびえあがった。
「ま、この儘にして置いて一寸行って見よう。何処だい?」
 技手は思い返した様に、気軽に青年の肩を押しながら裏口へ出た。乏しい軒灯けんとうがぽつんぽつんと闇に包まれている狭い露路ろじを、忍ぶように押黙って二十歩ばかり行くと、
「土岐さん、此処ここ!」と、青年は立止って道を指した。
 顔を地につけるようにして見ると、仰向あおむきになった、銀杏ぎんなんのようなお由の円い顔が直ぐ目についた。くびから、はだけた胸のあたりまで、日頃自慢にしていた「白蛇しろへび」のような肌が、夜眼にもくっきりと浮いている。のけぞっているので、まげは頭の下に圧しつぶされ、赤い手絡てがら耳朶みみたぶのうしろからはみ出していた。
「お由、お由!」
 青年は憚るように声を殺して呼びながら、強く女を揺ぶったが、ぐったりと身動きもしなかった。彼は前にも幾度かそうして見たのであったが、もう一度機械的に黒繻子くろじゅすえりを引き開け、奇蹟にでもすがるようにぐっと胸へ手を差し入れた。直ぐにむっちりと弾力のある乳房が手に触れたが、その胸にはもう、彼を散々悩ましたあのけつくような熱は無く、わずかに冷めて行くほの温味あたたかみしか感じられなかった。心臓は?(ほら、こんなにね)と、よく彼の手を持って行っては、その強い躍動を示して笑った心臓も、パタリと止ってしまっている。
「ああ、心臓が止っている――」
「なに、心臓が!」
 ぼんやり中腰ちゅうごしになってお由の白い顔を眺めていた土岐健助は、初めて愕然がくぜんと声をあげた。そして、おずおずとお由の硬張こわばった腕を持ったが、勿論もちろんみゃくは切れていた。
「国ちゃん、一寸胸を開けて」
 青年が力一杯襟をはだけるのを待って、土岐は心持ち顔を赤らめながら、お由の乳房の下へぴたりと耳を押しつけて見た。少しの鼓動も無い。すぐに眼瞼まぶたをひらいて見たが、瞳孔どうこうはもう力なく開き切っていた。
「死んでいる。もう全く呼吸が無くなっているんだ」
「大変なことになったな――でも、どうして死んだんでしょう」
「どうしてって君、君は今までどうしていたんだい?」
 そう聞かれると、さすがに青年は此の年輩ねんぱいの技手に対して、赤い顔をした。が、いずれにしても今の場合土岐の力を借りるより外、この気の弱い青年には縋るものが無かったので、前後も無く早口にこう話し出した。
 ――よいあかりが点くと間もなく、お由は何時いつもの通り裏梯子うらばしごから、山名国太郎やまなくにたろうが間借りをしている二階へ上って来たのであった。
「今夜はね、根岸ねぎしさとへ行って来るって胡魔化ごまかして来たのよ。私だって、たまにはゆっくりとまって見たいもの。――大丈夫よ。まさか親分だって、そんなに女房を疑っちゃ、おじいさんの癖に外聞が悪いもの。かまうもんか、知れたら知れた時の事さ」
 妖婦ようふ気取りのお由は、国太郎にぴったり寄添いながら非常に嬉しそうであった。そして散々この気の弱い青年をいじめぬいて、少しも側から離そうとはしなかったが、つい先刻さっきになって不図ふと気が変ってしまった。
り私、帰った方がいわ。あんた怒りゃしないわね。又来るには泊らない方が出好いもの、ね」
「だってもう十二時過ぎだぜ」
こわかあないわ。こう見えたって白蛇のお由さんだもの。夜道なんか平気よ」
「じゃ、其処そこまで送って行こう」
「無論だわよ」
 お由はまだ国太郎にからまつわりながら、裏梯子から表へ出た。が、塀を一つ曲って此処まで来ると、
「あら、私紙入れを置いて来ちゃった。ほら、先刻さっき帯を解いた時、一寸本箱の上へ置いたのよ。あんたが悪いんだから、いそいで取って来てよ」
 お由は国太郎の胸を肩で小突こづいて、二人の時だけに見せる淫蕩いんとうな笑いを顔一杯に浮べていた。その濃艶のうえんな表情が、まだはっきりと国太郎の眼に残っているのに――
 すぐに紙入れを取って引返して来た時には、もうお由は此処に仆れていたのであった。

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