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少年探偵長(しょうねんたんていちょう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 17:05:45  点击:  切换到繁體中文

底本: 海野十三全集 第13巻 少年探偵長
出版社: 三一書房
初版発行日: 1992(平成4)年2月29日
入力に使用: 1992(平成4)年2月29日第1版第1刷
校正に使用: 1992(平成4)年2月29日第1版第1刷

 

 怪事件の第一ページ


 まさか、その日、この大事件の第一ページであるとは春木はるき少年は知らなかった。あとからいろいろ思い出してみると、その日は、運命の大きな力が、春木清はるききよしをぐんぐんそこへひっぱりこんだとも思われる。
 ふしぎな偶然ぐうぜんの出来事が、ふしぎにいくつも重なって起ったような感じだが、それもみんな、清少年の運命であったにちがいないのだ。
 奇々怪々ききかいかいなるその大事件は、第一ページにあたるその日において、ほんのちょっぴり、その切口きりくちを見せただけであった。もし春木少年が、そのときにこの事件の大きさ、深さ、ものすごさ、おそろしさを半分ぐらいでも見とおすことができたなら、彼はこの事件に関係することをあきらめたであろう。それほどこの事件は、大じかけの恐怖事件きょうふじけんであって、とても少年の身では歯がたたないばかりか、大危険だいきけんにまきこまれることは分りきっていたのである。
 まあ、まえおきのことばは、このくらいにしておいて春木少年がその事件の第一ページの上に、どういう工合ぐあいにして、足を踏みこんだか、それについて語ろう。
 その日、春木少年は、この間から学校で仲よしになった同級生の牛丸平太郎うしまるへいたろうという身体からだの大きな少年といっしょに、日曜を利用した山登りをやっていたのである。その山登りというのは、芝原水源地しばはらすいげんちの奥にあるカンヌキ山の頂上まで登ることであった。
 春木少年が、この町へ来たのは、ほんの一カ月ほど前のことであった。その前、彼は東京にいた。この町は関西の港町だ。
 くわしいことは、いずれ後でのべる時があるから、ここには説明しないが、春木少年は、家の事情によって、とつぜんこの港町の伯母おばさんの家へあずけられたのであった。そして清は、近くの雪見ゆきみ中学校へ転校入学したのだった。彼は三年生だった。
 一時はずいぶんさびしい思いもしたが、清はこの頃ではすっかりなれてしまった。そして学校にも牛丸君のような愉快な友だちができるし、それから又港町のうしろにつらなっている連山れんざんの奥ふかく遊びにいく楽しみを発見して、ひまがあれば山の中を歩きまわった。
 その日、清は、牛丸のへいちゃんと連立つれだって、おひるごろカンヌキ山の頂上にたどりついた。そこで弁当をたべ、それからそこらにある荒れ寺の境内けいだいでさんざん遊び、それから午後三時ごろになって、二人は帰途きとについた。
 秋の日は、六時頃にはもうとっぷり暮れるので、午後三時に頂上を出ると、ふもとへ出て町へはいるときは、町にも港にもがいっぱいついているはず、すこし山の上で遊びすぎておそくなった。
 そこで二人は、競走をして、山を下りることにした。
 カンヌキ山を下りて、芝原水源地に近くなったところに、渓流けいりゅうにうつくしい滝がかっているところがある。この滝の名は、イコマの滝というんだそうだ。文字はたぶん生駒いこまたきと書くのであろう。
 カンヌキ山から出ている下り道が二つあった。東道と西道だ。この二つの道は、生駒の滝のすこし手前で出会い、いっしょになる。そこで春木少年と牛丸少年は、べつべつの道をとってどっちが早く生駒の滝につくか、その滝の前で出会う約束で、競走をはじめたのだった。
「ぼくは、だんぜん東道の方が早いと思うね。ぼくは東道ときめた」牛丸少年はそういった。
「そうかなあ。じゃあ、ぼくは西道をかけ下りて、君より早く、滝の前についてみせる」
 春木少年は、牛丸が東道をえらんだものだから、やむなく西道を下りることにしたのだった。この決定が、春木少年を例の事件にぶつからせることになった。もしこの時反対に、牛丸少年が西道をえらんだら、牛丸の方が怪事件にぶつかったことであろう。
 二人は、ンで、左右へ別れて、山を下りはじめた。
 秋の日は、まだかんかん照っていた。しかしだいぶん低くなっていた。
 春木少年の方は、口笛を吹きながら、手製てせいつえをふりまわしつつ、どんどん山を下りていった。すこし心細くないでもなかったが、ときどき山のからはるか下界げかいの海や町が見えるので、そのたびに彼は元気をとりもどした。
 二時間ばかり後に、彼はついに生駒の滝の音が聞える近くにまで来た。
「さあ、ぼくの方が早いか。それとも牛丸君が勝ったか。なにしろ牛丸君は、この土地に生れた少年だから、山の勝手かってはよく知っている。だから、ぼくはかなわないや」
 春木の方は、そういうわけで自信がなかった。
 ところが、実際は春木の方が、ずっと先についたのであった。
 牛丸少年の方は、途中とちゅうで手間どっていた。というのは、東道では、途中で丸木橋まるきばしが落ちていて、そのため彼は大まわりしなくてはならなかった。本当は、東道の方が近道だったのだけれど、思いがけない道路事故のため、牛丸は春木清よりも、三十分もおくれて現場げんばにつくことになったのだ。
 そして三十分もおくれたことが、二人の少年の運命の上に、たいへんなちがいをもたらした。それは一体どういうことであったか。春木少年は、何事も知らず、生駒の滝の前へついて、
「しめた。ぼくの勝だ。牛丸君は、まだついていないじゃないか」
 と、ひとりごとをいって、あたりを見まわした。滝は、大太鼓おおだいこをたくさん一どきにならすように、どうどうとひびきをあげて落ちている。春木は帽子ぼうしをぬいで、汗をぬぐった。紅葉もみじかえでがうつくしい。
「おやッ」少年は目をみはった。
 滝をすこし行きすぎた道の上に、だれか倒れているのであった。黒い洋服を着た男であった。
(どうしたのだろう)
 様子がへんなので、清はおそるおそる、そのそばに近づいた。すると、いやなものが目にはいった。うつむいて倒れているその洋服男のかたく握りしめた両手が、まっ赤であった。血だ。血だ。
「死んでいるのか?」
 少年が、青くなって、再びひとみをこらしたときに、洋服男の血まみれの手が少し動いて、土をひっかいた。


   重傷の老人


「あ、あの人は生きているんだ」春木少年は叫んだ。
 叫ぶと、そのあとは、おそろしさも何も忘れて、血染ちぞめの洋服男のそばにかけより、ひざをついて、
「もしもし。しっかりなさい。どうしたのですか。どこをやられたのですか」と、呼びかけた。
 そのとき少年は、この血染めの人が、かなりの老人であることを知った。顔に、ひげがぼうぼうとはえ、黒い鳥打帽子とりうちぼうしがぬげていてむき出しになっている頭髪とうはつは、白毛しらがぞめがしてあって、一見いっけん黒いが、その根本のところはまっ白な白毛であった。鳥打帽子がぬげているそばには、茶色のガラスのはまった眼鏡めがねが落ちていた。
 老人は、苦しそうに顔をあげて、春木の方へ顔をねじ向けた。が、一目春木を見ただけで、がっくりと顔を地面に落とした。全身の力をあつめて、自分に声をかけた者が何者であるかをたしかめたという風であった。
 老人は、うんうんうなりはじめた。
「しっかりして下さい。傷はどこですか」
 と、春木はつづいて叫びながら老人をいだきおこした。
 わかった。老人の胸はまっ赤であった。地面じめんにおびただしく血が流れていた。傷は、弾丸だんがんによるものだった。左のくびのつけ根のところから弾丸たまがはいって、右の肺の上部を射ぬき、わきの下にぬけている重傷であったが、春木少年には、そこまではっきり見分ける力はなかった。しかし傷口きずぐちがあることは彼にもよく見えたので、そこを早くしばってあげなくてはならないと思った。
 しばるものがない。繃帯ほうたいがあればいいんだが、そんなものは持合わせがない。
 どうしようか。そうだ。こうなれば服の下に着ているシャツと、それから手拭てぬぐいとを利用するほかない。春木少年は実行家じっこうかだったから、そう決心するとまず老人を元のようにねかし、それから急いで服をぬぎすて、しまのシャツをぬぐと、それをベリベリと破って長いきれをこしらえ、端と端とつなぎあわせた。手拭もひきさいて、それにつないだ。
「これでよし。さあ出来た。おじさん、しっかりなさい。傷口にりの繃帯をしてあげますからね」
 そういって春木は、再び老人を抱きおこして、上向うわむきにした。
 老人は口から、赤いものをはき出した。胸をやられているからなのだ。少年は、絶望の心をおさえ、老人をしきりにはげましながら、傷口をぐるぐる巻いてやった。
 その間に、老人は苦しそうにあえぎながら、目をあけたり、しめたりしていたが、少年がしてくれた傷の手当がすんで、しずかに地面にねかされたとき、
「あ、ありがとう。か、神の御子みこよ……」
 と、しわがれた聞きとれないほどの声で、春木少年に感謝した。そのとき老人ののどが、ごろごろと鳴って、口から赤い泡立ったものがだらだらと流れだした。
「ものをいっては、だめです。おじさんは、胸に傷をしているのですからね」老人は、かすかにうなずいた。
「さあ、これからどうしたらいいか。ぼく、山を下りて、誰かを呼んで来ますから、苦しいでしょうが、しばらくがまんしていて下さい」
 そういって春木は、老人のそばから立ち上って、ふもとへ走ろうとしたが、そのとき、老人が一声高く叫んだ。
「お待ち」
「えッ」
「そばへ来てください」
「なんですか。そんなに口をきくと、また血が出ますよ」
 春木は、老人のそばへ膝をついた。
「もう、もう、わしはだめだ。あんたの親切にお礼をしたいから、ぜひ受けて下さい。今、そのお礼の品物を出すから、ちょっと、横を向いて下され」
「お礼なんて、ぼくは、いいですよ。大したことはしないんだから」
「いや、わしはお礼をせずにはいられない。それにこのまま、わしが死んでしまえば、莫大ばくだいなる富の所在ありかく者がいなくなる。ぜひあんたにゆずりたい。あんたは、何という名前かの」
 老人は、苦しそうにあえぎ、赤い泡をふき出しながら、少年に話しかける。その事柄は、まこといつわりかはっきりしないが、とにかく重大なことだ。
「ぼくは、春木清はるききよしというのです」
「ハルキ・キヨシ。いい名前だな。ハルキ・キヨシ君に、わしは、わしの生命いのちの次に大切にしていたものをゆずる。キヨシ君。すまんがわしをもう一度、うつ向けにしておくれ」
 春木少年は、老人のいうとおりにした。
「キヨシ君。わしがいいというまで、ちょっと横を向いていておくれ」
 老人は、へんなことをいった。しかし少年は、いわれるとおりにした。
 老人は、ふるえる手を、自分の目のところへ持っていった。それから彼は、指先で右の目のところをもんでいた。そのうちに、老人の指先には、白いたまがつまみあげられていた。卵大たまごだいではあるが、卵ではなく、一方に黒い斑点はんてんがついていた。
 義眼ぎがんであった。老人の右の目にはいっていた入れ目であった。
「さ。これをキヨシ君に進呈しんていする」
 老人は、気味のわるい贈物を、春木少年の方へさしだした。
 なんということであろう。老人は気が変になったのであろうか。
 春木少年は、まさか義眼とも思わず、それを卵か石かと思って受取った。

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