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人造人間の秘密(じんぞうにんげんのひみつ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 17:23:40  点击:  切换到繁體中文

底本: 海野十三全集 第7巻 地球要塞
出版社: 三一書房
初版発行日: 1990(平成2)年4月30日
入力に使用: 1990(平成2)年4月30日第1版第1刷
校正に使用: 1990(平成2)年4月30日第1版第1刷

 

ドイツ軍襲来しゅうらい

「おい、起きろ。ドイツ軍だ!」
 隣室りんしつのハンスのこえである。部屋の扉は、いまにも叩き割られそうである。
 私は、自分でも、なんだかわけのわからない奇声きせいを発して、とび起きた。
 扉は、めりめりと、こわれはじめた。
「もしもし、今、扉を叩きこわしていられるのは、ドイツ軍のお方ですか」
 私は、いそいでズボンをはきながら、入口の方へ、こえをかけた。
「おどけたことをいうな。この際に、ひとをからかうもんじゃない」
 ハンスは、扉をこわすのをやめて、裂け目の向こうで、ふうふう一と息をついている。夜光時計やこうどけいをみると、ちょうど午前三時であった。
「おい、ハンス。これから、どうするつもりか」
「すぐフランス国境へ逃げださないと、もう間にあわないぞ、手取てっとり早く、用意をしろ。――おい、早くここをあけないか」
「なんだ。あんなに大きな音をたてながら、まだ扉はあいてないのか」
「よけいなことは、一口もいうな」
 ハンスは怒っている。
 私は、ちゃんと服を着てしまったので、扉の鍵に手をかけた。
 とたんに、それがきっかけでもあるかのように、戸外で、だだだだだン、だだだだンと、はげしい銃声がきこえた。
「あっ、機関銃の音だ! さては、市街戦が始まったんだな」
 鍵をまわすのと、ハンスが室内へころげこんでくるのと、同時だった。
「今のを聞いたか。ドイツの落下傘パラシュート部隊だ!」
「えっ、そんなものが、やってきたか」
 私は、ドイツ軍の大胆さと徹底ぶりとから、大きな感動をうけた。
「おい、千吉せんきち。早くしろ、早くしろ。例のものを、持ち出すんだ」
「例のもの?」
「ほら、例のものだ。モール博士から預けられた例の密封みっぷうした二本の黒いつつを持ちだすのだ」
「うん、あれか。あんなものを持って逃げなければならないか」
「もちろんだ。われわれ二人の門下生は、特に博士から頼まれてるのだ。博士の信頼をうら切ってはならない」
 モール博士というのは、このベルギー国のモール科学研究所の所長で、私もハンスも、この門下生だった。博士は、ちょうどドイツ軍がオランダに侵入したことが放送された直後、われわれ二人をよんで、その二つの黒い筒を預けたのだった。
 ――非常の際には、君たちは、何をおいても、これを一本ずつ背負って逃げてくれ。そして世界大戦がしずまって、わしが再び世にあらわれるまでは、それを各自が、ちゃんと保管していてくれ。もちろん、その密封を破ることはならない。もし、万一この筒を捨てなければならないときが来たら、底のところから出ている導火線に火をつけるんだ。だが、いよいよもういけないというときでなければ、火をつけてはならない。わかったね。――
 モール博士は、長さ三十センチほどの、なんの印もついていない黒い筒を二本、二人の前に並べたのであった。
 ――博士、一体この筒の中には、なにが入っているのですか。いや、もちろん、それは秘密なんでしょうが、お預りする以上、その中身のことがいくらか解っていないと、保管するにしても、持ちはこぶにしても、用心の仕方がありますからね――
 と、これは、私がいったのである。すると博士は、怒ったような顔になって、しばらくうなっていたが、やがていて自分の気分をほぐすように、広い額をとんとんと叩き、
 ――なるほど、そういわれると、君たちのいうことはもっともだとおもう。ではいうが、これは絶対に他人に洩らしてはならない。じつはこの二本の黒い筒の中には、わしが生命をかけて完成した或る兵――いや、或る器械の研究論文が入っているのだ。ここへ書いて置いては、焼けてしまうか、失ってしまうかだ。だから、君たち二人にまかして、いざというときには、持ってにげてもらおうとおもう。ことに、これがドイツ側の手にわたることを、わしは、極端にきらいかつ恐れる。そういうことがあれば、天地が、ひっくりかえる。すべてがおしまいになる!
 博士は、あおい顔をしていった。
 ――博士。なぜドイツ側の手に入ると、万事ばんじがおしまいになるのですか。一体、どんなことが起るのですか――
 と、私は、博士のおもっていることを、もっとはっきりしたいと考え、追窮ついきゅうした。
 ――それ以上、いえない。なんといっても、いえない。――
 そういったきり、博士は、がんとして、そのあとのことをしゃべろうとはしなかったのだ。
 ぐわーン。がらがらがらがら。
 家が、大地震のように鳴動めいどうした。迫撃砲弾はくげきほうだんが、この建物に命中したらしい。もう猶予ゆうよはならない。
「おい、ハンス。もう駄目だ。逃げよう」
 と、私は友を呼んだが、そのときハンスは、黒い筒の一本を抱えたまま、ものもいわず、二階の窓から外へとびおりた。

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