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人造人間の秘密(じんぞうにんげんのひみつ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 17:23:40  点击:  切换到繁體中文


   ふしぎな再会さいかい

 モール博士と、行きあったのだ。ふしぎなところで、一緒になったものだ。
「おどろいたのは、わしの方のことだ。君はいつの間に、あの黒い筒の中に入れておいた設計図を使って、こんな人造人間を作りあげたのかね」
 博士は、車上から、こわい顔をして、私たちをにらみつけた。
 そういわれると、私は一言もない。私は、もう仕方がないと思ったので、こうなったわけを手短かに、博士に報告した。
 博士は、私の一語一語に、顔を赤くして、ドイツ軍をのろっていた。しかし、私に対しては、思いのほか、不快に思っていないらしい。
「博士。でも、へんですな」
「なにが、へんだ」
「でも、私は、この人造人間が、私たちを国境附近へつくまでは、全速力で走るように、ちゃんと器械を合わして来たのに、ここで停ってしまったのは、どういうわけでしょうか」
「なんだ、そんなことか。それは造作ぞうさないことさ。ふふふふ」
 博士は、奇妙なこえをあげて、笑った。
「造作ないとは?」
「つまり、わしが停めたのさ。発明者であるわしには、あの設計によるA型人造人間を停めることなんか、わけはないのだ。さいわいに、その器械をつんだ自動車が、あそこにああして、こわれずに、ちゃんとしているんだ」
 と、博士は得意そうにいった。
 なるほど、これは道理どうりである。この人造人間がA型という名のついているものであることは始めてしったが、そのA型人造人間の発明者であるモール博士が、それを停めたり、また走らせたりする器械をもっているのは、ふしぎなことではない。
「そんなことは、なんでもないが、ベン隧道トンネルの下の、ドイツ軍の秘密の地下工場で、早速さっそくこのようなりっぱな実物じつぶつをつくりあげてしまったことは、腹も立つが、なんとおどろくべき、製造力だろう」
 と、さすがの博士も、舌をまいた。
「博士はこれから、どうされるのですか」
「わしかね。わしは、やはり国境を越えて、フランスに入るつもりだ。君にあって、たいへんうれしいが、あと、ハンスのことが気がかりだが、仕方があるまい。では、君たち、わしの自動車に、一緒にのったがいい」
 博士は、車上から手招てまねきをした。
 ニーナは、さっきから、道傍みちばたに身体をなげだして、死んだようになって、疲れを休めていたが、これを聞くと、むくむくと起きあがって、博士の自動車の方へ、よろめき歩いて行った。私も、ニーナにならうより外はない。しかし、この人造人間を、このままにしておくのは、たいへん勿体もったいないことだと思ったので、
「博士、この人造人間は、どうしますか」
 と、たずねた。
 博士は、車上にかがんで、受話器を耳にあてて、何かの音を聞いていたが、このときひげもじゃの顔をあげ、
「この人造人間は、ここで片づけていく」
「片づけていくとは……」
「なあに、こわしていくのさ」
「そんなことが出来るのですか」
「出来るとも。わしが設計したんだもの。しかもこのA型人造人間も、ハンスの持っているB型人造人間も、じつはどっちも、不完全なんだから、こわすのは、わけなしだ」
 博士は、妙なことをいいだした。
「不完全ですって。なにが、不完全なんですか」
「そのわけは、ちょっと簡単にいえない。が、要するに、ちょっとやれば、すぐこわれてしまうようなものは、不完全の証拠しょうこだ。わしは……」
 といいかけた博士は、そこで急にことばをきって、熱心に受話器から流れ出す音をきき始めた。
「おお、そうか。いよいよやって来たか」
「やって来た? なにがやって来たのです」
「人造人間部隊の襲来しゅうらいだ。おそらく、お前たちが出発してすぐその後から、ドイツ軍がくりだしたものだろう。おお、見える見える。もうあそこまで来た。畜生、わしのものを失敬して、わしを攻めるとは、けしからんドイツ軍だ。だが、今に見ておれ」
 博士は、かずかずののろいのことばを、地平線のあなたに投げつけた。はるかうしろの、もうすっかり明け放れた地平線上には、いつの間に追いついたのか、三四百人の人造人間部隊が、肩を揃え、顔を並べて、大河の流れのように、こっちへ押しよせてくるのであった。
「あっ、撃った」
「えっ」
「人造人間の腕に仕掛けてある機銃きじゅうが、一せいにこっちに向いて、撃ちだしたぞ」
 だだだン、だだだン、だだだン。
 ものすごい銃声だ。銃弾は、ひゅーン、ひゅーンと、うなりごえをあげて、私たちのまわりにとんで来る。私は、博士にうながされて、いそいで自動車上の人となった。
「見ていろ、千吉。今あの人造人間部隊を、一時にぶっつぶしてみるから」
 博士は、しわがれたこえで叫ぶと、車上の器械のスイッチを入れて、ボタンをぽンぽンと押した。
「あれ、見よ!」
 轟然ごうぜんたる音が、人造人間部隊の中から、起った。私は、今までに、こんな痛快な光景をみたことがない。一瞬のうちに、人造人間部隊は、ばらばらになって、空中に飛び散ってしまったのである。その有様ありさまは、飛行機の空中分解と、あまりかわらなかったが、しかし、これは、何百というA型人造人間が、一せいに分解して飛び散ったのであるから、その壮観そうかんな光景といったら、なんといってあらわしたがいいか、見当がつかないほどだ。
 ドイツ軍が、人造人間で追撃させたことも、博士のために、無駄に終った。

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