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半七捕物帳(はんしちとりものちょう)34 雷獣と蛇

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-28 10:03:02  点击:  切换到繁體中文


     四

「これでいい」と、老人は又おちついて話し出した。
「わたくしは先ず辻番へ行って、そこに引き取られている娘の死骸をみせて貰いました。それからだんだんといてみると、その蛇の一件の最中に、油断して紙入れや莨入たばこいれをり取られた者もあるという。それで先ず大体の見当はつきましたが、蛇と切髪の方がまだよく判りません。蛇はともかくも、その切髪の理窟が呑み込めないので、わたくしは不図ふとかんがえて、この近所で蛇捕りを商売にしている者を探しました。じゃの道はへびというのはまったく此の事かも知れませんね。ははははは。子分の善八がそこらを駈けまわって、新宿の裏に住んでいる九助という蛇捕りを探し出しました。蛇やまむしを捕るのを商売にする男で、それを連れて来て詮議すると、九助はわけも無く白状しました。
 九助は商売で、前に云った蛇の道は蛇の一件ですから、この空屋敷が草深くなっていて、この頃は蛇がたくさんに棲んでいることを知っていたんですが、たとい空家になっていても、ともかくも表門裏門を閉め切ってある武家屋敷へむやみに踏み込むわけにも行かないので、何とかして蛇を表へ釣り出す工夫くふうをかんがえて、ひと束の髪の毛をつかんでその屋敷へ出かけて行ったんです。嘘かほんとうか知りませんが、女の髪の毛を焼くと其の油の臭いを嗅ぎつけて蛇が寄ってくるという伝説があるので、九助は塀の外で髪の毛を焼きはじめると、塀の中から大小の蛇がぞろぞろと出て来た。それはこっちの思う壷なんですが、なにしろたくさんの蛇が塀の下を、くぐったり、塀の上を登ったりして、果てしも無しにぞろぞろと繋がって出てくるので、さすがの九助もびっくりして、いくら商売でも気味が悪くなって来て、燃えさしの髪の毛をほうり出して一目散に逃げてしまったそうです。九助の話によると、そこら一面が蛇にうずめられて、往来が川のようになってしまったといいますが、怖いと思う眼で見たんだからあてにはなりません。
 そういうわけで、九助もあとの事は知らないんですが、往来の人たちが見つけた時には、それほどの蛇もいなかったそうです。それでもたくさんの蛇がその髪の毛を取りまいて、うず高くなるほどに盛りあがっていたのは、みんなも見たということですから、まあ間違いはないでしょう。そこで、その娘とそれを殺した奴との探索ですが、これはすぐに判りまして、二日ほど経ってから、おもよとお大という二人の若い女を渋谷で引き挙げました。殺されたのはおとくという女で、おもよとお大がその下手人げしゅにんでした」
 風はひとしきり吹き過ぎて、風鈴の音はまた鎮まった。老人はのきの方へ眼をやって、「又あつくなる」と、独り言のように云った。
「暑くなりそうですね」と、わたしも云った。
「ええ、降りそこなってしまいましたから……。このあとはきっとします。かないません」
「そこで、その女たちは何者です。まったく武家の娘なんですか」
「なに、みんな小商人こあきんどや職人の娘で、おとくは十四五の小娘につくっていましたが、実はかぞえ年の十七で、あとの二人も同じ年頃でした。こいつらは今日こんにちでいう不良少女で、肩揚げのおりないうちに自分たちの親の家を飛び出して、同気相求むる三人が一つ仲間になって、万引や巾着切きんちゃっきりや板の間稼ぎなどをやっていたんですが、下町したまちの方でだんだんに人の眼について来たので、このごろは武家の娘らしい姿に化けて、専ら山の手の方を荒しあるいていたんです。ところで、その当日、三人が連れ立って新屋敷を通りかかると、例の蛇の一件で大勢の人があつまっている。三人もそれを覗いているうちに、お大が小声でこんなことを云い出したそうです。
『どんな玉が這入っているか知らないが、あの蛇の中へ手を突っ込むことは出来まいね』
『なに、わけはないよ』と、おとくは平気で笑っていた。
『おまえさん、きっと出来るかえ』と、お大とおもよが念を押すと、おとくはきっと出来ると強情を張ったので、いわば行きがかりの意地ずくで、もしお前がほんとうにあの蛇のなかへ手を突っ込んで見せたらば、おまえをあたし達の仲間の姐御あねごにすると二人が云い出すと、おとくはすぐに出て行って、平気で蛇のとぐろのなかへ手を突っ込んで、例の切髪をつかみ出したので、なんにも知らない見物人は勿論、仲間の二人は流石さすがにびっくりしたんですが、人にさとられないようにみんな分かれ分かれにそこを立ち去ったので、誰も三人連れとは気がつかなかったんです。しかし見物人が蛇の方に気をとられている油断を見すまして、三人ながらそれぞれに巾着切りを働いていたというんですから、抜け目のないこと驚きます。
 おとくは掴み出した切髪を途中の川へ捨ててしまって、そこで自分の手を洗って、さてそれから二人にむかって、さあ約束通りにこれから自分を姐御にするかと云い出すと、おもよとお大はいやだと云う。それでは約束が違うと云う。不良少女三人はさんざん口ぎたなく云い合いながら、その晩はまず無事に帰ったんですが、あくる日も又それで喧嘩をはじめて、おとくがそんならお前も蛇を掴んでみろ、いくら口惜くやしがってもあたしの真似は出来まいと云うと、こっちの二人も行きがかりで、何の、あたし達だって掴んでみせると云う。なにしろお転婆てんば同士だから堪まりません。三人はその晩、また出直してあの空屋敷の門前へ忍んで来たんですが、きのうの蛇は勿論いる筈はないので、そんならこの屋敷の庭へ忍び込んで、見つけ次第に蛇をつかまえるということになって、三人はどこから這入ろうかと窺っているうちに、お大はおとくの隙をみて、隠して持っていた匕首あいくちを不意にその乳の下へ突っ込むと、いつの間にか云い合わせてあったとみえて、おもよも一緒に匕首をぬいて、これもおとくの脇腹へ突き立てたので、おとくはそのまま倒れてしまいました。その息の絶えたのを見とどけて、おもよとお大はそっと逃げ出したんですが、場末のさびしい屋敷町で、殊に夜ふけのことですから、誰もそれを知らなかったと見えます。
 二人がおとくを殺したのは別に深い理窟もないんです。どう考えても蛇をつかむのはいやだ。といって、おとくを姐御として尊敬するのも口惜くやしい。唯それだけのことで相手を殺す気になったので、年頃の女たちですけれども別に意趣遺恨は籠っていなかったようです。
 こういうわけで、この事件は別にむずかしい探索というほどのこともありませんでした。山の手の人たちは知らないでしょうけれども、わたくしは前からこのおとくという奴に目をつけていましたが、まだ年の行かない小娘だからと思って、まあ大目おおめに見逃がして置いてやると、こんな飛んでもない騒ぎを仕出来しでかしてしまったんです。それですから、辻番でその死骸をみせられた時に、わたくしは一と目でその身もとを覚って、すぐにその同類を探させたので、訳なしにらちが明きました。三人の隠れ家は渋谷のおさん婆という女の家でした。この婆がまた悪い奴で、表向きは駄菓子屋をしていながら、この娘三人を引き摺り込んで、盗んで来た品物をほかへさばいてやって、中途でうまい汁を吸っていることが露顕したので、これも一緒に召し捕られました。一体ここらは昔から蛇なんぞの多いところでしたが、この一件以来、その空屋敷を蛇屋敷と云い出して、明治になるまで誰も住んでいなかったようです」
 老人の話が済んだ頃から、空はだんだんに薄明るくなって来たが、風は死んだように吹かなくなった。風通しのいいのを自慢にしているこの六畳の座敷も息苦しいように蒸し暑くなって、遠い空では時々に雷の音も低くきこえたが、ここへは夕立を運んで来そうにも見えなかった。
「こいつあ降りません。ただすばかりですよ」と、老人は顔をしかめたが、やがて又笑い出した。「これじゃあ金儲けも出来ませんね」
 成程これでは雷獣も飛び込んで来そうも無かった。





底本:「時代推理小説 半七捕物帳(三)」光文社文庫、光文社
   1986(昭和61)年5月20日初版1刷発行
   1997(平成9)年5月15日11刷発行
※旺文社文庫版を元に入力し、光文社文庫版に合わせて校正した。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:網迫
校正:藤田禎宏
2000年8月22日公開
2004年3月1日修正
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