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紅毛傾城(こうもうけいせい)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-29 7:18:40  点击:  切换到繁體中文

底本: ひとりで夜読むな
出版社: 角川ホラー文庫、角川書店
初版発行日: 1977(昭和52)年10月15日
入力に使用: 2001(平成13)年1月10日改版初版
校正に使用: 2001(平成13)年1月10日改版初版

 

 序 ベーリング黄金郷エルドラドーの所在を知ること
     ならびに千島ラショワ島の海賊とりでのこと

 四月このかた、薬餌やくじから離れられず、そうでなくてさえも、夏には人一倍弱いのであるが、この夏私は、暑気が募るにしたがって、折りふし奇怪な感覚に悩まされることが多くなった。
 ちょうどそれは、私の心臓のなかで、脈打ちの律動が絶えず変化していくように、波打つ暑気の峰と谷とだ。はっきりと、しかも不気味にも知覚されるのであった。
 しかし、そうした折りには、家人に命じて庭先に火をかせ、それに不用な雑書類などを投げ入れるのである。それは、影像のたてをつくって、ひたすら病苦から逃がれんがためであった。
 そのようにして私は、真夏の白昼舌のような火炎を作り、揺らぎのぼる陽炎かげろうに打ち震える、夏菊の長い茎などを見やっては、とくりともなく、海の幻想に浸るのが常であった。
 ところが、ある一日のこと、ふとその炎のなかで、のたうち回る、一匹の鯨を眼に止めたのである。
 そこで私は、まったくあわてふためいて、手早く※(「火+畏」、第3水準1-87-57)おき蹴散けちらしながら、取りだした二冊の書物があった。ああ、すんでのことに私は、貴重な資料を焼き捨ててしまうところだった。
 表紙のないその二冊には、ただピーボディ博物館という、検印が押してあるのみなので、軽率にも私は、取るに足らぬ目録のたぐいかと誤信して、そのまま書きくずのなかへ突っ込んでしまったらしいのである。
 しかし、そうして事新しく、その二冊を手にしたとき、これこそ、泥沼に埋もれつつある石碑いしぶみの一つだと思った。
 それは以前、合衆国マサチュセッツ州サレムにあった、ピーボディ博物館の蔵書であって、著名な鯨画の収集家、アラン・フォーブス氏の寄贈になるものであった。
 で、そのうちの一冊は、書名を『捕鯨行銅版画集エッチングス・オヴ・ホウェーリング・クルーズ付記、捕鯨略史ウィズ・エ・ブリーフ・ヒストリー・オヴ・ゼ・ホウェール・フィッシャリー』という、一八六六年の版、ジェー・アール・ブラウンという人の著書である。
 それには、ヨナと鯨の古版画をはじめとして、それらに入れ混じり、勝川春亭しゅんていの「品川沖之鯨高輪たかなわより見る之図」や、歌川国芳くによしの「七浦捕鯨之図」「宮本武蔵巨鯨退治之図」などが挿入そうにゅうされてあった。
 しかし、真実の驚きというのは、もう一冊のほうにあって、私は読みゆくにしたがい、容易ならぬ掘り出し物をしたことがわかってきた。
 そのほうは、ずうっと版も古く、書名を『捕鯨船ブリッグ号難破録ゼ・ホウェーリング・ディザスター・オヴ・シップ・ブリッグ』というのである。
 その船の名は、スターバックの『亜米利加アメリカ捕鯨史』にも記されているとおりで、一七八四年の夏ボストンに、鯨油六百バレルを持ち帰ったのが、最初の記録だった。
 しかし同船は、その後一七八六年に、アリューシャン列島中のアマリア島で難破したのであるから、当然その一冊も、船長フロストの遭難記にほかならぬのである。
 ところが、内容の終わり近くになると、計らずも数ページの驚畏すべき記事が、私の眼を射た。
 それは、素朴そぼくそのままの、何ら飾り気のない文章で、七年ぶりに帰還した、土人ナガウライの談話と銘打たれてある。
 しかし、読みゆくにつれて、私の手は震え、脈が奔馬のように走り始めた。
 なぜなら、同人の見聞談として、最初まず、千島ラショワ島に築かれた、峨々ががたる岩城いわしろのこと……、また、そこに住む海賊蘇古根そこね三人姉弟のこと……、さらに、その島を望んだヴィッス・ベーリング――(注 ベーリング――。事実はそうでないが、ベーリング海峡の発見者といわれる丁抹デンマーク人。一七四一年「聖ピヨトル号」に乗じて、地理学者ステツレル、船長グレプニツキーとともに、ベーリング海峡を縦航したるも、十月五日コマンドルスキー群島付近において難破し、十二月八日壊血病にてたおる。その島をベーリング島という)が、兼ねて伝え聴きし、黄金郷こそこの島ならんか――と、その事実を、遺書にまで残したことなど、記されているのであるから。
 ELエル DORADOドラドー――それはついにインカ族が所在を秘しおおせてしまったところの、まさに伝説中の伝説であった。
 かつて、西班牙スペイン植民史には幻のはなとなって咲き、南米エセクイボの渓谷にあるとのみ信じられて、マルチネツはじめ、数千の犠牲をのみ尽くした黄金都市がそれである。
 だが、いったいベーリングは、なぜその夢想の都市に、千島ラショワ島を擬しているのであろうか。ああ、どうしてのこと、熱沙ねっさの中から、所在を氷海の一孤島に移しているのであろうか。
 私も、読み終わると同時に、しばらくの間は、熱気のほてりに茫然ぼうぜんとなっている。
 しかし、黄金郷エルドラドーの所在――そういう世紀的ななぞをめぐって、あの、ラショワ島の白夜を悩まし続けた、血みどろの悲劇を思うと、なんだかこれを、実録として発表するのが惜しくなってきた。
 そして、あわよくば一編の小説として、これを世に問いたい誘惑に打ちかち兼ねてしまったのである。

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