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松山鏡(まつやまかがみ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-2 5:57:16  点击:  切换到繁體中文


     二

 それから幾年いくねんかたちました。むすめもだんだん大きくなりました。ちょうど十五になったとき、おかあさんはふと病気びょうきになって、どっと寝込ねこんでしまいました。
 おとうさんは心配しんぱいして、お医者いしゃにみてもらいましたが、なかなかよくなりません。むすめよるひるもおかあさんのまくらもとにつきっきりで、ろくろくねむひまもなく、一生懸命いっしょうけんめいにかんびょうしましたが、病気びょうきはだんだんおもるばかりで、もう今日きょう明日あすがむずかしいというまでになりました。
 その夕方ゆうがた、おかあさんはむすめをそばにせて、やせこけた手で、むすめの手をじっとにぎりながら、
ながあいだ、おまえ親切しんせつ世話せわをしておくれだったが、わたしはもうながいことはありません。わたしがくなったら、おまえ、わたしのわりになって、おとうさんをだいじにしてげてください。」
 といいました。むすめなんということもできなくって、目にいっぱいなみだをためたまま、うつむいていました。
 そのときおかあさんはまくらの下からかがみして、
「これはいつぞやおとうさんからいただいて、だいじにしているかがみです。この中にはわたしのたましいめてあるのだから、こののちいつでもおかあさんのかおたくなったら、してごらんなさい。」
 といってかがみわたしました。
 それからもなく、おかあさんはとうとういきりました。あとにのこされたむすめは、かなしいこころをおさえて、おとうさんの手助てだすけをして、おとむらいの世話せわをまめまめしくしました。
 おとむらいがすんでしまうと、きゅうにうちの中がひっそりして、じっとしていると、さびしさがこみげてくるようでした。むすめはたまらなくなって、
「ああ、おかあさんにいたい。」
 とひとごとをいいましたが、ふとあのときおかあさんにいわれたことをおもして、かがみしてみました。
「ほんとうにおかあさんがいにくださるかしら。」
 むすめはこういいながら、かがみの中をのぞきました。するとどうでしょう、かがみこうにはおかあさんが、それはずっとわかうつくしいかおで、にっこりわらっていらっしゃいました。むすめはぼうっとしたようになって、
「あら、おかあさん。」
 とびかけました。そしていつまでもいつまでも、かおかがみしつけてのぞきんでいました。

     三

 そののちおとうさんは人にすすめられて、二めのおかあさんをもらいました。
 おとうさんはむすめに、
「こんどのおかあさんもいいおかあさんだから、くなったおかあさんとおなじように、だいじにして、いうことをくのだよ。」
 といいました。
 むすめはおとなしくおとうさんのいうことをいて、
「おかあさん、おかあさん。」
 といってしたいますと、こんどのおかあさんも、せんのおかあさんのように、むすめをよくかわいがりました。おとうさんはそれをて、よろこんでいました。
 それでもむすめはやはり時々ときどきせんのおかあさんがこいしくなりました。そういうとき、いつもそっと一間ひとまはいって、れいのかがみしてのぞきますと、かがみの中にはそのたんびにおかあさんがあらわれて、
「おや、おまえ、おかあさんはこのとおり達者たっしゃですよ。」
 というように、にっこりわらいかけました。
 こんどのおかあさんは、時々ときどきむすめかなしそうなかおをしているのをつけて心配しんぱいしました。そしてそういうとき、いつも一間ひとまはいんで、いつまでも出てこないのをって、よけい心配しんぱいになりました。そうおもってむすめいても、
「いいえ、なんでもありません。」
 とこたえるだけでした。でもおかあさんは、なんだかむすめ自分じぶんにかくしていることがあるようにうたぐって、だんだんむすめがにくらしくなりました。それであるときおとうさんにそのはなしをしました。おとうさんもふしぎがって、
「よしよし、こんどおれがてやろう。」
 といって、ある日そっとむすめあとから一間ひとまはいってきました。そしてむすめ一心いっしんかがみの中に見入みいっているうしろから、けに、
「おまえなにをしている。」
 とこえをかけました。むすめはびっくりして、おもわずふるえました。そしてかおをしながら、あわててかがみをかくしました。おとうさんはふきげんなかおをして、
なんだ、かくしたものは。しておせ。」
 といいました。むすめこまったようなかおをして、こわごわかがみしました。おとうさんはそれをて、
なんだ。これはいつかんだおかあさんにわたしのってやったかがみじゃないか。どうしてこんなものをながめているのだ。」
 といいました。
 するとむすめは、こうしておかあさんにお目にかかっているのだといいました。そしておかあさんはんでも、やはりこのかがみの中にいらしって、いつでもいたいときには、これをればえるといって、このかがみをおかあさんがくださったのだとはなしました。おとうさんはいよいよふしぎにおもって、
「どれ、おせ。」
 といいながら、むすめのうしろからのぞきますと、そこにはわかときのおかあさんそっくりのむすめかおがうつりました。
「ああ、それはおまえ姿すがただよ。おまえちいさいときからおかあさんによくていたから、おかあさんはちっとでもおまえこころなぐさめるために、そうおっしゃったのだ。おまえ自分じぶん姿すがたをおかあさんだとおもって、これまでながめてよろこんでいたのだよ。」
 こうおとうさんはいいながら、しおらしいむすめこころがかわいそうになりました。
 するとそのときまでつぎ様子ようすていた、こんどのおかあさんがはいってて、むすめの手をかたにぎりしめながら、
「これですっかりかりました。なんというやさしいこころでしょう。それをうたぐったのはすまなかった。」
 といいながら、なみだをこぼしました。むすめはうつむきながら、小声こごえで、
「おとうさんにも、おかあさんにも、よけいな御心配ごしんぱいをかけてすみませんでした。」
 といいました。





底本:「日本の諸国物語」講談社学術文庫、講談社
   1983(昭和58)年4月10日第1刷発行
入力:鈴木厚司
校正:佳代子
2004年2月19日作成
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