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郷介法師(ごうすけほうし)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-2 7:33:28  点击:  切换到繁體中文

底本: 国枝史郎伝奇全集 巻六
出版社: 未知谷
初版発行日: 1993(平成5)年9月30日
入力に使用: 1993(平成5)年9月30日初版
校正に使用: 1993(平成5)年9月30日初版

 


 初夏の夜は静かに明け放れた。
 堺の豪商魚屋ととや利右衛門家では、先ず小僧が眼を覚ました。眠い眼を渋々こすりながら店へ行ってかどの戸を明けた。朝靄蒼く立ちこめていて戸外そとは仄々と薄暗かったが、見れば一本のはりつけ柱が気味の悪い十文字の形をして門の前に立っていた。
「あっ」と云うと小僧平吉は胴顫いをして立ち縮んだが、やがてバタバタと飛び返ると、
「磔柱だア! 磔柱だア!」と大きな声で喚き出した。
 これに驚いた家内の者はこぞって表へ飛びだしたが、いずれも気味悪い磔柱を見るとさっと顔色を蒼くした。
 注進を聞くと主人利右衛門はノッソリ寝所から起きて来たが、磔柱を一べつすると苦い笑いを頬に浮かべた。
「いよいよ俺の所へ廻って来たそうな。ところでなんぼと書いてあるな?」
「五万両と書いてございます」
 支配の勘介が恐々こわごわ云う。
「うん、五万両か、安いものだ。一家鏖殺おうさつ[#「鏖殺」は底本では「鑿殺」]されるより器用に五万両出すことだな」
 こう云い捨ると利右衛門はその儘寝所へ戻って行ったが、海外貿易で鍛えた胆、そんな事にはビクともせず夜具を冠ると眼を閉じた。間もなく鼾の聞こえたのは眠りに入った証拠である。
 五万両と大書した白い紙を胸の辺りへ付けた磔柱は小僧や手代の手によって直ぐに門口からり去られたが、不安と恐怖は夕方まで取り去ることが出来なかった。
 その夕方のことであるが、艶かしい十八九の乙女おとめが一人、まことに上品な扮装みなりをして、魚屋方へ訪れて来た。
「ご主人にお目にかかりとう存じます」
「ええ何人どなたでございますな?」
「五万両頂戴に参りました」
「わっ」と云うと小僧手代は奥の方へ走り込んだが、それと引き違いに出て来たのは主人の魚屋利右衛門であった。
「お使いご苦労に存じます」
 利右衛門は莞爾と笑ったが、
「先ずお寄りなさりませ」
「いえ少し急ぎます故……」
 乙女は軽く否むのである。
「五万両の黄金は重うござるに、どうしてお持ちなされるな?」
「魚屋様は商人でのご名家、嘘偽りないお方、それゆえ現金は戴かずとも、必要の際にはいつなりとも用立て致すとおしめし下されば、それでよろしゅうございます」
「それはそれはいと易いこと、では手形を差し上げましょう」
 サラサラと一筆書き記すと、それを乙女へ手渡した。
「それでよろしゅうござるかな?」
「はい結構でございます。ではご免下さりませ」
「もうお帰りでございますかな?」
「はい失礼致します」
 乙女は淑やか[#「淑やか」は底本では「叔やか」]に腰をかがめると静かに店から戸外そとへ出たが、黄昏たそがれの往来を海の方へ急かず周章あわてず歩いて行く。

 それから間もないある日のこと。千利休に招かれて利右衛門は茶席に連なった。日頃から親しい仲だったので、客の立去ったその後を夜に入るまで雑談した。
 ふと思い出した利右衛門は盗難の話をしたものである。
「それはそれは」と千利休は驚きの眼を見張ったが、
「磔柱の郷介となのる凄じい強盗のあることはわし以前まえから聞いては居たが、貴郎あなたまでを襲おうとは思い設けぬことでござった。打ち捨て置くことは出来ませぬ。早速殿下に申し上げ詮議することに致しましょう」
「いやいや打ち捨てお置きなされ、さわらぬ神に祟りなし。なまじ騒いだその為に貴郎にもしもお怪我でもあってはお気の毒でございます」
 すると利休は哄然と豪傑笑いを響かせたが、
「茶人でこそあれこの利休には一分の隙もございませぬ。なんで賊などに襲われましょう」
 それを聞くと魚屋利右衛門はちょっと気不味そうな顔をしたが、
「いや左様ばかりは云われませぬ。天王寺屋宗休、綿屋一閑、みな襲われたではござらぬかな。お大名衆では益田長盛様、石田様さえ襲われたという噂、ことに高津屋勘三郎は、賊の要求を入れなかった為、一家鏖殺[#「鏖殺」は底本では「鑿殺」]の悲運に逢い、あれほどの大家が潰れたはず、尋常な賊ではござりませぬ。まずそっとしてお置きなされ、それに貴郎の所には殿下よりお預かりの名器もあり、さような物でも望まれましたら、それこそ一大事ではござりませぬか」
 すると利休はますます笑い、
「いやいやそれは人にこそよれ、利休に限っては左様な賊に襲われる気遣いはございませぬ。アッハハハ、大丈夫でござる」
 ――とたんに奥庭の茂みから、
「そうばかりは云われまいぞ!」と、しわがれた声で叫ぶ者があった。
 ギョッとして二人がそっちを見ると、数奇を凝らした庭園の中、幽かにともっている石燈籠の横に、「木隠の茶碗」と大書した紙を、ダラリと胸の辺りへ張り付けた例の気味の悪い磔柱が一本ニョキリと立っていた。

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