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早すぎる埋葬(はやすぎるまいそう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 8:53:22  点击:  切换到繁體中文


 しかしこの昏睡の病癖をべつにしては、私の健康は一般にいいように見えた。また私は自分が一つの大きな疾患にかかっているとはぜんぜん考えることができなかった、――ただ私の普通の睡眠の特異性がもっとひどくなったものと考えられることをのぞいては。眠りから覚めるとき、私は決してすぐに意識を完全に取りもどすことができなくて、いつも何分間も非常な昏迷と混乱とのなかにとり残されるのであった。――そのあいだ一般の精神機能、ことに記憶が、絶対的中絶の状態にあった。
 私のいろいろ耐えしのんだことのなかで肉体的の苦痛は少しもなかったが、精神的の苦痛となると実に無限であった。私は死に関することばかりを考えた。「蛆虫と、墓と、碑銘」のことを口にした。死の幻想に夢中になって、早すぎる埋葬という考えが絶えず私の頭を支配した。このものすごおそれが昼も夜も私を悩ました。昼はそのもの思いの呵責かしゃくがひどいものであったし――夜となればこのうえもなかった。恐ろしい暗黒が地上を蔽うと、ものを考えるたびの恐怖のために私は身震いした、――柩車きゅうしゃの上の震える羽毛飾りのように身震いした。このうえ目を覚ましているわけにはゆかなくなると、眠らないでいようともがきながらやっと眠りに落ちた、――というのは、目が覚めたときに自分が墓のなかにいるかもしれないと考えて戦慄したからである。こうしてやっと眠りに落ちたとき、それはただ、一つの墓場の観念だけがその上に大きな暗黒の翼をひろげて飛びまわっている幻想の世界へ、すぐに跳びこむことにすぎなかった。
 このように夢のなかで私を苦しめた無数の陰鬱な影像のなかから、ここにただ一つの幻影を選び出してしるすことにしよう。たしか私はいつものよりももっと長く深い類癇の昏睡状態に陥っていたようであった。とつぜん、氷のように冷たい手が私のひたいにさわって、いらいらしたような早口の声が耳もとで「起きろ!」という言葉をささやいた。
 私はまっすぐに坐りなおした。まったくの真っ暗闇だった。私は自分を呼び起したものの姿を見ることができなかった。どんな場所に横たわっていたかということも、思い出せなかった。そのまま身動きもしないで一所懸命に考えをまとめようとしていると、その冷たい手が私の手首を強くつかんで怒りっぽく振り、そしてあの早口の声がもう一度言った。
「起きろ! 起きろと言っているじゃないか?」
「と言っていったいお前は誰だ?」と私は尋ねた。
「おれはいま住んでいるところでは名前なんぞないのだ」とその声は悲しげに答えた。「おれは昔は人間だった、がいまは悪霊だ。前は無慈悲だった、がいまはあわれみぶかい。お前にはおれの震えているのがわかるだろう。おれの歯はしゃべるたびにがちがちいうが、これは夜の――果てしない夜の――寒さのためではないのだ。だが、この恐ろしさはたまらぬ。どうしてお前は静かに眠ってなどいられるのだ? おれはあの大きな苦痛の叫び声のためにじっとしていることもできない。このような有様はおれには堪えられぬ。立ち上がれ! おれと一緒に外の夜の世界へ来い。お前に墓を見せてやろう。これが痛ましい光景ではないのか? ――よく見ろ!」
 私は眼を見張った。するとその姿の見えないものは、なおも私の手首をつかみながら、全人類の墓をぱっと眼前に開いてくれた。その一つ一つの墓からかすかな腐朽の燐光りんこうが出ているので、私はずっと奥の方までも眺め、そこに屍衣を着た肉体が蛆虫とともに悲しい厳かな眠りに落ちているのを見ることができた。だが、ああ! ほんとうに眠っている者は、ぜんぜん眠っていない者よりも何百万も少なかった。そして力弱くもがいている者も少しはあった。悲しげな不安が満ちていた。数えきれないほどの穴の底からは、埋められている者の着物のさらさらと鳴る陰惨な音が洩れてきた。静かに眠っているように思われる者も多くは、もと埋葬されたときのきちんとした窮屈な姿勢をいくらかでも変えているのを私は見た。じっと眺めていると、例の声がまた私に話しかけた。
「これが――おお、これが惨めな有様ではないのか?」しかし、私が答える言葉を考え出すこともできないうちに、そのものはつかんでいた手首をはなし、燐光は消え、墓はとつぜんはげしく閉ざされた。そしてそのなかからもう一度大勢で「これが――おお、神よ! これが惨めな有様ではないのか?」という絶望の叫び声が起ってきたのであった。
 夜あらわれてくるこのような幻想は、その恐るべき力を目の覚めている時間にもひろげてきた。神経はすっかり衰弱して、私は絶え間ない恐怖の餌食えじきとなった。馬に乗ることも、散歩することも、その他いっさいの家から離れなければならないような運動にふけることもためらった。実際、私に類癇の病癖のあることを知っている人々のところを離れては、もう自分の身を安心していることができなかった。いつもの発作を起したとき、ほんとうの状態が確かめられないうちに埋葬されはしないかということを恐れたからである。私はもっとも親しい友人たちの注意や誠実さえ疑った。類癇がいつもより長くつづいたときに、彼らが私をもうなおらないものと見なすような気になりはしないかと恐れた。そのうえもっと、ずいぶん彼らに厄介をかけたので、非常に長びいた病気にさえなれば、それを厄介払いをするのにちょうどいい口実と喜んで考えはしまいか、ということまでも恐れるようになった。彼らがどんなに真面目に約束をして私を安心させようとしても無駄だった。私は、もうこのうえ保存ができないというまでに腐朽がひどくならなければ、どんなことがあっても私を埋葬しない、というもっとも堅い誓いを彼らに強要した。それでもなお私の死の恐怖は、どんな理性にもしたがおうともしなかったし――またなんの慰安をも受けなかった。私はたいへん念の入った用心をいろいろと始めることにした。なによりもまず一家の墓窖はかあなを内側から造作なくあけることができるように作りかえた。墓のなかへずっと突き出ている長い槓杆てこをちょっと押せば鉄の門がぱっと開くようにした。また空気や光線も自由に入るようにし、私の入ることになっている棺からすぐ届くところに食物と水とを入れるのに都合のよい容器も置いた。棺は暖かに柔かくしとねを張り、その蓋には墓窖の扉と同じ仕組みで、体をちょっと動かしただけでも自由に動くように工夫した発条ばねをつけた。なおこれらのほかに、墓の天井から大きなベルを下げて、その綱が棺の穴を通して死体の片手に結びつけられるようにした。ああ! しかし人間の運命にたいして用心などはなんの役に立とう? このように十分工夫した安全装置さえも、生きながらの埋葬という極度の苦痛から、その苦痛を受けるように運命を定められている惨めな人間を救い出すに足りないのだ!
 あるとき――前にもたびたびあったように――私はまったくの無意識から、最初の弱い漠然とした生存の意識へ浮び上がりかかっている自分に気がついた。ゆっくりと――亀の歩みのように――霊魂のほのかな灰色のあけぼのが近づいてきた。しびれたような不安。鈍い苦痛の無感覚の持続。なんの懸念もなく――希望もなく、――努力もない。次に長い間をおいてから、耳鳴りがする。それからもっと長い時間がたってから、手足のひりひり痛む感覚。次には楽しい静寂の果てしのないように思われる時間、そのあいだに目覚めかかる感情が思考力のなかへ入ろうともがく。次にまたしばらくのあいだ虚無のなかへ沈む。それからとつぜんの回復。やっと眼瞼まぶたがかすかに震え、たちまちぼんやりとはげしい恐怖のショックが電気のように走り、血が※(「需+頁」、第3水準1-94-6)こめかみから心臓へどきどきと流れる。そして初めて考えようとするはっきりした努力。それから初めて思い起そうとする努力。部分的のつかの成功。それから記憶がいくらかその領域を回復して、ある程度まで自分の状態がわかる。自分が普通の眠りから覚めたのではないのを感ずる。類癇にかかっていたことを思い出す。そしてとうとう、まるで大海が押しよせてくるように、私のおののいている魂はあの無慈悲なおそれに圧倒される、――あのもの凄い、いつも私の心を占めている考えに。
 この想像に捉えられたのち数分間、私はじっとして動かずにいた。なぜか? 動くだけの勇気を奮い起すことができなかったのだ。私は骨を折って自分の運命をはっきり知ろうとは無理にしなかった、――しかし心にはたしかにそうだぞと私にささやくなにものかがあった。絶望――どんな他の惨めなことも決して起きないような絶望――だけが、だいぶ長くためらった末に、私に重い眼瞼をあけてみることを促した。とうとう眼を開いた。真っ暗――すべて真っ暗であった。私は発作が過ぎ去ったのを知った。病気の峠がずっと前に過ぎ去っていることを知った。私はもう視力の働きを完全に回復していることを知った、――それなのに真っ暗であった、――すべて真っ暗であった、――一条の光さえもない濃い真っ暗な永遠につづく夜であった。
 私は一所懸命に大声を出そうとした。すると唇と乾ききった舌とはそうしようとして痙攣的に一緒に動いた、――がなにか重い山がのしかかったように圧しつけられて、苦しい息をするたびに心臓とともにあえぎ震える空洞うつろの肺臓からは、少しの声も出てこなかった。


 

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