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早すぎる埋葬(はやすぎるまいそう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 8:53:22  点击:  切换到繁體中文


 このように大きな声を出そうとしてあごを動かしてみると、ちょうど死人がされているように顎が結わえられていることがわかった。また自分がなにか堅い物の上に横たわっているのを感じた。そして両側もなにかそれに似たものでぴったりと押しつけられていた。これまでは私は手も足も動かそうとはしなかった、――がこのとき、いままで手首を交差して長々とのばしていた両腕を荒々しく突き上げてみた。すると顔から六インチもない高さの、私の体の上にひろがっている固い木製のものにぶっつかった。私は自分がとうとう棺のなかに横たわっているのだということをもう疑うことができなかった。
 この無限の苦痛のなかへいまや希望の天使がやさしく訪れて来た、――というのは、あの前からの用意のことを思い出したからだ。私は身悶みもだえし、蓋を押し開こうとして痙攣的な動作をした。蓋は動こうともしなかった。ベルの綱を捜して手首にさわってみた。それもなかった。そしてまた天使はもう永久に消え失せて、もっと苛酷な絶望が勝ち誇って君臨した。というのは、前にあれほど用心深く用意して張っておいた褥がないことに気がつかないわけにはゆかなかったからである。それにまたとつぜん湿った土の強い妙な匂いが私の鼻孔をおそってきた。結論はもう疑いない。私はあの墓窖のなかにいるのではないのだ。私は家を離れているあいだに――知らない人々のなかにいるあいだに――昏睡に陥ったのだ、――いつ、あるいはどうして、ということは思い出すことができないが、――そして彼らが私を犬のように埋めたのだ、――どこかの普通の棺のなかに入れて釘付くぎづけにし――深く、深く、永久に、どこか普通の名もない墓のなかへ投げこんだのだ。
 この恐ろしい確信がこのように魂の底にまでしみこむと、私はもう一度大声で叫ぼうと努めた。するとこの二度目の努力は成功した。長い、気違いじみた、とぎれない悲鳴、または苦痛の叫び声が、地下の夜の領土じゅうに響きわたった。
「おうい! おうい、しっかりしろ!」と荒々しい声が答えた。
「いったいどうしやがったんだい?」と二番目の声が言った。
「そこから出て来い!」と三番目の声が言った。
「山猫みたいにそんなにうなりやがって、いったいどうしたっていうんだ?」と四番目の声が言った。そして私は、荒っぽい男の一団につかまえられて、しばらく無遠慮にゆすられた。彼らは私を眠りから覚ましてくれたのではない、――というのは、私は叫んだときにはもうちゃんと目が覚めていたのだから、――しかし彼らは私の記憶力をすっかり回復してくれたのであった。
 この出来事はヴァージニア州のリッチモンドの付近で起ったのである。一人の友人と一緒に、私は銃猟の旅をして、ジェームス河の堤に沿って数マイル下った。夜が近づいて、私たちは嵐におそわれた。庭土を積みこんだ小さな一本マストの帆船が河の流れに碇泊ていはくしていたが、その船室が唯一の役に立つ避難所であった。私たちはそれを利用してその夜を船で過した。その船に二つしかない棚寝床パアスの一つに私は眠ったが、――六、七十トンの小さな帆船の棚寝床のことだから詳しく言うまでもあるまい。私の入ったのには寝具などはなにもなかった。幅はいちばん広いところで十八インチだった。その底と頭上の甲板との距離もちょうど同じほどであった。体をそのなかへ押しこむのに非常に骨が折れた。それにもかかわらず私はぐっすりと眠った。そして私の見たすべてのものは――というのはそれは夢でもなく夢魔でもなかったのだから――私の寝ていた場所の周囲の事情からと、――私の普段からの考えのかたよっていたことからと、――前にもちょっと言ったように睡眠から覚めたのち長いあいだ我に返るのが、ことに記憶力を回復するのが、困難なことから、自然に起ったことであった。私を揺り動かしたのは、この帆船の船員と、その荷揚げをする人夫たちであった。その船の荷から土の匂いがしたのだ。顎のあたりに結わえてあったものというのは、いつものナイトキャップがないのでそのかわりに頭から巻きつけておいた絹のハンケチなのであった。
 しかし私の受けた苦痛は、そのときはたしかに実際に埋葬された苦痛とまったく同じものであった。その苦痛は恐ろしく――想像もつかぬほど、戦慄すべきものであった。しかし凶から吉が生れるようになった、というのは、その過度の苦痛が私の心に必然的の激変を起したからである。私の心は強くなり――落ちついてきた。私はどこへでもでた。活溌な運動もした。大空のひろびろとした空気を呼吸した。死よりもほかのことを考えるようになった。いろいろの医学書に手をふれないようになった。バッカン(11)の書物を焼きすてた。「夜の思い(12)」も――墓地に関する嘘話も――妖怪物語も――すべてそんなものは読まなくなった。要するに私は新たな人間になり、立派な男としての生活をするようになった。その記憶すべき夜から、私は永久に墓場の恐怖を忘れてしまった。それとともに類癇の病気も起らなくなった。あの墓場の恐怖は病気の結果であるよりも、むしろその原因であったのであろう。
 我々の悲しい人類の世界が、理性の冷静な眼にさえも、地獄の相を示すときがある。――しかし、人間の想像は、その地獄の洞窟を一つ一つ罰せられることなくして探るところのカラティス(13)のようなものではない。ああ! 墓場の恐怖のあのもの凄い幽霊らはまったく空想的なものと見なすことができないのだ。――しかしオグザス河(14)を下ってアフラシアブ(15)とともに旅をしたかの悪魔たちのように、彼らは眠らねばならぬ。でなければ彼らは我々を食いつくすであろう。――彼らは眠るようにさせられなければならぬ。でなければ我々は滅びるのだ。


(1) 一八一二年、ナポレオンの軍隊がモスコーより退却しミンスク県のベレジナ河を渡るときロシア軍に襲撃され、十一月二十六日より二十九日にわたって数万のフランス兵が殺戮さつりくされあるいは溺死できしした。捕虜となった者一万六千人。
(2) 一七五五年十一月一日のリスボンの大地震。死者約四万人に達した。
(3) 一六六五年よりその翌年にかけて、ロンドンに疫病が流行し、当時のロンドンの住民の約三分の一、七万人がたおれた。
(4) 一五七二年八月二十四日、セント・バーソロミューの祭日の夜半から始まったパリおよび各地方におけるフランスの新教徒ユグノーの大虐殺。その犠牲者の数は二万ないし三万にのぼった。
(5) 一七五六年六月二十日、インド土人の大守シュラジャー・ドーラーによって、百四十六人のイギリス人の俘虜が、カルカッタのわずか十八フィート四方の狭い牢獄のなかへ押しこまれた。その翌朝、二十三人をのぞいて他の百二十三人はことごとく窒息のために死んでいた。
(6) 旧約伝道の書第十二章第六―七節、「しかる時には銀の紐は解け金の盞は砕け吊瓶つるべは泉の側にやぶ轆轤くるまいどかたわられん、しかしてちりもとごとく土に帰り霊魂たましいはこれをさずけし神にかえるべし」
(7) 穿顱錐せんろすいで頭蓋骨を穿うがつ手術。あるいは円錐えんきょ術とも言う。
(8) 静脈を切って血を出す治療法。
(9) body-snatcher――解剖の目的のためにひそかに墓をあばいて死体を盗む者。イギリスにおいては一八三二年に解剖法令が出るまでは、ただ殺人者の死体だけが解剖を許されていたが、解剖学の進歩とともに死体が大いに不足するにいたった。そこでこの「死体盗人」というものがおびただしくできて、諸所の墓をあばいて死体を盗み、それを解剖者に売ることを業としたのである。(それを防ぐためには鉄の棺に入れて埋葬しなければならなかったという)――この死体盗人はまた resurrectionist とも言われる。このステープルトン氏を発掘した連中のごときはまさに言葉本来の意味での resurrectionist であろう。
(10) Catalepsy――類癇、または全身硬直と訳される。
(11) Buchan(一七三八―九一)スコットランドの宗教狂信家。彼女は自らヨハネ黙示録第十二章の婦であると信じ、その信者は Buchanites と称せられた。
(12) “Night Thoughts”――Edward Young(一六八一―一七六五)の有名な詩“Night Thoughts : Night I (on Life, Death and Immortality).”and Night II (on Time, Death and Friendship).”のことであろう。
(13) Carathis――Wiliam Beckford(一七五九―一八四四)の東洋ロマンス“Vathek”(この物語は一七八七年にフランス語で出版され、その数年前に誰かの英訳が流布したりして問題を起し、当時ヨーロッパに広く読まれたものらしい。――最近も、エピローグを付したこの物語の最初の完全な版と称する二巻が、原文のフランス語でオックスフォードから出版された)の主人公の母。占星術の達人。
(14) Oxus――中央アジアのアム・ダリア河の古名。
(15) Afrasiab――Abul Kasim Mansur(九四〇ごろ―一〇二〇、ペルシャの大叙事詩人)の“Shahnamah”(「諸王の書」の意。イランおよびペルシャの君主英雄の行為を歌った約六万対句の叙事詩)の中の Turan 王 Pesheng の子。イランの諸王との長い戦争ののちに捕えられて殺される。



底本「モルグ街の殺人事件」新潮文庫、新潮社
   1951(昭和26)年8月15日発行
   1977(昭和52)年5月10日40刷改版
   1998(平成10)年12月25日78刷
※本文中の(1)~(15)は訳注番号です。底本では、直前の文字の右横に、ルビのように小書きされています。また数字は縦中横になっています。
入力:江村秀之
校正:鈴木厚司
2005年1月27日作成
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