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右門捕物帖(うもんとりものちょう)16 七化け役者

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 9:23:48  点击:  切换到繁體中文


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 しかるに、それなる矢を射込まれた駕籠がまた、なんとしたものでありましたろう。距離はかれこれ一町近くもあるうえに、得物は同じ弓であっても大弓ではなく半弓でしたから、それほどあつらえ向きに命中するはずはあるまいと思われたのが、すこぶる意外でした。よほど手ききの名手とみえて、みごとに耳下にぶつりと的中、あまつさえやじりには猛毒でもが塗り仕掛けてあったものか、ご藩医たちがうちうろたえて、介抱手当を施したにもかかわらず、すでに難をうけた者は落命していたものでしたから、いよいよいでていよいよ重なる奇怪事に、名人のしたたか驚いたのはいうまでもないことでしたが、それよりもよりもっと意外に思われたことは、それなる毒矢に見舞われた当の本人が、なんともいぶかしいことには、大振りそでに紫紺絖しこんぬめはいたるお小姓なのです。容色もとよりしたたるばかり。年のころもまた二九ざかり。さすがご三家のやんごとないご連枝がご寵愛ちょうあいのお小姓だけあって、玉の緒絶えたるのちもなお目ざめるほどのたぐいまれな容色をたたえていましたものでしたから、さらにいでてさらに重なる不審な事実に、三たびうちおどろきながら、じっと鋭くまなこを注いでいましたが、――せつな! まことにいつもながらの古今に無双なその烱眼けいがんは、むしろ恐ろしいくらいのものでした。
「よッ。それなるおかた、お小姓姿におつくりではござるが、まさしくご婦人でござりまするな!」
 と――、ますますいでて、ますます奇怪でした。ズバリといった看破の一言に、居合わした供頭ともがしららしい尾州家の藩士が、ぎょッならんばかりにうろたえながら、荒々しくこづき返すと、江戸八百八町の大立て物をなんと見誤ったものか、けわしくきめつけました。
「めったなことを申さるるな! 用もない者がいらざるお節介じゃ。おどきめされッ。そちらへとっととおどきめされッ」
 寄ってはならぬといったものでしたから、聞くやいっしょで、湯煙たてながらしゃきり出たのは、だれでもない向こうっ気の伝六です。
「なんだと※(疑問符感嘆符、1-8-77) おい! いなかの大将ッ。用がねえとは何をぬかしやがるんでえ! おいらのだんなが目にはいらねえのかッ」
 江戸っ子気性の伝六としてはまた無理のないことでしたが、巻き舌でぽんぽんといいながら食ってかかろうとしましたので、名人があわてて制すると、微笑しいしいいたって物静かにいいました。
「ご立腹ごもっともにござりまするが、てまえは伊豆守様のご内命こうむりまして、お出迎えご警固けいごに参りました八丁堀の同心、役儀のある者でござりましてものぞいてはなりませぬか」
「ならぬならぬッ。だれであろうと迷惑でござるわ! さっさとおどきめされッ」
 しかるに、藩士はあくまで奇怪――ふたたび権高にこづき返しましたので、短気一徹、こうなるとすこぶる勇みはだの伝法伝六が、ことごとくいきりたちながら、あぶくを飛ばして名人をけしかけました。
「だんなともあろう者が、何をぺこぺこするんですかッ。こんなもののわからねえ木念仁のでこぼこ侍をつかまえて、したてに出るがもなあねえじゃござんせんかッ。ぽんぽんといつもの胸のすくやつをきっておやりなせよ! 名めえを聞かしゃ、目のくり玉がそっぽへでんぐり返るにちげえねえから、早いとこずばりと名を名のっておやりなせえよッ」
 まことに伝法伝六のいうとおり、右門おはこの名啖呵たんかを一つちょっぴり、この辺できってやったら、よし江戸と名古屋と東西百里の隔たりはあっても、広大無辺なその名声に、少しはびっくりするだろうと思われましたが、しかし、こういうところがまたやはり右門流です。
「そうでござりまするか。寄ってはならぬとおっしゃるならば、いかにも手を引きましょうよ」
 あっさりいってのけると、いいつつ、じろりとあの鋭いまなこを注いで、半弓に用いた毒矢を遠くから烱々けいけいと見ながめていましたが、それさえ検分すればもうじゅうぶんというように、さっさと向こう横町まで引きあげていくと、疾風迅雷しっぷうじんらいの命令一下――。
「さ! 伝六ッ。駕籠だッ、駕籠だッ。例の駕籠だよ!」
 しかるに、あいきょう者の雲行きが少しばかり険悪なので。いつもこれが名人の口から飛び出せばもうしめたもんだから、すぐにもしりからげになって駆けだすだろうと思われたのが、案に相違してことごとくほっぺたをふくらませると、つんけんとそっけなくいいました。
「せっかくですが、いやですよ」
「ほう。江戸の兄いがまた荒れもようだな」
「あたりめえじゃござんせんか! いくら尾州様がご三家のご連枝だからって、江戸へ来りゃ江戸の風がお吹きあそばすんだッ。しかるになんぞや、迷惑だから手をひけたあなんですかい! それをまただんなが、なんですかい! たかがいなかっぺいのけんつくぐれえに尾っぽを巻いて、江戸八百八町の名折れじゃござんせんか! あっしゃくやしいんだッ。ええ、くやしいんです! くやしくてならねえんですよ!」
「…………」
「ちぇッ。黙ってにやにや笑ってらっしゃるが、何がおかしいんですかい! え? だんな! 何がおかしいんですかい!」
「坊やが吹かしがいもしねえ江戸っ子風を吹かすからおかしいんだよ」
「ちぇッ。じゃ、だんなは、江戸っ子じゃねえんですか!」
「うるせえな。おめえが江戸っ子なら、おりゃ日本子だッ。はばかりながら、あれしきのけんつくに、むっつり右門ともあろうおれが、たわいなく尾っぽを巻いてたまるけえ。眼がもうついたんだから、駕籠をよんでくりゃいいんだよ」
「へえい。じゃ、なんですかい、あのお小姓姿に化けていた女の素姓も、眼がついたんですかい」
「きまってらあ。ありゃ尾州さまがご寵愛ちょうあいのおへやさまだよ。そういったら、またおまえが口うるさく何かいうだろうが、おへやさまだからこそ、諸侯のお手本ともなるべきご三家のお殿さまが先へたって行列とごいっしょに参覲さんきん道中させたと聞かれちゃ、世間体がよろしくないため、わざわざお小姓にやつさせたんだ。なればこそ、またあの供頭の大将が、それをおれにあばかれちゃならねえと思って、あんなに目色変えながら、忠義だてにけんつくを食わしたんじゃねえか。どうだい、江戸の兄い。それでもまだ駕籠にやはええのかい」
「そ、そりゃ連れてこいとおっしゃれば、仁王におう様でも観音様でも連れてまいりますがね。でも、眼のついたというなそれだけで、くせ者大名の乗り捨てた駕籠に紋が一つあるじゃなし、おへやさまのお素姓に探りを入れようとすりゃ、あのとおり、でこぼこりゃんこ(侍)がご三家風を吹かしゃがるし、どう首をひねってみてもそれだけじゃ、手の下しようがなさそうじゃござんせんか」
「いちいちだめを押しやがって、うるせえな。むっつり右門は鳥目じゃねえや。あの毒矢を見て、ちゃんともうりっぱな眼がついてるんだッ。おまえなんぞおしゃべりよりほかにゃ能はねえから知るめえが、ありゃ西条流の鏑矢かぶらやといって、大弓はいざ知らず、矢ごろの弱い半弓に、あんな二また矢じりの重い鏑矢を使う流儀は、西条流よりほかにゃねえんだよ。しかも、その弓師っていうのが、おあいにくとまた、このおひざもとにたった一人あるきりなんだ。かてて加えて、乗り捨てた駕籠の様子が大名にちげえねえとしたら、よし紋所はなくとも、何家の何侯に半弓を納めたか、そいつを洗えばおおよその当たりがつくじゃねえか。のう、江戸っ子の兄い、それでもまだ駕籠のお許しゃ出ねえのかい」
「みんごと一本参りました。――ざまアみろ! でこぼこりゃんこのかぶとむしめがッ。おいらのだんながピカピカと目を光らしゃ、いつだってこれなんだッ――そっちのちっちゃな親方! のどかな顔ばかりしていねえで、たっぷり投げなわにしごきを入れておきなよ。どうやら、城持ち大名と一騎打ちになりそうだからな、遺言があるなら、今のうちに国もとへ早飛脚立てておかねえと、かさの台が飛んでからじゃまにあわねえぜ」
 がてんがいけば天気快晴。いらざるむだ口を善光寺たつにたたいておいて、横っとびに向こうへ飛んでいったと思われましたが、ほどなく宿場育ちの屈強な裸人足を引き連れてまいりましたので、いよいよここにまこと伝六のことばのごとく、城持ち大名と捕物名人の古今未曽有みぞうな力と知恵の一騎打ちが、いまぞ開始されんず形勢とあいなりました。


 

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