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右門捕物帖(うもんとりものちょう)25 卒塔婆を祭った米びつ

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 9:42:55  点击:  切换到繁體中文

底本: 右門捕物帖(三)
出版社: 春陽文庫、春陽堂書店
初版発行日: 1982(昭和57)年9月15日
入力に使用: 1982(昭和57)年9月15日新装第1刷
校正に使用: 1996(平成8)年4月20日新装第3刷

 

右門捕物帖

卒塔婆を祭った米びつ

佐々木味津三




     1

 その第二十五番てがらです。
 事の起きたのは仲秋上浣じょうかん
 とび巣山すやま初陣ういじんを自慢の大久保彦左ひこざがあとにも先にもたった一度んだという句に、
「おれまでが朝寝をしたわい月の宿」
 という珍奇無双なのがあるそうですが、月に浮かれて夜ふかしをせずとも、この季節ぐらい、まことにどうも宵臥よいぶし千両、朝寝万両の寝ごこちがいい時候というものはない。やかまし屋で、癇持かんもちで、年が年じゅう朝早くからがみがみと人の世話をやいていないことには、どうにも溜飲りゅういんが起こって胃の心持ちがよくないとまでいわれた彦左の雷おやじですらもが、風流がましく月の宿なぞと負け惜しみをいいながら、ついふらふらと朝寝するくらいですから、人より少々できもよろしく、品もよろしいわが捕物とりもの名人が、朝寝もまた胆の修業、風流の一つとばかり、だれに遠慮もいらずしきりと寝ぼうをしたとてあたりまえな話です。
 だから、その朝もいい心持ちで総郡内のふっくらしたのにくるまりながら、ひとり寝させておくには少し気のもめる臥床ふしどの中で、うつらうつらと快味万両の風流に浸っていると、
「ちぇッ、またこれだ。ほんとに世話がやけるっちゃありゃしねえや。ちょっと目を放すと、もうこれだからな。今ごろまでも寝ていて、なんですかよ。なんですかよ、ね、ちょっと、聞こえねえんですかい。ね、ちょっとてたら!――」
 遠鳴りさせながらおかまいなくやって来て、二代め彦左のごとくにたちまちうるさく始めたのは、あのやかましい男でした。
「起きりゃいいんだ、起きりゃいいんだ。ね、ちょっと!――やりきれねえな、毎朝毎朝これなんだからな。見せる相手もねえのに、ひとり者がおつに気どって寝ていたってもしようがねえじゃござんせんか。起きりゃいいんですよ、起きりゃいいんですよ。たいへんなことになったんだから、早く起きなせえよ」
「…………」
「じれってえな。だれに頼まれてそんなに寝るんでしょうね。ね、ちょっと! たいへんですよ。たいへんですよ。途方もねえことになったんだから、ちょっと起きなせえよ」
 声に油をかけながらしきりとやかましく鳴りたてたので、不承不承に起き上がりながらひょいと見ながめると、これはまたどうしたことか、ただやかましく起こしに来たと思いのほかに、あの伝六がじつになんともかとも困りきったといった顔つきで、いいようもなくぶかっこうな手つきをしながら、後生大事と赤ん坊をひとり抱いているのです。
「ほほう。珍しいものをかっ払ってきたね。豪儀なことに、目も鼻もちゃんと一人まえについているじゃねえか。どうやら、人間の子のようだな」
「またそれだ。どこまで変なことばかりいうんだろうね。もっと人並みの口ゃきけねえんですかよ。抱いてくださりゃいいんだ。忙しいんだから、早くこいつを受け取っておくんなせえよ」
「起きぬけにそうがんがんいうな。――ああ、ブルブル――ほら、ほら、こっちだよ。こっちだよ。おじちゃんの顔はこっちだよ。ああ、ブルブル。――わっははは、かわいいね。この子は生きているよ。ね、見ろ、笑ったぜ」
「ちぇッ、おこりますよ、おこりますよ。なんてまあ、そう次から次へとろくでもねえ口がきけるんでしょうね。目と鼻があって、息の通っている人間の赤ん坊だったら、生きているに決まってるんだ。この忙しいさなかに、おちついている場合じゃねえんだから、はええところ抱きとっておくんなせえよ」
「変なことをいうね。はばかりながら、おいらはそんな赤ん坊に親類はないよ。おれに抱けとは、またどうした子細でそんな因縁つけるんだ」
「あっしにきいたっても知らねえんですよ。あの三助がわりいんだ。あの横町のふろ屋のね。あいつめがパンパンと変なことをぬかしゃがったもんだから、べらぼうめ、そんなバカなことがあってたまるけえと思って、橋のたもとへいってみるてえと、この子がころがっていたんだ。だから、はええところ受け取ってくださりゃいいんですよ」
「あわてるな、あわてるな。ひとりがてんに三助がどうのふろ屋がどうのと変なことばかりいったって、何がなんだかさっぱりわからねえじゃねえか。その子の背中に、むっつり右門の落とし子とでも書いてあるのかい」
「いいえ、書いちゃねえんだ。一行半句もそんなことは書いちゃねえが、もう少し早起きすると何もかもわかるんですよ。朝起き三文の得といってね、寝る子は育つというなア数え年三つまでのことなんだ。四つそろそろかわいざかり、五つ歯ぬけに六ついたずら、七八九十はよみ書きそろばん、飛んで十五とくりゃもう元服なんだからね。ましてや、だんなのごとく二十五にも六にもなるいいわけえ者が、日の上がるまでも寝ているってことはねえんですよ。だから、あっしもね――」
「なにをつまらん講釈するんだ。そんなことをきいているんじゃねえ、赤ん坊のことをきいているんだよ。横町のふろ屋の三助がどうしたというんだよ」
「いいえ、そりゃそうですがね、全体物事というものは順序を追って話さねえといけねえんだ。これでなかなか、こういうふうに筋道をたてて話すということは、駆けだしのしろうとにゃできねえ芸当でね、なんの縁故もかかり合いもねえような話でも、順を追ってだんだんと話していけば、だんなも一つ一つとふにおちていくでしょうし、ふにおちりゃしたがってがんのつきもはええだろうと思って、せっかくあっしもこうしてつまらんようなことからお話しするんだが、だからね、朝起き三文の得というからにゃ、おいらだっても早起きしなくちゃなるめえとこういうわけで、けさも六つの鐘を耳にすると、すぐさまひとっぷろ浴びに行ったんですよ。するてえと、だんな、あんな三助ってえ野郎もねえものなんだ。いかに朝湯は熱いものと相場が決まっているにしても、まるでやけどをしそうなんですよ。ぜんたい、お湯屋というものは、だんなを前において講釈いうようだが、人間をゆでだこにするためにこしらえてあるんじゃねえ、からだをあっためるためにこしらえてあるんだからね、さっそくあっしがぱんぱんと啖呵たんかをきってやったんですよ。やい、バカ野郎ッ、こんな煮え湯をこしれえておいて、おいらをゆであげておいてから、あとで酢だこにでもする了見かい、と、こういってやったらね、三助の野郎がまたとんでもねえ啖呵をきりやがったんですよ。何をぬかしゃがるんだ、酢だこになりたくなけりゃかってに水をうめろ、それどころの騒ぎじゃねえんだ、通りの橋のたもとに、おかしな捨て子があるっていうんで、みんないま大騒ぎしているじゃねえか、と、こんなにいいやがったんですよ。だから、あっしもまた啖呵をきってやったんだ。べらぼうめ、この泰平な世の中に、そんなおかしな捨て子なんぞがあってたまるもんけえというんでね、さっそく飛んでいってみるてえと、――ほら、なんとかいいましたっけね、あそこの町のまんなかに大きな橋があるじゃござんせんか。ありゃなんといいましたっけね」
「どこの町だよ」
「日本橋の大通りにあるじゃござんせんか[#「ござんせんか」は底本では「ござせんか」]、東海道五十三次はあそこからというあの橋ですよ」
「あきれたやつだな。あいそがつきて笑えもしねえや。日本橋の大通りにある橋なら、日本橋じゃねえかよ」
「ちげえねえ、ちげえねえ。その日本橋の人通りのはげしい橋のたもとにね、目をくるくるさせながら、この子がころがっていたんだ。だから、ともかくこいつをはええところ抱きとっておくんなせえよ」
「受け取るはいいが、なんだってまた、おれがこれを受け取らなくちゃならねえんだ」
「じれってえだんなだな、捨て子はこの子がひとりじゃねんだ。まだあとふたりも同じようなのがころがっているんですよ。だから、あとのを運ぶに忙しいといってるんじゃござんせんか」
「ちぇッ、なんでえ。あきれけえったやつだな。それならそうと、最初からはっきりいやいいじゃねえか。手数をかけるにもほどがあらあ、あとのふたりは、どうして置いてきたんだ」
「どうもこうもねえんですよ。ねこや犬の子なら、三匹いようと八匹いようと驚くあっしじゃねえんだが、なにしろ人間の子ときちゃ物が物だからね、いっしょに運んでつぶしちゃならねえと思って、わいわい騒いでるやつらをしかりとばしながら、張り番させて置いてきたんですよ。売るにしろ、飼うにしろ、だんなにまずいちおうお目にかけてのことにしなくちゃと思ったからね」
「よくよくあきれけえったやつだな。急いでしたくをやんな」
「え……?」
胡散うさんな捨て子が三人もあっちゃ、どうやらいわくがありそうだから、とち狂っていねえで、はええところしたくをしろといってるんだよ」
「ちッ、ありがてえ。だから、早起きもして、ふろ屋の三助ともけんかするもんさね。ざまあみろ。事がそうおいでなさりゃ、もうしめたものなんだ。それにしても、せわしいな、なんてまあこうせわしいんだろうね。――いやだよ、大将、おい、赤ん坊の大将、泣くな、泣くな。泣いちゃいやだよ。おじさんだってもこわくないぜ。ね、ほら、おもちゃがほしくば、この鼻の頭をしゃぶるといいよ。――ああ、せわしいな。いつになったら、あっしゃもっと楽になれるんでしょうね」
 まったく、いつまでたってもせわしい男です。ぶ器用に赤ん坊をあやしあやし道いっぱいに広がるように歩きながら、すいすいと風を切って、日本橋へ急いだ名人のあとを追いかけました。


 

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