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右門捕物帖(うもんとりものちょう)24 のろいのわら人形

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 9:39:13  点击:  切换到繁體中文

底本: 右門捕物帖(三)
出版社: 春陽文庫、春陽堂書店
初版発行日: 1982(昭和57)年9月15日
入力に使用: 1982(昭和57)年9月15日新装第1刷
校正に使用: 1996(平成8)年4月20日新装第3刷

 

右門捕物帖

のろいのわら人形

佐々木味津三




     1

 ――その第二十四番てがらです。
 時は八月初旬。むろん旧暦ですから今の九月ですが、宵々よいよいごとにそろそろと虫が鳴きだして、一年十二カ月を通じ、この月ぐらい人の世が心細く、天地蕭条しょうじょうとして死にたくなる月というものはない。
 だからというわけでもあるまいが、どうも少し伝六の様子がおかしいのです。朝といえばまずなにをおいても駆けつけて、名人の身のまわりの世話はいうまでもないこと、ふきそうじから食事万端、なにくれとなくやるのがしきたりであるのに、待てど暮らせどいっこうに姿を見せないので、いぶかりながらひとり住まいのそのお組小屋へいってみると、ぶらり――とくくっていたら大騒ぎですが、どう見てもそのかっこうは、これからくくろうとする人そっくりなのでした。それも、玄関前の軒下のはりのところへ、だらりと兵児帯へこおびをつりさげて、その下にぼんやりと腕組みしながら、しきりと首をひねっているのです。
「バカだな――」
「…………」
「なんて気のきかねえまねしてるんだ」
「…………」
「ね、おい大将。何しているんだよ」
 だが、返事がない。振り向きもせずに、だらりとつりさがっている兵児帯を見てはひねり、ひねっては見ながめている様子が、さながら死のうか死ぬまいかと思案でもしているかっこうそっくりでしたので、名人も少しぎょッとなりながら呼びかけました。
「知らねえ人が見りゃびっくりするじゃねえか。死にたくなるがらでもあるめえに、寝ぼけているんだったら目をさましなよ――」
 どんと背中をたたかれたのに、どうも様子が変なのです。のっそりとうしろを振り向きながら、上から下へ名人の姿をじろじろと見ながめていましたが、とつぜん、やぶからぼうに、ねっちりと妙なことをいいだしました。
「つかぬことをお尋ねするんだがね――」
「なんだよ。不意に改まって、何がどうしたんだ」
「いいえね、このはりからだらりとさがっている帯ですがね、だんなにはこれがなんと見えますかね」
「なんと見ようもねえじゃねえか。ただの帯だよ。二分も持っていきゃ十本も買える安物じゃねえか」
「でしょう。だから、あっしゃどうにもがてんがいかねえんですがね。だんなはいったいこの帯が人を殺すと思いますかね」
「変なことをいうやつだな。殺したらどうしたというんだ」
「いいえね。殺すかどうかといって、おききしているんですよ。どうですかね、殺しますかね。このとおりもめんの帯なんだ。刃物でもドスでもねえただのこのもめんのきれが、人を殺しますかね」
「つがもねえ。もめんのきれだって、なわっきれだって、りっぱに人を殺すよ。疑うなら、おめえその帯でためしにぶらりとやってみねえな。けっこう楽々とあの世へ行けるぜ」
「ちぇッ、そんなことをきいてるんじゃねえんですよ。首っくくりのしかたぐれえなら、あっしだっても知ってるんだ。だらりとね、もめんのきれがさがっている下に、人間の野郎が死んでいるんですよ。大の男がね、それもれっきとしたお侍なんだ。その二本ざしが、のど笛に風穴をあけられて、首のところを血まみれにしながら冷たくなっているんですよ。だからね、あっしゃどうにもその死に方が気に入らねえんだ。どうですかね、そんなバカなことってえものがありますかね」
「あるかねえか、やぶからぼうに、そんな妙なことをきいたってわからねえじゃねえか。どこでいったい、そんなものを見てきたんだ」
「どこもここもねえんですよ。きょうは八月の八日なんだ。一月は一日、二月は二日、三月は三日と、だんなもご存じのように月の並びの日ゃこの三年来、欠かさず観音様へ朝参りに行きますんでね。けさも夜中起きして白々ごろに雷門の前まで行くてえと、いきなりいうんです。もしえ、だんな、ちょいといい男ってね。こう陰にこもってやさしくいうんですよ」
「なんだよ。今のその変な声色は、なんのまねかい」
「女のこじきなんですがね。ええ、そうなんですよ。年のころはまず二十七、八。それがいうんですがね。ちょいといい男ってね。こうやさしくいうんですよ。だから、ついその――」
「バカだな。そのこじきがどうしたというんだ」
「いいえね、こじきはべつにどうもしねえんだ。とかく話は細かくねえと情が移らねえんでね、念のためにと思って申しあげているんだが、こじきのくせに、かわいい声を出していうんですよ。ちょいと、いい男、おにいさん。もしえ、だんな、情けは人のためではござんせぬ。七つの年に親に別れ、十の年に目がつぶれ、このとおり難渋している者でござんす。お手の内をいただかしておくんなんし、とこんなに哀れっぽく持ちかけるんでね。十の年に目のつぶれた者があっしの男ぶりまでわかるたア感心なものだと思って、三百文ばかり恵んでやったんですよ。するてえと、だんな、いいこころ持ちで観音様へお参りしながらけえってくるとね――」
「そこで見たのか」
「いいえ、そう先回りしちゃいけませんよ。話はこれからまだずっとなげえんだから、まあ黙ってお聞きくだせえまし。するとね、ぽっかり今日さまが雲を破ったんだ。朝日がね。まったく、だんなを前にして講釈するようですが、こじきに善根を施して、観音さまへお参りをすまして、いいことずくめのそのけえり道にお会い申す日の出の景色ぐれえいい心持ちのするものは、またとねえんですよ。だから、すっかりあっしも朗らかになってね、あそこへ回ったんですよ。あそこの妙見さまへね。だんなは物知りだからご存じでしょうが、下谷の練塀ねりべい小路の三本えのきの下に、榎妙見というのがありますね。よく世間のやつらが、あそこはうしとき参りをするところだとかなんだとか気味のわるいことをいっておりますが、どうしたことか、その妙見さまがまたたいそうもなくひとり者をごひいきにしてくださるとかいう評判だからね。事のついでにと思ってお参りに行くてえと、ぶらり――下がっているんですよ」
「なんだよ。何がぶらりとさがっているんだ」
「ほら、なんとかいいましたっけね。鈴でなし、かねでなし、よくほうぼうのほこらやお堂の軒先につりさがっているじゃござんせんか。青や赤やのいろいろ取り交ぜた布切れがたらりとさがっておって、それをひっぱるとガチャガチャボンボンと変な音を出すものがありまさね」
「わにぐちか」
「そうそう、わにぐちですよ。そのわにぐちの布がぶらりとさがっているまっ下にね、死んでいるんだ、死んでいるんだ、さっき申した二本ざしのりっぱなお侍がね、ぐさッとのど笛をえぐられて、長くなっていたんですよ。だから、こいつあたいへん、何をおいてもまずだんなにお知らせしなくちゃと思ってね、さっそく大急ぎにいましがた駕籠かごでけえったんですが、それにしても死に方が気に入らねえんだ。いかに妙見さまは弁天さまのごきょうだいにしたって、ただの布切れが人ののど笛を食い破るなんてことは、どう考えたってもがてんがいかねえんだからね。いってえ、そんなバカなことがあるもんだろうか、ねえもんだろうかと思って、じつはそのなんですよ。帯とわにぐちとではちっと趣が違いますが、でも同じもめんの布だからね、これで死ねるだろうかどうだろうかと、こうしてここへだらりとつりさげて、いっしょうけんめいと考えていたんですよ」
「バカだな」
「え……?」
「あきれてものがいえねえといってるんだよ。にわか坊主の禅修行じゃあるめえし、帯とにらめっこをしてなんの足しになるけえ。それならそうと早くいやいいんだ。どうやら、また手数のかかるあな(事件)のようじゃねえか。役にもたたねえ首なんぞをひねっている暇があったら、とっとと朝のしたくをやんな。まごまごしてりゃ、ご番所から迎いが来るぜ」
 いっているとき――。
「だんな、だんな! 右門のだんな!」
 向こうかどをこちらへ大声で呼びながら、そのことばを裏書きでもするように必死と駆けてきたのは、ひと目にそれとわかるご番所からの使いです。しかも、駆け近づくと同時に手渡したのは、ご奉行ぶぎょう直筆の次のごとき一書でした。
「ただいまつじ番所より急達これあり、奇怪なる事件突発いたしそうろう。
練塀ねりべい小路えのき妙見境内にて一人。
柳原やなぎわらひげすり閻魔えんま境内にて一人。
右二カ所に、いずれもろく持ち藩士とおぼしき人体の者ども、無残なる横死を遂げおる由内訴これありそうろう条、そうそうにお手配しかるべく。右取り急ぎ伝達いたしそうろう」
「ちぇッ、おどろいたね――」
 伸びあがってじろりとうしろからそのお差し紙をのぞき見しながら、たちまち首をあげたのはわが親愛なる伝六でした。
「なんてまたはええだろうな。こんなに早くご番所へご注進が飛んでいったところをみるてえと、こりゃどうも大騒動ですぜ。それに、見りゃ妙見堂とお閻魔さまとふたところじゃござんせんか。まさかに、あっしのお目にかかった練塀小路の死骸しがいが、ひとりでに柳原まで浮かれだしていったんじゃありますまいね。え? ちょいと、だんな。――おやッ、かなわねえな。ね、ちょいと、[#「ね、ちょいと、」は底本では「ねちょいと、」]だんな。急にまたどうしたんですかい。ね、だんな! 何が気に入らねえんです。え? ちょいと、だんな! 何をおこったんですかい」
 めんくらったのも無理はない。いいこころ持ちに音をあげながらひょいと見ると、すぐにも外出のしたくを始めるだろうと思われた名人が、どうしたことか、お組屋敷へ帰るやいなや、急にむっつりと黙り込んで、ゆうゆうと庭先へ降りながら、そこに並べてあったおもとのはちを、あちらへひねり、こちらへひねり、しきりとのんきそうにいじくりだしたからです。いや、そればかりではない。にわかに三、四十、年が寄りでもしたような納まり方で、紅筆と番茶の冷やしじるを持ち出すと、おもとの葉の裏と表を丹念に一枚一枚洗いだしたので、さっとたちまち伝六空がかき曇ったかと見えるやいなや、ものすさまじい朝雷がガラガラジャンジャンと鳴りだしました。
「なんです! なんです! 何がいったい気に入らねえんですかよ! だから、あっしゃいつでもむだな心配しなくちゃならねえんだ。だんなが急げといったからこそ、あわてけえっておまんまのしたくもしたじゃござんせんか。しかるになんぞや、おもとなんぞにうつつをぬかして、何がいってえおもしれえんです。ね、ちょいと、え? だんな!」
「…………」
「耳はねえんですかい。ね、ちょいと。え? だんな! だてや酔狂でがみがみいうんじゃねえんですよ。お奉行さまがおっしゃるんだ、お奉行さまがね。そうそうにお手配しかるべしと、お番所じゃいちばんえれえお奉行さまがおっしゃるんですよ、にわか隠居が日干しに会ったんじゃあるめえし、おもとなんぞとにらめっこをしていたら、何がおもしれえんですかよ。ね、ちょいと。え? だんな! 聞こえねえんですかい」
 鳴れどたたけど返事はないのです。黙々として丹念に一枚一枚葉を洗ってしまってから、ゆうゆうと食事をしたため、ゆうゆうと蝋色鞘ろいろざやを腰にすると、不意にずばりとあいきょう者をおどろかせていいました。
「もう大将飛び出していった時分だ。ちょっくらいって、あば敬の様子を見てきなよ」
「え……?」
「あばたの敬公の様子を見てこいといってるんだよ」
「ちぇッ。ようやく人並みに口をきくようになったかと思うと、もうそれだからな。ほんとうに、どこまで人に苦労させるんでしょうね。お差し紙の来たのはだんななんだ。あば敬のところじゃねえ、だんなのところへ来たんですよ。疱瘡神ほうそうがみの露払いじゃあるめえし、用もねえのに、わざわざとあばたのところへなんぞ行くがものはねえじゃござんせんか」
「しようがねえな。だから、おれもおめえの顔を見るとものをいいたくなくなるんだ。わからなきゃ、このお差し紙をもう一度よくみろい。名あてがねえんだ。どこにも名あてがねえじゃねえか。おれひとりへのおいいつけなら、ちゃんとお名ざししてあるべきはずなのに、どこを見ても右門の右の字も見当たらねえのは、お奉行さまがこの騒動を大あな(事件)とおにらみなすって、いくらか人がましいあば敬とおれとのふたりに手配りさせようと、同じものを二通お書きなすった証拠だよ。現の証拠にゃ、さっきの小者があば敬の組屋敷のほうへ飛んでいったじゃねえか。ただの一度むだをいったことのねえおれなんだ。見てくりゃわかるんだから、はええところいってきなよ」
「なんでえ、そうでしたかい。それならそうと早くいやいいのに、道理でね、さっきの使いめ、いま一本お差し紙をわしづかみにしていましたよ。ちくしょうめッ、にわかとあごに油が乗ってきやがった。あば敬の親方とさや当てするたア、まったく久しぶりだね。そうと事が決まりゃ気合いが違うんだ、気合いがな。ほんとうに、どうするか覚えてろッ。――おやッ。いけねえ。いけねえ」
 急に日本晴れとなりながら、ばたばたと駆けだしていったかと見えたが、まもなく抜き足さし足でもどってくると、事重大とばかりに目を丸めながら、声を落としてささやきました。
「ね、いるんですよ。大将がうちの表にまごまごしておりますぜ」
「敬公か」
「ええ。ねこのように足音殺しながらやって来やがってね。表からそうっと、うちの様子をうかがっているんですよ。ね、ほら、あれがそうですよ。あのかきねのそばにいるのがそうですよ」
 からだを泳がしてのぞいてみると、なるほど、それこそはまさしく同僚あばたの敬四郎とその配下ふたりです。まことに久方ぶりの対面というのほかはない。だが、いつまでたってもこの心がけよろしからざる同僚は、依然としてその了見が直らないと見えて、ぴったりかきねのそばへ身を寄せながらしきりとこちらの様子をうかがっていたので、それと知るや、名人はさっそうとして立ち上がりざま、吐き出すようにいいました。
「うすみっともねえったらありゃしねえや。伝六あにいのおしゃべりと、あば敬だんなのあの根性は、刀鍛冶かじにでもかけてたたき直さなきゃ直らねえとみえるよ。けんかになっちゃなるめえと思ったからこそ、わざわざおもといじりまでもやって、あとからゆっくり行こうと遠慮していたのに、すき見するとはなんのざまでえ。ひとからかい、からかってやるから、ついてきな」
 微笑しながら出ていくと、いたって静かにいったものです。
「これはこれは、おそろいでござりまするな。たいそうご熱心におのぞきのようでござりまするが、うちの庭に温泉でも吹き出しましたかな」
 めんくらったのはあば敬とその一党でした。不意をうたれてまごまごしているのをしり目にかけながら、ゆるやかにあごをなでると、なんと思ったか聞こえよがしに伝六へ命じました。
「練塀小路から先にしようぜ。大急ぎにな、二丁だぜ」
 ひらり乗るといっさん走り。――あとにつづいてあば敬とその一党も、逃がしてならじというように、三丁の駕籠をつらねながら、えいほうと韋駄天いだてんに追いかけました。


 

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