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右門捕物帖(うもんとりものちょう)34 首つり五人男

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 9:54:14  点击:  切换到繁體中文


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 松の根もとに並べたのを見しらべると、五人ともに死人はたくましい男ばかりです。
 不思議なことには、その五人が申し合わせたように、三十まえの若者ばかりでした。こざっぱりとした身なりはしているが、裕福なものたちではない。
 懐中は無一物。手がかりとなるべき品も皆無。しかし、無一物皆無であったにしても、どういう素姓の者かまずそれにがんをつけるのが第一です。
 しゃがんで龕燈がんどうをさしつけながら、しきりとあちらこちらを調べていたが、はからずもそのとき名人の目をひいたものは、死人の手のひらでした。
 五人ともに人並みすぐれてがんじょうな手をしているばかりか、その両手の指の腹から手のひらにかけて、いち面に肉豆たこが当たっているのです。
「船頭だな!」
「へ……? 船頭というと、船のあの船頭ですかい」
「決まってらあ。駕籠屋に船頭があるかい。いちいち口を出して、うるさいやつだ。この手を見ろい。まさしくこいつあ艫肉豆ろだこだ。船頭の証拠だよ。これだけがんがつきゃ騒ぐこたアねえ。自身番の連中、おまえらはどこだ」
「北鳥越でござります」
「四、五町あるな。遠いところをきのどくだが、見たとおり、ただの首くくりじゃねえ。今夜のうちにも騒ぎを聞いて、この者たちの身寄りが引き取りに来るかもしれねえからな。来たらよく所をきいて渡すように、小屋に死体を運んで番をせい。人手にかかったと思や、よけいふびんだ。ねんごろに預かって守ってやれよ……」
 言い捨てて、さっさと歩きだしたかと見る間に、たちまちその場から名人十八番の右門流が始まりました。蔵前を左へ天王町から瓦町かわらまちへ出て、そこの町かどのお料理仕出し魚辰うおたつ、とあかり看板の出ていた一軒へずかずかはいっていくと、やにわにいったものです。
「何かうまそうなもので折り詰めができるか」
「できますが、何人まえさんで?」
「五人まえじゃ」
「五人まえ……!」
 不意を打たれて、伝六、ぽかんとなりました。だいいち、仕出し屋へ来て折り詰め弁当をあつらえたことからしてがふにおちないのです。そのうえ五人まえとは、だれが食べるつもりなのか考えようがない。今のさき取りかたづけさせたあの五人の亡者もうじゃにでも食べさせるつもりであるなら、さかな屋で生臭入りの弁当もおかしいのです。
「冗、冗、冗談じゃねえや。あっしゃもう……あっしゃもう……」
 鳴りたくも鳴れないほどどぎもをぬかれて、さすがの伝六も目を丸めたきりでした。
 しかし、名人はとんちゃくがない。
「ああ、できたか。ご苦労ご苦労。ほら代をやるぞ」
 小粒銀をころころと投げ出して、両手にぶらさげると、やっていったところがまた不思議です。柳橋から両国橋を渡って、大川沿いに土手を左へ曲がりながら、そこの回向院えこういん裏の横堀よこぼりの奥へどんどんと急ぎました。
 突き当たりに小さな小屋がある。
 軒は傾き、壁はくずれて、さながらに隠亡おんぼう小屋のような気味のわるい小屋でした。もちろん、ただの小屋ではない。じつに、この横堀こそは、秋の隅田すみだに名物のあの土左衛門舟がともをとめるもやい堀なのです。川から拾いあげた死体はみんなここまで運び、引き取り人のある者はこの小屋で引き渡し、身寄りも縁者もない無縁仏は、裏の回向院へ葬るのがならわしでした。
 だからこそ、中は火の気一つ、あかり一つないうえに、気のせいばかりでなく死人のにおいがプーンと鼻を打ちました。
 その暗い小屋の中へどんどんはいっていくと、名人はすましていったものです。
「なにはともかく、腹をこしらえるのがだいいちだ。遠慮せずと、おまえもおあがりよ」
「冗、冗、冗談じゃねえですよ。気味のわるい。弁当どころか、あっしゃ気味がわるくて、も、も、ものもいえねえんですよ」
「そうかい。でも、おいしいぜ。ほほう、いま食ったのはどうやら卵焼きらしいや、暗がりでよくはわからねえが、なかなかしゃれた味につくってあるよ。どうだい。おまえ食べないかい」
「いらねえですよ」
「そうかい。遠慮すると腹がへるぜ。おいらが一人まえ、おまえは晩めしもいただいていないから、四人まえはいるだろうと思って親切につくってきてやったんだが、調子がわるいと朝までここにこうしていなきゃならねえかもしれんからな。あとでぴいぴい音をあげたって知らねえぜ」
 すましてぱくぱくやっていた名人が、とつぜんそのときさっと腰を浮かしました。
 ギーギーと、の音が近づいてくるのです。この横堀へはいってくるからには、まさしく土左舟でした。
「来たな! 間が悪けりゃ朝までと思ったが、このぶんじゃとんとん拍子に道が開けるかもしれねえや。さっそく一発おどしてやろうぜ……」
 立ちあがったかと思うまもなく、姿はもう外でした――。じつに、ここへ名人のやって来たのは、その土左舟の詮議せんぎに来たのです。あの五人の死体が他殺であるのは、すでににらんだとおりでした。殺して運んで、あの枝につるして、みずからくくったかのごとく見せかけたにちがいないことも、またすでににらんだとおりでした。だが、あのとおり、つりさがっていた場所は、幹から運んでいくのはもとよりのこと、尋常ではのぼってもいかれないような枝の先なのです。むろん、それから察すると、十中十まで舟で運んで、舟からあの枝へなにか細工をしたことは疑いのない事実でした。しかし、運んだものは死体です。なによりも縁起をかつぐ荷足り舟や伝馬船てんませんが、縁起でもない死体をのせたり運んだりするはずはないのです。十中十まで土左舟であろうとにらんだればこそ、夜あかしを覚悟のうえでわざわざ詮議に来たのでした。
「なるほど、そうでしたかい。えへへ……さあ、ことだ。べらぼうめ。急に腹が減ってきやアがった。さあ、忙しくなったぞ」
 ようやくに伝六も知恵が回ったとみえて、弁当をわしづかみにしながら飛んできたのを、名人はにこりともするもんではない。そしらぬ顔にふり向きもせずずかずかと土左舟に近づくと、穏やかに呼びかけました。
「毎晩毎晩奇特なことじゃな。お役舟か。それとも、特志の舟か。どっちじゃ」
但馬屋たじまや身内の特志舟でござんす」
「そうか、ご苦労なことだな。揚げてきたは、やっぱり心中か」
「いいえ。野郎仏をひとり、橋下でいま拾ったんでね。急いで帰ってきたんですよ」
「ほほう、男をな。ききたいことがある、隠してはならんぞ。日の暮れあたりに、おまえら土左舟のうちで、死体を五つ運んだものがあるはずだが、どの舟だ」
「ああ、なるほど、そのことでござんすか。首尾の松の一件じゃござんせんかい」
「知っておるか!」
「あそこに妙な首つりが五人あったと聞いたんでね、はて変だなと思って、今も舟の上できょうでえと話し話し来たんですがね。日暮れがた、ちょっとおかしなことがあったんですよ。今夜からお上のお役舟は川下のほうをお回りなさることになったんでね。じゃ、あっしども特志の舟は手分けして川上を回ろうというんで、幡随院舟はずっと上の綾瀬川あやせがわ、加賀芳舟は東橋、わっちども但馬屋舟はこのあたりにしようとここで相談しておったら、変な男が、三、四人やって来てね、今そこで五人ひとかたまりの土左衛門を見つけた、功徳だからおれたちであげてやる、どれか一艘舟を貸せんかといったんで、加賀芳身内がなんの気なしに貸したんですよ。ところが、どこで拾ってどこへ始末したのか、仏ならこの小屋へ運んできそうなものなのに、まもなくから舟をまた返しに来たんでね。妙なことをしやがると思っていたら、首尾の松に五人、ぶらりとさがっていると聞いたんです。お尋ねはそれじゃござんせんかい」
「まさしくそれだ! どんな人相をしていたか覚えないか!」
「そいつがあいにく、怪しいやつらたア気がつかなんだものだからね、なに一つ見覚えがねえんですよ」
「風体はどうだ!」
「それもうっかりしていて気がつかなかったんですよ」
「せめて年ごろにでも覚えはないか」
「それさえさっぱり覚えがねえんです。なんしろ、月はまだあがらず、薄暗いところへもってきて、向こうははじめっからそのつもりだったか、顔を隠していやがったんでね。気のついたこたアなんにもねえですよ」
 名人の手は、知らぬまにあごをなではじめました。ぞうさなく開けかけたかと思った道は、突如として深い霧の中へ隠れてしまったのです。にらんだとおり、土左舟を借りに来たその者たちが、あの五人を運んだにちがいない。おそらく、はしごでもいっしょに積んでいって、あの枝にかけたことは疑いない。
 しかし、わかったことはただそれだけなのです。どこから死体を運んできたか、どういう素姓のものか、不審なその男たちが殺した下手人であるかどうか、だれかに頼まれて運んだものか、肝心かなめの詮議のつるは、まったく霧の中へ隠されてしまって、さらにつかみようがないのです。
「ちとこいつ難物だな」
「ね……!」
「なに感心していやがるんでえ。大急ぎでひと回り、回ってきな」
「どこを回るんですかい」
「決まってらあ。人相も風体もつかまえどころのねえやつらを目あてに江戸じゅう捜してみたって、目鼻はつかねえんだ。詮議の手を変えるんだよ。こうなりゃ、絞め殺された五人の身性を洗うよりほかに道はねえ。うわさを聞いて、身寄りの者が引き取りに来たかもしれねえから、第一にまず北鳥越の今の自身番へいって探ってくるんだ。なんの音さたもねえようだったら、ご番所へ駆け込みがはいっているかもしれねえから、北町南町両方洗ってきなよ」
「承知のすけだ。だんなはどこでお待ちなさるんですかい」
「鼻のさきの向いたほうで待っているよ。早く帰ってくるんだぜ……」
 伝六は右、右門は左、分かれて八丁堀へ帰りついたのは、とうにもう五ツを回って、かれこれ四ツ近い刻限でした。
 しかし、さすがに今宵こよいの名人は、少し様子が違うのです。ひとたびこうとがんをつけて詮議の手をのばしたからには、よしや途中手がかりのつるが切れるようなことがあったにしても、そこからさらに思いもよらぬ新芽の手づるをみつけ出して、詮議の手もまた計り知れぬほうへ伸びてくるのがつねであるのに、今度のこの怪奇な事件ばかりは、ふっつりとつるが切れたままで、新芽はおろか、まるで見当もつかないのでした。しかも、なにゆえの犯行か考えようがない。ホシのつけようもない。絞められた五人は船頭であること、土左舟で運んであの松へつるしたということ、わかっているのはそればかりです。
 寝もやらず、名人はあごをなでなで、ひたすらに伝六の帰りを待ちわびました。
 しいんとふけ渡って、秋なればこそ、そぞろに悲しくわびしく、なぜともなしに身が引き入れられるようです……。
 一刻いっとき近い時がたちました。
 しかし、来ない。
 北鳥越、呉服橋、数寄屋橋と、三カ所順々に回ったにしても、もうそろそろ帰ってこなければならないはずなのに、どうしたことか、伝六がなかなかに姿をみせないのです。
 さらに一刻がたちました。
 だが、来ない。
 足音もないのです。
「変なやつだな。また何か始めやがったかな……」
 半刻がすぎ、一刻がたつ、いつのまにか屋のむねの下がる丑満うしみつもすぎて、やがてしらじらと夜が明けかかったというのに、いかにも不思議でした。足音はおろか、伝六の姿も影もないのです。
 不安がにわかにつのりました。
 しかし、やはり姿はない。
 からりと夜が明け放れました。
 だが、まるで糸の切れたたこです。
 日があがりました。
 しかし、依然として帰ってこないのです。
 不安はいよいよつのりました。いかな伝六にしても、いまだになしのつぶてという法はない。
 何かあったにちがいないのです。
 寝もやらず、身じろぎもせず不安と不審に首長くして待ちきっているとき、とつぜん、ばたばたと、ただならぬ足音が表の向こうから近づきました。
「伝六か!」
「…………」
「たれじゃ! 伝六か!」
「いいえ、あの、北鳥越の自身番の者でござります」
 意外にも駆けこんできたのは、ゆうべ死体の始末をつけさせたあの北鳥越自身番の小者なのです。
 名人の声が飛びました。
「何をあわてておるのじゃ!」
「これがあわてずにおられますか! やられました! やられました! とんだことになったんですよ!」
「死体か!」
「そうでござんす! ゆうべ五人とも盗まれたんでござんす」
「なにッ。行くえもわからぬか!」
「いいえ、それがじつに気味がわるいのでござります。ねんごろに守れとのおことばでござりましたゆえ、あれから死体を運んで帰って、つじ番小屋の中へ寝かしまして、目も放さず見張っておりましたのに、いつ盗まれたのやら、ひょいと気がつくと、五人とも亡者もうじゃの姿がなくなっておりましたゆえ、にわかに騒ぎだして、八方へ手分けしながら捜したところ――」
「どこにあった!」
「ゆうべのあの枝に、ぶらりとさがっていたんですよ。それも、けさになってようようわかったんでござります。やっぱり船頭がみつけまして、血の色もなく小屋までしらせに参りましたんで、半信半疑で駆けつけましたところ、枝も同じ、場所も同じ、ゆうべのかっこうそのままで五人ともさがっているんですよ。なにはともかくと思って、すぐお知らせに駆けつけたんでござります」
 名人の顔は、さっと青ざめました。
 事件はいよいよ怪奇にはいったのです。
 伝六のいまだに帰らないのも不思議である。
 盗み出し、あまつさえ同じ枝にまたぶらさげてあったというのは、さらに不思議です。
「よしッ。すぐに参ろう。ご苦労じゃが、駕籠のしたくさせてくれぬか」
 うちのるや、ひたひたと一足飛びに走らせました。


 

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