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十万石の怪談(じゅうまんごくのかいだん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 10:14:41  点击:  切换到繁體中文

底本: 小笠原壱岐守
出版社: 講談社大衆文学館文庫、講談社
初版発行日: 1997(平成9)年2月20日
入力に使用: 1997(平成9)年2月20日第1刷
校正に使用: 1997(平成9)年2月20日第1刷


底本の親本: 佐々木味津三全集10
出版社: 平凡社
初版発行日: 1934(昭和9)年

 

        一

 りんの火だ!
 さながらに青白く燃えている燐の火を思わすような月光である。――書院の障子いちめんにその月光が青白くさんさんとふりそそいで、ぞおっと襟首えりくび立つような夜だった。
 そよとの風もない……。
 ことりとの音もない。
 二本松城十万石が、不気味にえたその月の光りの中に、け込んでしまったような静けさである。――城主丹羽にわ長国は、置物のようにじっと脇息きょうそく両肱りょうひじをもたせかけて、わざとあかりを消させた奥書院のほの白いやみの中に、もう半刻はんとき近くも端座しながら、身じろぎもせずに黙然もくねんとふりそそいでいるその月光をきいったままだった。見入みいっているのではない。まさしくそれは心に聴き入っていると言った方が適切である。万一の場合を気遣って、御警固旁々かたがた座に控えていた者はたった四人。――いずれも御気に入りの近侍きんじの林四門七と、永井大三郎と、石川六四郎と、そうして多々羅たたら半兵衛の四人だった。
 声はない……。
 言葉もない……。
 主従五つの影は、身動きもせず人形のように黙座したままで、いたずらに只さんさんと月光がふりそそいでいるばかりである。――と思われた刹那せつな
「ハハハハハ……」
 突然長国が、引きつったような笑い声をあげた。
「ハハハハ……。ハハハハハ」
 だが、四人の近侍達は驚きの色も現わさないで、ビーンビーンとこだまし乍ら、洞窟さながらのような城内深くの闇と静寂の中へ不気味なその笑い声の吸われて行くのをじっときき流したままだった。殿の御胸中は分りすぎる程よく分っていたからである。屹度きっとおうるさいに違いないのだ。殿御自身はとうに会津中将へ御味方の御決断も御覚悟もついているのに、重臣共がやれ藩名のやれ朝敵のといって何かと言えば薩長ばらの機嫌ばかりを取結ぽうと、毎日毎夜らちもない藩議を重ねているのがわずらわしくなったに違いないのだ。――果然かぜん長国が吐き出すように言った。
「いっそもう野武士になりたい位じゃ。十万石がうるそうなったわ。なまじ城持ちじゃ、国持ちじゃと手枷首枷てかせくびかせがあればこそ思い通りに振舞うことも出来ぬのじゃ。それにつけても肥後守ひごのかみは、――会津中将は、あおい御一門切っての天晴あっぱれな公達きんだちのう! 御三家ですらもが薩長の鼻息うかごうて、江戸追討軍の御先棒となるきのう今日じゃ。さるを三十になるやならずの若いおん身で若松城が石一つになるまでも戦い抜こうと言う御心意気は、思うだに颯爽さっそうとして胸がすくわ。のう! 林田! そち達はどう思うぞ」
「只々もう御勇ましさ、水際立みずきわだって御見事というよりほかに言いようがござりませぬ。山の頂きからまろび落ちる大岩を身一つで支えようとするようなもので厶ります。手を添えて突き落すは三つ児でも出発るわざで厶りまするが、これを支え、喰い止めようとするは大丈夫の御覚悟持ったお方でのうてはなかなかに真似まねも出来ませぬ。壮烈と申しますか、悲壮と申しますか、いっそ御覚悟の程が涙ぐましい位で厶ります」
「そうぞ。そうぞ。この長国もそれを言うのじゃ。勤王じゃ、大義じゃ、尊王じゃと美名にかくれての天下泥棒ならば誰でもするわ。――それが憎い! 憎ければこそ容保候へせめてもの餞別はなむけしようと、会津への援兵申し付けたのにどこが悪いぞ。のう永井! 石川! 年はとりたくないものよな」
御意ぎょいに厶ります。手前共は言うまでもないこと、家中の者でも若侍達はひとり残らず、今日かあすかと会津への援兵待ちこがれておりますのに御老人達はよくよく気の永い事で厶ります」
「そうよ。ああでもない。こうでもないと、うじうじこねくり廻しておるのが分別じゃと言うわ。――そのまに会津が落城致せば何とするぞ! たわけ者達めがっ。恭順の意とやらを表したとてもいずれは薩長共にわたくしされるこの十万石じゃ。ほしゅうないわっ。いいや、意気地が立てたい! 長国は只武士もののふの意気地を貫きたいのじゃ! ――中将程の天晴れ武将を何とて見殺しなるものかっ。――たわけ者達めがっ。のう! 如何どうぞ。老人という奴はよくよくじれったい奴等よのう!」
 ののしるようにつぶやながら長国は、いくたびか脇息の上で身をよじらせた。実際またじれったかったに違いない。ほかのことならともかく、こればかりは殿、御一存での御裁決まかりなりませぬ。三河乍らの御家名は申すに及ばず、一つ間違わば末代までも朝敵の汚名着ねばならぬ瀬戸際で厶りますゆえ、藩議が相定まりますまで御遠慮下さりませ。そう言って重臣達が主候の長国をしりぞけ、会津への援兵、是か非かに就いて論議をし始めてからもうまる三日になるのである。――会津中将松平容保が薩長の執拗しつような江戸追討を憤って、単身あくまでもその暴虐横暴に拮抗きっこうすべく、孤城若松に立て籠ってから丁度ちょうど六日目のことだった。勿論もちろん、その討伐軍は大垣、筑紫の両藩十万人を先鋒にして、錦旗にこの世の春を誇り乍ら、すでにもう江戸を進発しているのだ。右するも左するも事は急なのである。
 月が青い……。
 慶応四年の春の夜ふけの遅い月が、陸奥むつ二本松の十万石をそのひと色に塗りこめて陰火のように青白かった。
「アハハハハ……」
 じいっと魅入みいられたもののごとく、障子に散りしいているその月光を見眺みながめていた長国が、突然、引きつったように笑って言った。
「馬鹿者共めがっ。アハハハハ……。みい! みい! あの色をみい! まるで鬼火じゃ。二本松のこの城を地獄へつれて行く鬼火のようじゃわ、ハハハハハハ……」
 吸い込まれるように声が消えて、城内はやがてまたしいんと静まりかえった。
 と思われたとき、――不意にキイキイと、書院のお廊下の鶯張うぐいすばりが怪しく鳴いた。
「門七!」
大三だいざ!」
「石川!」
「多々羅!」
 顔から顔へ名を呼ぶように目交めまぜが飛ぶと、近侍達は一斉にかたわらの脇差をにぎりしめた。――恭順か、会津援兵か、その去就を内偵すべく官軍の密偵達が、たいら棚倉たなくら、福島、仙台、米沢から遠く秋田南部のお城下までも入りこんでいるのは隠れない事実なのである。
 四本の脇差の鯉口こいくちは、握り取られると同時にプツリプツリと素早く切って放たれた。
 だが、不思議である。お抱え番匠万平が、これならばいか程忍びの術にけた者であっても、決して無事には渡り切れませぬと折紙つけたその鶯張りなのだ。だのに音はそれっきりきこえなかった。
 と思われたとき、――キイキイとまた鳴いた。
 同時に影だ!
 ふりそそいでいる月光の中から障子のおもてが、突然ふわりと黒い人の影が浮び上った。ふた筋三筋びんのほつれ毛がほっそりとしたその顔に散りかかって、力なくしょんぼりとうなだれ乍らまるで足のない人のごとく青白い光りの中にたたずんでいるのである。
「た、誰じゃ!」
「何者じゃ!」
 叫び乍ら門七と大三郎が走りよって、さっと左右から障子を押し開いた刹那、――ぺたぺたと崩れ伏すように影が膝を折ると消え入るような声で言った。
「おそなわりまして厶ります……」

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