三
王子はこんなめずらしい男を三人まで家来にかかえたので、大とくいになって、どんどん歩いていきました。そのかわりこれまでとちがって、三人をやしなうのに、大そうなお金がかかりました。だって火の目小僧と長々の二人は、ただあたりまえの人が食べるだけしか食べませんでしたが、もう一人のぶくぶくは、お腹がいくらでもひろがるので食べるも/\一どに牛肉の千貫目やパンの千本ぐらいは、どこへ入ったかわからないくらいです。そんな男に腹一ぱい食べさすには、とても一とおりのお金ではすみません。しかし王子は、ちっともいやな顔をしないで、食べたいだけ食べさせてどんどんお金をはらいました。
そのうちにやっとれいの王女のいる町へ着きました。王子はそのときはじめて、じぶんがはるばるここまで出て来たわけを三人に話して聞かせました。そしてどうか三晩とも眠らないで番をしとおしたいものだ、そしてうまく王女をお嫁にもらったら、おまえたちにはどっさりほうびをやるといいました。三人は、それを聞いて、
「これまでだれにも出来なかったことをして見せれば、第一世界中の人にもいばれます。私たちも一しょうけんめいにお手つだいいたします。」と、勇み立って言いました。
王子は三人にりっぱな着物を買って着せました。そして夜になると、みんなをつれて王さまの御殿へいって、どうか私に、王女さまの番をさせて下さいましと申しこみました。
王さまはこころよく王子と家来とを一と間におとおしになりました。
王子はそのまえに、三人に向って、どんなことがあっても、私がだれだということは人にしゃべらないように、それから三人が、いざというと、じきにすらすらのびたり、ぶくぶくふくれたり、火をふいたりすることも、かたくひみつにしておくように言いふくめておきました。
王さまは王子に向って、
「もしうっかりい眠りをして、王女を部屋からにがすと、おまえたち四人の命を取るがそれでもいいか。」と、ねんをおおしになりました。
「それはしょうちしております。」と王子は答えました。
王さまは、よせばいいのにと言わないばかりににたにたお笑いになって、
「それでは、こちらへお出でなさい。」とおっしゃりながら、王子を、王女のお部屋へおつれになりました。王女はにこにこしながら出て来て、あいそうよく王子をむかえ入れました。王子は王女があんまりうつくしいので、目がくらんで、しばらくぼんやり立ちつくしていました。王女は、
「どうぞ。」と言って、一ばんきれいないすのところへつれていきました。
王さまは二人をそこにのこして、あちらへいっておしまいになりました。
その間にぶくぶくは、そっと来て、王女のお部屋の戸の外へしゃがみました。それと一しょに、長々と火の目小僧とは、こっそりと外へまわってお部屋の窓の下へかくれました。
王女は王子に向っていろんなお話をしました。王子はそのお相手をしながら、一生けんめいに王女のそぶりに気をつけていました。するとやがて王女は、ふと話をやめて、そのままだまってしまいました。そしてしばらくたつと、
「ああねむったい。なんだかまっ赤なものが、もうッと、まぶたの上へかぶさるような気がします。しばらくごめん下さい。」と言いながら、いきなり長いすの上に横になって、目をつぶってしまいました。
四
王子はそれでもけっしてゆだんをしないで、じっと王女のようすを見ていました。すると王女は間もなく、すやすやと寝入ってしまいました。
王子はその長いすのそばのテイブルのところへいって、ひじをついて、手のひらでおとがいをささえながら、目ばたきもしないで、王女の顔を見つめていました。
ところがそのうちに、王子はだんだんと、ひとりでにまぶたがおもくなって、いつの間にかこくりこくりといねむりをはじめました。ぶくぶくや長々や、火の目小僧は、さっきから一生けんめいに耳をすましていました。
ところがちょうど王子が眠りかけるころになると、この三人も、同じように眠けがさして、とうとうこくりこくりと寝てしまいました。
王女は王子がぐっすりねいったのをかんづくと、にっこり笑って、おき上りました。じつはさっきから、上手に寝たふりをして、王子が寝入るのをねらっていたのでした。
そしておき上るといきなり、ひょいと小さな鳩になって窓からとび出しました。王女はこういうじゆうじざいな魔法の力をもっているのです。これまで、どんな人が番に来ても、みんな王女をにがしたわけが、これでおわかりになったでしょう。
ところが今夜にかぎって、王女はついやりそこなって、まんまと火の目小僧と長々とに見つかってしまいました。それは鳩になって、窓からとび出すはずみに、暗がりの中にこごんでいた長々の頭の髪へ、ぱたりと羽根をぶつけたからです。長々は、びっくりして目をあけて、
「おや、だれかにげ出したぞ。」と、どなりました。
火の目小僧も目をさまして、
「どっちだ/\。」と言いながら、目の玉に力を入れて、くるくる四方八方をにらみまわしました。するとそのたんびに、目の中からしゅうしゅうと、長い焔がとび出しました。そのために、にげかけていた鳩は、たちまち二つのつばさをまっ黒に焼きこがされてしまいました。
鳩はびっくりして、じきそばにあった高い木の先へとまりました。
そうすると長々は、たちまちするするとからだをのばして、その鳩をひょいと両手でつかまえてしまいました。
鳩はしかたなしに、もとの王女のすがたになって、長々につれられて、お部屋へかえりました。
そんなことはちっとも知らないで、ぐうぐう寝ていた王子は、長々にゆり起されて、びっくりして目をさましました。
こんなわけで、王女はとうとうそのばんはにげ出すことが出来ませんでした。
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