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ぶくぶく長々火の目小僧(ぶくぶくながながひのめこぞう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-12 9:51:09  点击:  切换到繁體中文


       七

 王さまは、ふと見ると王女がいつのにかいなくなっているものですから、
「おや、たいへんだ。あの四人のものが、さらっていったにちがいない。追っかけてうばいかえして来い。さあ早く早く。」とまっ赤になって御命令になりました。すると王さまの兵たいは、
「そらいけ。」と言うが早いか、何千人という大人数だいにんずうが、一どに馬にとびのって、大風おおかぜのように、びゅうびゅうかけだしました。
 王子たちは王女の手を引いて、遠くまでにげて来ました。するとやがてうしろの方で、ぽか/\/\と大そうなひづめの音が聞え出しました。王子は走りながら、
「おいおい、何だろう。」と三人の家来に言いました。
「おや、兵たいのようですよ。ああ、兵たいだ/\。馬に乗った兵たいが大風のようにとんで来ます。」
 火の目小僧は後を見るなりこう言いました。王女はそれを聞いて、
「では、きっと、お父さまの兵たいが、あなたがたを殺しにまいりましたのでしょう。ああいいことがございます。ちょっとおまち下さいまし。」と、息を切らしながらこう言って、王子たちに手をはなしてもらいました。そのうちに騎兵は、
「うわあッ。」と、ときの声を上げて、王子たちのじき後まで追いつめて来ました。王女は王子にけががあってはたいへんだと思って、おおいそぎで、かぶっている顔かけを引きはなしました。そのときちょうど、風は兵たいの方へ向けてふいていました。王女はその顔かけをいそいで後へなげつけて、
「さあ、えておくれ。この顔かけの糸の数ほど生えておくれ。」と、おまじないの言葉をとなえました。すると、たちまちみんなのじき後へ、大きな木が、一どにぎっしり生えのびて、またたくに大きな大深林だいしんりんが出来ました。兵たいたちは、
「おやッ。」と言ってまごまごしながら、その木の間をむりやりにくぐりぬけようともがきました。王子と三人の家来とは、そのひまに、王女をつれて一しょうけんめいににげのびました。
 みんなはしばらく、かけつづけにかけたのち、やっと安心して一と休みしました。王子は、
「どうだ、まだ追っかけて来るか見てごらん。」と、火の目小僧に言いつけました。火の目小僧は、さっそくのび上って見ますと、兵たいが今やっと、さっきの林をくぐりぬけて、またどんどん砂けむりを立ててかけつけて来るのが見えました。王子は、
「では、ぐずぐずしてはいられない。さあにげよう。」と言って立ち上りました。すると王女は、
「いえいえだいじょうぶでございます。もうすこし休んでいらっしゃいまし。」と言いながら、目から涙を一としずくながして、
「さあ、涙、大きな河になっておくれ。」と言いました。するとたちまちそこへ大きな大きな河ができました。王子はそれで安心して、また王女の手をとってにげました。
 みんなは、長い間どんどん走りつづけに走って、もうこれならだいじょうぶだろうと思いながらしばらく休みました。
「どうだ、まだ追っかけて来るか。」と、王子はもう一ど火の目小僧に見させました。火の目小僧はうしろを向いて爪立つまだちをして、
「おや、とうとうあの河をわたって、また追っかけてまいります。」と言いました。王女はそれを聞くと、
「どういたしましょう。もう私の力ではどうすることも出来ません。どうかして、この昼を夜にする工夫はないものでございましょうか。」と言いました。すると長々は、
「ああ、それならぞうさもありません。」と言いながら、からだをするするのばしました。そして、あッと言うに天までのび上りました。みんなはびっくりして、何をするのかと見ていますと、長々はたかいたかい雲の中で帽子をぬいで、その帽子を、ひょいとお日さまの片がわへかぶせました。すると下界は王子たちのいる方に光がさすだけで、兵たいがかけて来る方の半分は、ふいに夜のようにまっくらになってしまいました。
 王子たちは、兵たいが暗がりでまごまごしている間に、
「さあ、走れ走れ。」と言いながら、ふたたび王女の手をとって、おおいそぎでかけ出しました。長々は王子たちが、いいかげん遠くまでにげのびたのを見すまして、ひょいと帽子をはずして、頭にかぶりました。そして一と足で一里またげる、その長い足で、ひょい/\/\と、またたく間に王子のそばへ追いつきました。
 それからみんなは、また一しょに走りつづけました。そのうちに向うの方に、王子の御殿のある町が見え出しました。王子は、
「どうだ、兵たいはもうひきかえしたか。ちょっと見てくれ。」と、火の目小僧に言いました。火の目小僧はまたあとをふりかえって、
「おや、またじきあすこに砂烟すなけむりが見えます。これはたいへんだ。」とあわてました。すると、ぶくぶくが、
「じゃァみなさんはかまわずおにげ下さい。私がここにのこって、ちゃんとしますから。」と、王子たちをさきににがしました。

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