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南北の東海道四谷怪談(なんぼくのとうかいどうよつやかいだん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-26 15:05:18  点击:  切换到繁體中文

      一

 伊藤喜兵衛いとうきへえは孫娘のおうめれて、浅草あさくさ観音の額堂がくどうそばを歩いていた。其の一行にはお梅の乳母のおまき医師坊主いしゃぼうず尾扇びせんが加わっていた。喜兵衛はお梅を見た。
「どうじゃ、お梅、今日はだいぶ気あいがよさそうなが、それでも、あまり歩いてはよろしくない、駕籠かごなと申しつけようか」
「いえ、いえ、わたしは、やっぱりこれがよろしゅうございます」
 お梅はじぶんの家の隣に住んでいる民谷伊右衛門たみやいえもんと云う浪人に思いを寄せて病気になっているところであった。其の伊右衛門は同じ家中かちゅう四谷左門よつやさもんの娘のおいわとなれあいで同棲いっしょになっていたが、主家の金を横領したので、お岩が妊娠しているにもかかわらず、左門のために二人の仲をさかれていた。乳母のお槇はお梅の母親のおゆみから楊枝ようじを買うことを云いつけられていた。
「お楊枝を買うことを忘れておりました、お慰みに御覧あそばしませぬか」
 お槇はお梅をはじめ一行を誘って楊枝店へ往った。楊枝店には前日から雇われている四谷左門の養女のおそで浴衣ゆかたを着て楊枝を削っていた。喜兵衛が声をかけた。
「これこれ、女子おなご、いろいろ取り揃えて、これへ出せ」
 お袖は知らぬ顔をしていた。喜兵衛はしゃくにさわった。
「此の女めは、何をうっかりしておる、早く出さぬか」
 お袖がやっと顔をあげた。
「あなたは、高野こうや御家中ごかちゅうでござりますね」
「さようじゃ」
「それなれば、売られませぬ」
「なんじゃと」
御意ぎょいにいらぬ其の時には、どのようなたたりがあるかも知れませぬ、他でお求めになるがよろしゅうございます」
 尾扇が喜兵衛の後からぬっと出た。
「こいつ出すぎた女め、そのままにはさしおかぬぞ」
 傍へ来ていた藤八五文とうはちごもんの薬売の直助なおすけが中に入った。
「まあ、まあ、どうしたものだ、そんな愛嬌あいきょうのない」それから尾扇に、「これは昨日雇われたばかりで、楊枝の値段もろくに判らねえ女でございます、どうかお気にささえないで」
 喜兵衛は尾扇をおさえた。
「打っちゃって置くがいい、参詣のさまたげになる」
 喜兵衛はお梅たちをうながして往ってしまった。直助は其の後でお袖にからんだ。
「お袖さん、大事の体じゃないか、つまらんことを云ってはならんよ。それにしても考えてみれば、四谷左門の娘御が、楊枝店の雇女になるなんどは、これも時世時節ときよじせつあきらめるか。申しお袖さん、おめえもまんざら知らぬこともあるまい、いっそおれの情婦いろになり女房になり、なってくれる気はないか」
 直助はお袖に寄りそうた。お袖はむっとした。
奥田将監おくだしょうげんさまは、わたしの父の左門と同じ格式、其の将監さまの小厮こものであったおまえが、わたしをとらえて、なんと云うことだ、ああ嫌らしい」
「おまえだって、こんな処へ来る世の中じゃないか、そんな事を云うものじゃねえやな」
 直助はお袖の肩へ手をかけた。
「ええもう知らないよ」
 お袖は其の手をりはなして引込んで往った。直助は苦笑した。
「あんなに強情な女もないものだ」

       二

 宅悦たくえつの家では、藤八五文の直助が、奥まったへやでいらいらしていた。直助はお袖の朋輩から、お袖が宅悦の家で地獄かせぎをしていると云うことを聞いて、金で自由にできることならと思って来ているところであった。其処には行燈あんどんはあるが、上から風呂敷をかけてあるので、室の中は真暗であった。
「ぜんたい、どうしたのだ」
 其処へお袖が入ってきた。
「おう来たのか、来たのか」
 お袖は手さぐりで直助の傍へ寄って往った。
「待ちかねたよ、お袖さん」
「え」
 お袖は其処ではおもんと云うことにしていたので驚いた。
「驚くこたあねえよ、おれだよ」
 お袖は其の声で初めて直助と云うことを知った。
「まあおまえは」
 お袖はいきなりって障子を開けて逃げた。直助は追っかけた。
「まあ、まあ、お袖さん」
 直助はお袖のたもとをつかんだ。お袖はもう逃げられなかった。
「なんぼなんでもおまえと此の顔が」
「逢わされねえのはもっともだが、お袖さん、おまえは孝行だのう」
 お袖は袂で顔をおおって何も云わなかった。
「まあ坐るがいい、おめえがこんな商売をするのも、みんな親のためだ、おれは何もかも知っている」
「は、はい」
「だからさ、おれの云うことを聞いて、今日かぎり、きれえさっぱりと足を洗ったらどうだ。こんなことが親御に知れたら、昔かたぎの左門さまじゃ」
「わたしも、それが」
「そうだろうとも」懐の紙入から金を出して、「まあ、此の金で、左門さまにあわせでも買ってせるがいい」
 お袖は直助の顔をしみじみと見た。
「すみません」
「なに、そんな遠慮はいらねえ、そのかわり、彼方あっちへ往って、ゆっくり話そう」
「でも、そればっかりは」
「いいじゃねえか、いつまでもそうつれなくするものじゃない」
 直助はお袖を引っぱるようにして室の中へ入った。其処へ宅悦の女房のおいろが顔を出した。
「お紋さん、ちょっと」
 お袖は困っているところであった。お袖はすぐ起って出て来た。
「なに、おばさん」
「お客さんだよ」
 お色はお袖を他の室へ伴れて往った。
「おとなしいお客さんだから、大事にしておやりよ」
 お色は其のまま往ってしまった。お袖はちょっと考えていたが、思いきって障子を開けて入った。
「お休みになりまして」
 客がもそりと体を動かした。
「一人で寝るくらいなら、こんな処へ来るものか、此方こっちへよんなよ」
 お袖は寄らなかった。
「お願いがございます」
「なんだ」
「わたしの家は、もと武家でございましたが、容子ようすあって父が浪人いたしまして」
 お袖は真実ほんとうそをごっちゃにして、客の同情に訴えて、関係しないで金をもらっていた。
「そう聞けば、気のどくだが、親のために花魁おいらんになる者もある。それとも許婚いいなずけでもあるのか」
「いえ、そう云うわけでも」
「そんなら何もいいじゃねえか」
 客の手がお袖に来た。
「あれ」
 お袖は思わず飛びのいた。其のはずみに行燈にかけてあった風呂敷がぱらりと落ちた。同時に二人が声をたてた。
「やあ、そちは女房」
「おまえは、与茂七よもしちさん」
 客はお袖の許婚の佐藤さとう与茂七であった。与茂七は主家が断絶して家中の者がちりぢりになった時、それにまじって姿をかくしているところであった。与茂七は火のようになった。
「これお袖、このざまはなんだ、男ほしさのいたずらか。あきれて物が云われねえ」
 お袖は口惜くやしそうに歯をくいしばった。
「そりゃ、あんまりむごい与茂七さん。おまえこそ、現在わたしと云う女房がありながら、こんな処へ来なさるとは」
 お袖には後暗いことはなかった。二人の心はすぐ解けあった。
 間もなく与茂七とお袖は宅悦の家から『藪のやぶのうち』と書いた提燈ちょうちんを借りて出て往った。其の時直助が出て二人の後を見送ってきっとなった。
「目あては提燈だ」

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