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鬼涙村(きなだむら)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-10-26 8:56:51  点击:  切换到繁體中文


 無論彼らが村人に狙われるのは、さまざまな所業の不誠実さからだったが、私は他のあらゆる人々の姿を思い浮べても、彼らほどその身振風体までが、担がれるのに適当なものを見出せなかった。彼らの所業の善悪は二の次にして、ただ漫然と彼らに接しただけで、最早充分な反感と憎しみを覚えさせられるのは、何も私ひとりに限ったはなしではないのだ、などとうなずかれた。いつかの万豊のように、スッポンや法螺忠が担ぎ出されて、死物狂いで喚き立てる光景を眺めたら、どんなにおもしろいことだろう、親切ごかしや障子の穴の猿どもがぽんぽんと手玉にとられて宙に跳上はねあがるところを見たら、さぞかし胸のすくおもいがするだろう――私は、彼らの話題などには耳もかさず、ひたすらそんな馬鹿馬鹿しい空想に耽っているのみだった。
「……俺アもうちゃんとこの眼で、この耳で、繁や倉が俺たちの悪い噂を振りまいているところを見聞みききしているんだ。」
「ほほう、それあまたほんとうのことかね。」
「奴らの尻おしが藪塚やぶづかの小貫林八だってことの種まであがっているんだぜ。」
「林八を担がせる手に出れば有無はないんだがな。」
 彼らは口を突出し、驚いたり、歯噛みしたりして画策に夢中だった。――稀に飲まされた酒なので、好い加減に酔って来そうだと思われるのに一向私は白々としているのみで、頭の中にはあの壮烈な騒ぎの記憶が次々と花々しくよみがえっているばかりだった。
「どうでしょうね。代金のことは切り出すわけにはゆかないもんでしょうかな。まさか振舞酒で差引こうって肚じゃないでしょうね。」
 御面師がそっと私に囁いた。
「そんなことかも知れないよ。」と私はうわの空で答えた。それより私は、好くもこう憎体にくていな連中だけが寄集って自惚事をしゃべり合っているものだ、こんなところにあの一団が踏み込んだらそれこそ一網打尽の素晴しさであとくされがなくなるだろうに――などと思って、彼らの様子ばかりを見守ることに飽きなかった。その時スッポンが私たちの囁きを気にして、え?え?え? と首を伸し、御面師の顔色で何かを察すると「まあまあお前方もゆっくり飲んでおいでよ。うっかり夜歩きは危ねえから、引上る時には俺たちと同道で面でもかむって……」
「あははは。ためしにそのまま帰って見るのも好かろうぜ。」と法螺忠は笑い、私と御面師の顔を等分にじっと睨めていた。私は何げなくその視線を脱して、スッポンの後ろに掛っている柱鏡を見ていると、間もなく背後から水を浴びるような冷たさを覚えて、そのままそこに凝固してしまいそうだった。鏡の中に映っている自分の姿は、折角人がはなしかけてもむっとして、自分ひとりが正義的なことでも考えているとでもいう風なカラス天狗じみた独りよがりげな顔で、ぼっと前を見詰めていた。顔の輪郭が下つぼみに小さい割に、眼とか鼻とか口とかが厭に度強どぎつく不釣合で、決して首は動かぬのに、眼玉だけがいかにも人を疑るとでもいう風に左右に動き、折々一方の眼だけが痙攣けいれん的に細くさがって、それにつれて口の端が釣上った。小徳利のように下ぶくれの鼻からは鼻毛がツンツンと突出て土堤どてのように盛上った上唇を衝き、そして下唇は上唇に覆われて縮みあがっているのを無理矢理に武張ぶばろうとして絶間なくゴムのように伸したがっていた。法螺忠がさっきから折に触れてはこちらの顔を憎々しそうに盗み見るのは、別段それは彼の癖ではなく、人を小馬鹿にするみたいな私の面つきに堪えられぬ反感を強いられていたものと見えた。そして私のもののいい方は、人のいうことには耳も借さぬというような突っ放したていで、太いような細いようなカンの違ったウラ声だった。――私は次々と自分の容子を今更鏡に写して見るにつけ、人の反感や憎念を誘うとなれば、スッポンや法螺忠に比ぶべくもなく、私自身としても、先ず、こやつを狙うべきが順当だったと合点された。こやつが担がれて惨憺たる悲鳴をあげる態を想像すると、そこに居並ぶ誰を空想した時よりも好い気味な、腹の底からの爽々すがすがしさにあおられた。それにつけて私はまた鏡の中で隣の御面師を見ると、狐のような不平顔で、はやく金をとりたいものだが自分がいい出すのは厭で、私をせき立てようといらいらして激しい貧乏ゆすりを立てたり、キョロキョロと私の横顔を窺ったりしているのが悪寒を持って眺められた。彼はこの卑怯ひきょう因循いんじゅんな態度でいに人々から狙われるに至ったのかと私は気づいたが、不断のようにあえて代弁の役を買って出ようとはしなかった。そして私はわざとはっきりと、
「水流舟二郎君、僕はもうしばらくここで遊んでゆくから、もし落着かないなら先へ帰り給えな。」といった。
「ミナガレ舟二郎か――こいつはどうも打ってつけの名前だな。あはは。」と法螺忠が笑うと、スッポンが忽ち聴耳ききみみを立てて、え?え?え? と首を伸した。すると法螺忠は、後架こうかへでも走るらしく、やおら立上ると、
「あいつは一体生意気だよ。碌々ろくろく人のいうことも聞かないで偉そうな面ばかりしてやがら、よっぽど人を馬鹿にしてやがるんだろう。何だい、独りでオツに澄まして、何を伸びたり縮んだりしてやがるんだい。自惚れ鏡が見たかったら、さっさと手前てめえの家へ帰るが好いぞ。畜生、まごまごしてやがると、俺らがひとりで引っ担いで音をあげさせてやるぞ。」などと呟き、大層かんの高ぶった脚どりであった。





底本:「ゼーロン・淡雪 他十一篇」岩波文庫、岩波書店
   1990(平成2)年11月16日第1刷発行
初出:「文藝春秋」
   1934(昭和9)年12月
入力:土屋隆
校正:宮元淳一
2005年9月29日作成
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