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風変りな決闘(ふうがわりなけっとう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-2 9:01:04  点击:  切换到繁體中文



    待つて下さい、諸君!

 それから三日後である。上村かみむら少佐とダンリ中尉とは、約束の決闘場たる練兵場へ現れた。双方型どほり二人づつの介添人かいぞへにんがついてゐる。武器はピストルで、互に百歩はなれて介添人が上げてゐる手を下すのを合図に、双方一度に発射するのだ。発射が早いと卑怯ひけふといはれるし、遅いと、敵の弾にやられてしまふ危険がある。なか/\むづかしいものだ。
 やがて少佐も中尉もさだめの位置について、中尉方の一人の介添人が、今日の決闘の趣旨を宣言しようとしたとき、どうしたことか、上村少佐は突然右の手を高く上げて叫んだ。
「待つて下さい、諸君!」
 相手の中尉は元より、双方の介添人たちも少佐の言葉にすつかりあきれてしまつた。が、少佐はそんなことには一切おかまひなく言葉をつゞけた。
わたしはこの決闘の仕方を、もつと安全なものにかへたいと思ふのです。」
 ます/\意外だ。みんなの驚きは一方ならぬものがあつた。
「つまり双方とも死にもせず、怪我もしないで、しかも名誉を十分に保つことの出来る方法にかへたいのです。」
 だれも口をきかなかつた。けれども、みんな、少佐は決闘がこはくなつたので、今更こんなことをいひ出したものと思ひ、卑怯な人間だと内心軽蔑けいべつしてゐるのを、顔の色にあり/\とあらはしてゐた。それももつともである。だが、少佐は少しもひるまない。平気で言葉をつゞけた。
わたしはこれまで幾十度となく銃砲弾の中をくゞつて来たから、ちつぽけなピストルの弾など少しも恐れるものではない。しかし、今、私の一身は、天皇陛下と、日本のためにささげたもので、これから生ひ立つて行く日本の新陸軍のために、非常に重大な任務を帯びてゐるものであるから、つまらぬ名誉心のために、勝手にそれを殺したり、傷つけたりすることはできないのだ。」
 少佐の言葉は次第に熱と威厳とを増して来たので、今まで軽蔑してゐた人々も、思はずえりを正しうして、耳を傾けた。
「またダンリ中尉もフランス軍にとつては、新式砲ミトライユの指揮者として、この場合、なくてならぬ人である。その重要な人が決闘で傷つき、倒れ、肝腎かんじんの戦場に出て、働かれぬやうなことがあつては、はなはだ遺憾である。熱烈な愛国者であるダンリ中尉の弾は、私に対してよりも、真のフランスの敵に向けらるべきものである。」
 すぢの通つた、正しい少佐の言葉を聞く人達は、まつたくそのとほりにちがひないと、うなづくのであつた。
 少佐はやはり厳然としてつゞけた。
「それだから、わたしはまことに安全で、しかも我々両人にとつて最もふさはしい決闘法を提議する。それは、中尉は射撃の名手であり、私も又その方にかけては相当の自信をもつてゐる。それで二人して射撃の術くらべをしようといふのである。」
「うん、それは面白いな! 賛成だ!」と、ダンリ中尉はもうすつかり打ちとけて叫んだ。「だが、勝負はどうしてつけるのか。」
「何でも君がうつ的を、わたしもうつことにする。もし私がうてなかつたなら、私が負だ。又もし君の的を私が残らずうつて、君が新たにうつべき的を見つけられない場合には、今度は私が的をえらぶから、それを君がうてばよい。それを君がうつたら、私が降参しようし、うてなかつたら、私の勝だ。」


    弾で書く文字

 話はきまつた。みんなはすぐつれ立つて射撃場へ行つた。そこには丁度フランス兵の一隊も射撃演習に来てゐたので、この珍しい決闘射撃のことを知ると、みんな見物することになつた。
 最初は普通の標的の点取射撃で、どちらも名人のことだから、無造作に満点で、勝負なしに終つた。
 次にダンリ中尉は速射をした。扱ひにくいそのころの小銃で、一分間七発もうつて、それがいづれも黒点をうちぬくのだから、神技ともいふべき素晴しい腕前であつた。しかし、上村少佐はそれに輪をかけた速さで、一分間十発もうつて、やつぱり黒点のまん中をうちぬいて、フランスの軍人たちをあつといはせた。
 ダンリ中尉もいさゝか驚いたやうだが、今度はほかの人に銅貨を空にほふり上げさせて、それが地面に落ちきらないうちに、ポン/\打つのだつた。百発百中で、見てゐる多くの仏人たちはその見事さに手を拍つて悦んだ。けれども上村少佐にだつてそんなことはお茶の子さい/\だつた。
 ダンリ中尉は少しあせつて来た。「このぢぢいめ、なか/\のやつだ。しかし今度は真似まねができまい。」
 そこで中尉はいよ/\取つておきの手を出した。
「では、向かふに白紙を張つた衝立ついたてをおいて、ぼくがそれに一つ文字を射ぬいて現すから、あなたもそれをやつてごらんなさい。出来たら、僕が負けたことにしよう。僕はフランスの敵たるプロシヤの頭を打ちぬくといふ意味で、その頭字かしらじペーを射ぬいてみせよう!」
 中尉はさういつて、用意された白紙張はくしばりの衝立に向かひ、ポン/\と、一発又一発、丹念にうつて行くと、やがてその弾痕は点々とつらなつて、大きなPの字をゑがき出した。なか/\あざやかな手際であつた。見てゐる仏軍の将士は今度こそと一斉に手をたゝいて悦んだ。
 上村少佐もニコ/\して手をうつた。そしてつか/\とダンリ中尉に近寄つて、手をさしのべた。
「立派だ! もうわたしが試みる必要はない。君は今見事に敵の頭を打ちぬいて、大勝利を得た、私は心からおよろこびを申し上げる!」
 ダンリ中尉は勝つたと思つて、やつぱりニコ/\しながらその手を握りしめると、又あたりから盛んに拍手が起つた。
 が、しかし、この拍手が一しきりやむと、上村少佐は再び銃を取上げ、かたちをあらためて、一同に向かつていつた。
「諸君、わたしは今、ダンリ中尉の妙技に絶大の敬意を表し、又フランスを祝賀するために、改めてダンリ中尉の真似をさせて頂きます。しかし、いさゝかちがつた風に、すなはち一字だけではなく、二三の言葉を射ぬくことにいたしませう。」
 少佐は銃を肩に当てるが早いか、まづポンと一つ、無造作につ放し、それからこめては打ち、こめては打ちして釣瓶打つるべうちだ。その速いこと! だが、白紙の衝立に残つた弾のあとただ、めちやくちやに点がちらばつてゐるだけで、字なんか一つもかけてゐなかつた。見てゐる人々はただ驚きあきれてゐる。けれども少佐は一向平気だ。そしてすました顔でいつた。
「これがわたしの心をこめたフランスへお祝ひの言葉です!」
 ダンリ中尉は例の肩をすぼめる身振をしていつた。
「ですが、少佐、あれは一体何と読むのですか。少くともフランス語ではありませんね。多分、日本語なんでせう。」
「いや、フランス語をかいたのです。」と、いひながら、上村少佐は衝立に近寄り、ポケツトから鉛筆を取出して、一番左端の上の弾痕だんこんから、その下の、六十センチほどへだてて、少し右へ寄つた弾痕へ、斜にスツと一本の線をひき、更に今度はその点から、逆に上の方へ、最初の弾痕の右の方に三十糎ほどはなれて、同じ高さにならんでゐる第三の弾痕へ、スウツと一線をひいたのでヴエの字が出来た。かうして散らばつた弾痕を次から次へと鉛筆でつないで行くと、

VIVEヴイヴ LA FRANCEフランス!  (フランス万歳!)
といふ言葉になつた。
 たちまち、見事ブラヴオ! 見事ブラヴオ! といふ声が湧き起つて、上村少佐は仏軍将士のために胴上されて、しばらくは足が地につかなかつた。
 少佐は改めてプロシヤ軍の兵器について仏軍当局に注意したが、そのときにはもう遅かつた。仏軍の大敗は勿論もちろん士気、編制にもよるが、少佐が見破つた兵器の劣等であつたことも大なる原因であつた。
 上村少佐は帰朝後、これからその腕をふるはうとしたとき急病にかゝつて亡くなつたので、その立派な知識も、すぐれた考案も、実際の役に立てることができないでしまつたのは甚だ残念である。





底本:「日本児童文学大系 第一一巻」ほるぷ出版
   1978(昭和53)年11月30日初刷発行
底本の親本:「少年倶楽部」講談社
   1935(昭和10)年8月
初出:「少年倶楽部」講談社
   1935(昭和10)年8月
入力:tatsuki
校正:鈴木厚司
2006年3月21日作成
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