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源氏物語(げんじものがたり)04 夕顔

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-5 14:47:55  点击:  切换到繁體中文

源氏物語

夕顔

紫式部

與謝野晶子訳




うき夜半よはの悪夢と共になつかしきゆめ
もあとなく消えにけるかな (晶子)

 源氏が六条に恋人を持っていたころ、御所からそこへ通う途中で、だいぶ重い病気をし尼になった大弐だいに乳母めのとたずねようとして、五条辺のその家へ来た。乗ったままで車を入れる大門がしめてあったので、従者に呼び出させた乳母の息子むすこ惟光これみつの来るまで、源氏はりっぱでないその辺の町を車からながめていた。惟光の家の隣に、新しい檜垣ひがきを外囲いにして、建物の前のほうは上げ格子こうしを四、五間ずっと上げ渡した高窓式になっていて、新しく白いすだれを掛け、そこからは若いきれいな感じのする額を並べて、何人かの女が外をのぞいている家があった。高い窓に顔が当たっているその人たちは非常に背の高いもののように思われてならない。どんな身分の者の集まっている所だろう。風変わりな家だと源氏には思われた。今日は車も簡素なのにして目だたせない用意がしてあって、前駆の者にも人払いの声を立てさせなかったから、源氏は自分のだれであるかに町の人も気はつくまいという気楽な心持ちで、その家を少し深くのぞこうとした。門の戸も蔀風しとみふうになっていて上げられてある下から家の全部が見えるほどの簡単なものである。哀れに思ったが、ただ仮の世の相であるから宮も藁屋わらやも同じことという歌が思われて、われわれの住居すまいだって一所いっしょだとも思えた。端隠しのような物に青々とした蔓草つるくさが勢いよくかかっていて、それの白い花だけがその辺で見る何よりもうれしそうな顔で笑っていた。そこに白く咲いているのは何の花かという歌を口ずさんでいると、中将の源氏につけられた近衛このえ随身ずいしんが車の前にひざをかがめて言った。
「あの白い花を夕顔と申します。人間のような名でございまして、こうした卑しい家の垣根かきねに咲くものでございます」
 その言葉どおりで、貧しげな小家がちのこの通りのあちら、こちら、あるものは倒れそうになった家の軒などにもこの花が咲いていた。
「気の毒な運命の花だね。一枝折ってこい」
 と源氏が言うと、蔀風しとみふうの門のある中へはいって随身は花を折った。ちょっとしゃれた作りになっている横戸の口に、黄色の生絹すずしはかまを長めにはいた愛らしい童女が出て来て随身を招いて、白い扇を色のつくほど薫物たきものくゆらしたのを渡した。
「これへ載せておあげなさいまし。手でげては不恰好ぶかっこうな花ですもの」
 随身は、夕顔の花をちょうどこの時門をあけさせて出て来た惟光の手から源氏へ渡してもらった。
かぎの置き所がわかりませんでして、たいへん失礼をいたしました。よいも悪いも見分けられない人の住む界わいではございましても、見苦しい通りにお待たせいたしまして」
 と惟光は恐縮していた。車を引き入れさせて源氏の乳母めのとの家へりた。惟光の兄の阿闍梨あじゃり、乳母の婿の三河守みかわのかみ、娘などが皆このごろはここに来ていて、こんなふうに源氏自身で見舞いに来てくれたことを非常にありがたがっていた。尼も起き上がっていた。
「もう私は死んでもよいと見られる人間なんでございますが、少しこの世に未練を持っておりましたのはこうしてあなた様にお目にかかるということがあの世ではできませんからでございます。尼になりました功徳くどくで病気が楽になりまして、こうしてあなた様の御前へも出られたのですから、もうこれで阿弥陀あみだ様のお迎えも快くお待ちすることができるでしょう」
 などと言って弱々しく泣いた。
「長い間恢復かいふくしないあなたの病気を心配しているうちに、こんなふうに尼になってしまわれたから残念です。長生きをして私の出世する時を見てください。そのあとで死ねば九品蓮台くぼんれんだいの最上位にだって生まれることができるでしょう。この世に少しでも飽き足りない心を残すのはよくないということだから」
 源氏は涙ぐんで言っていた。欠点のある人でも、乳母というような関係でその人を愛している者には、それが非常にりっぱな完全なものに見えるのであるから、まして養君やしないぎみがこの世のだれよりもすぐれた源氏の君であっては、自身までも普通の者でないような誇りを覚えている彼女であったから、源氏からこんな言葉を聞いてはただうれし泣きをするばかりであった。息子むすこや娘は母の態度を飽き足りない歯がゆいもののように思って、尼になっていながらこの世への未練をお見せするようなものである、俗縁のあった方に惜しんで泣いていただくのはともかくもだがというような意味を、ひじを突いたり、目くばせをしたりして兄弟どうしで示し合っていた。源氏は乳母をあわれんでいた。
「母や祖母を早くくした私のために、世話する役人などは多数にあっても、私の最も親しく思われた人はあなただったのだ。大人おとなになってからは少年時代のように、いつもいっしょにいることができず、思い立つ時にすぐにたずねて来るようなこともできないのですが、今でもまだあなたと長くわないでいると心細い気がするほどなんだから、生死の別れというものがなければよいと昔の人が言ったようなことを私も思う」
 しみじみと話して、そでで涙をいている美しい源氏を見ては、この方の乳母でありえたわが母もよい前生ぜんしょうの縁を持った人に違いないという気がして、さっきから批難がましくしていた兄弟たちも、しんみりとした同情を母へ持つようになった。源氏が引き受けて、もっと祈祷きとうを頼むことなどを命じてから、帰ろうとする時に惟光これみつ蝋燭ろうそくともさせて、さっき夕顔の花の載せられて来た扇を見た。よく使い込んであって、よい薫物たきものの香のする扇に、きれいな字で歌が書かれてある。

心あてにそれかとぞ見る白露の光添へたる夕顔の花

 散らし書きの字が上品に見えた。少し意外だった源氏は、風流遊戯をしかけた女性に好感を覚えた。惟光に、
「この隣の家にはだれが住んでいるのか、聞いたことがあるか」
 と言うと、惟光は主人の例の好色癖が出てきたと思った。
「この五、六日母の家におりますが、病人の世話をしておりますので、隣のことはまだ聞いておりません」
 惟光これみつが冷淡に答えると、源氏は、
「こんなことを聞いたのでおもしろく思わないんだね。でもこの扇が私の興味をひくのだ。この辺のことに詳しい人を呼んで聞いてごらん」
 と言った。はいって行って隣の番人と逢って来た惟光は、
「地方庁のすけの名だけをいただいている人の家でございました。主人は田舎いなかへ行っているそうで、若い風流好きな細君がいて、女房勤めをしているその姉妹たちがよく出入りすると申します。詳しいことは下人げにんで、よくわからないのでございましょう」
 と報告した。ではその女房をしているという女たちなのであろうと源氏は解釈して、いい気になって、物馴ものなれた戯れをしかけたものだと思い、下の品であろうが、自分を光源氏と見てんだ歌をよこされたのに対して、何か言わねばならぬという気がした。というのは女性にはほだされやすい性格だからである。懐紙ふところがみに、別人のような字体で書いた。

寄りてこそそれかとも見め黄昏たそがれにほのぼの見つる花の夕顔

 花を折りに行った随身に持たせてやった。夕顔の花の家の人は源氏を知らなかったが、隣の家の主人筋らしい貴人はそれらしく思われて贈った歌に、返事のないのにきまり悪さを感じていたところへ、わざわざ使いに返歌を持たせてよこされたので、またこれに対して何か言わねばならぬなどと皆で言い合ったであろうが、身分をわきまえないしかただと反感を持っていた随身は、渡す物を渡しただけですぐに帰って来た。
 前駆の者が馬上で掲げて行く松明たいまつの明りがほのかにしか光らないで源氏の車は行った。高窓はもう戸がおろしてあった。その隙間すきまからほたる以上にかすかなの光が見えた。
 源氏の恋人の六条貴女きじょやしきは大きかった。広い美しい庭があって、家の中は気高けだか上手じょうずに住みらしてあった。まだまったく源氏の物とも思わせない、打ち解けぬ貴女を扱うのに心を奪われて、もう源氏は夕顔の花を思い出す余裕を持っていなかったのである。早朝の帰りが少しおくれて、日のさしそめたころに出かける源氏の姿には、世間から大騒ぎされるだけの美は十分に備わっていた。
 今朝けさも五条の蔀風しとみふうの門の前を通った。以前からの通りみちではあるが、あのちょっとしたことに興味を持ってからは、行き来のたびにその家が源氏の目についた。幾日かして惟光が出て来た。
「病人がまだひどく衰弱しているものでございますから、どうしてもそのほうの手が離せませんで、失礼いたしました」
 こんな挨拶あいさつをしたあとで、少し源氏の君の近くへひざを進めて惟光朝臣これみつあそんは言った。
「お話がございましたあとで、隣のことによく通じております者を呼び寄せまして、聞かせたのでございますが、よくは話さないのでございます。この五月ごろからそっと来て同居している人があるようですが、どなたなのか、家の者にもわからせないようにしていますと申すのです。時々私の家との間の垣根かきねから私はのぞいて見るのですが、いかにもあの家には若い女の人たちがいるらしい影がすだれから見えます。主人がいなければつけないを言いわけほどにでも女たちがつけておりますから、主人である女が一人いるに違いございません。昨日きのう夕日がすっかり家の中へさし込んでいました時に、すわって手紙を書いている女の顔が非常にきれいでした。物思いがあるふうでございましたよ。女房の中には泣いている者も確かにおりました」
 源氏はほほえんでいたが、もっと詳しく知りたいと思うふうである。自重をなさらなければならない身分は身分でも、この若さと、この美の備わった方が、恋愛に興味をお持ちにならないでは、第三者が見ていても物足らないことである。恋愛をする資格がないように思われているわれわれでさえもずいぶん女のことでは好奇心が動くのであるからと惟光これみつは主人をながめていた。
「そんなことから隣の家の内の秘密がわからないものでもないと思いまして、ちょっとした機会をとらえて隣の女へ手紙をやってみました。するとすぐに書きれた達者な字で返事がまいりました、相当によい若い女房もいるらしいのです」
「おまえは、なおどしどし恋の手紙を送ってやるのだね。それがよい。その人の正体が知れないではなんだか安心ができない」
 と源氏が言った。家はに属するものと品定しなさだめの人たちに言われるはずの所でも、そんな所から意外な趣のある女を見つけ出すことがあればうれしいに違いないと源氏は思うのである。
 源氏は空蝉うつせみの極端な冷淡さをこの世の女の心とは思われないと考えると、あの女が言うままになる女であったなら、気の毒な過失をさせたということだけで、もう過去へ葬ってしまったかもしれないが、強い態度を取り続けられるために、負けたくないと反抗心が起こるのであるとこんなふうに思われて、その人を忘れている時は少ないのである。これまでは空蝉うつせみ階級の女が源氏の心を引くようなこともなかったが、あの雨夜の品定めを聞いて以来好奇心はあらゆるものに動いて行った。何の疑いも持たずに一夜の男を思っているもう一人の女をあわれまないのではないが、冷静にしている空蝉にそれが知れるのを、恥ずかしく思って、いよいよ望みのないことのわかる日まではと思ってそれきりにしてあるのであったが、そこへ伊予介いよのすけが上京して来た。そして真先まっさきに源氏の所へ伺候した。長い旅をして来たせいで、色が黒くなりやつれた伊予の長官は見栄みえも何もなかった。しかし家柄もいいものであったし、顔だちなどに老いてもなお整ったところがあって、どこか上品なところのある地方官とは見えた。任地の話などをしだすので、湯のこおりの温泉話も聞きたい気はあったが、何ゆえとなしにこの人を見るときまりが悪くなって、源氏の心に浮かんでくることは数々の罪の思い出であった。まじめな生一本きいっぽんの男とむかっていて、やましい暗い心を抱くとはけしからぬことである。人妻に恋をして三角関係を作る男の愚かさを左馬頭さまのかみの言ったのは真理であると思うと、源氏は自分に対して空蝉の冷淡なのは恨めしいが、この良人おっとのためには尊敬すべき態度であると思うようになった。
 伊予介が娘を結婚させて、今度は細君を同伴して行くといううわさは、二つとも源氏が無関心で聞いていられないことだった。恋人が遠国へつれられて行くと聞いては、再会を気長に待っていられなくなって、もう一度だけうことはできぬかと、小君こぎみを味方にして空蝉に接近する策を講じたが、そんな機会を作るということは相手の女も同じ目的を持っている場合だっても困難なのであるのに、空蝉のほうでは源氏と恋をすることの不似合いを、思い過ぎるほどに思っていたのであるから、この上罪を重ねようとはしないのであって、とうてい源氏の思うようにはならないのである。空蝉はそれでも自分が全然源氏から忘れられるのも非常に悲しいことだと思って、おりおりの手紙の返事などに優しい心を見せていた。なんでもなく書く簡単な文字の中に可憐かれんな心が混じっていたり、芸術的な文章を書いたりして源氏の心をくものがあったから、冷淡な恨めしい人であって、しかも忘れられない女になっていた。もう一人の女は他人と結婚をしても思いどおりに動かしうる女だと思っていたから、いろいろな噂を聞いても源氏は何とも思わなかった。秋になった。このごろの源氏はある発展を遂げた初恋のその続きの苦悶くもんの中にいて、自然左大臣家へ通うことも途絶えがちになって恨めしがられていた。六条の貴女きじょとの関係も、その恋を得る以前ほどの熱をまた持つことのできない悩みがあった。自分の態度によって女の名誉が傷つくことになってはならないと思うが、夢中になるほどその人の恋しかった心と今の心とは、多少懸隔へだたりのあるものだった。六条の貴女はあまりにものを思い込む性質だった。源氏よりは八歳やっつ上の二十五であったから、不似合いな相手と恋にちて、すぐにまた愛されぬ物思いに沈む運命なのだろうかと、待ち明かしてしまう夜などには煩悶はんもんすることが多かった。
 霧の濃くおりた朝、帰りをそそのかされて、むそうなふうで歎息たんそくをしながら源氏が出て行くのを、貴女の女房の中将が格子こうしを一間だけ上げて、女主人おんなあるじに見送らせるために几帳きちょうを横へ引いてしまった。それで貴女は頭を上げて外をながめていた。いろいろに咲いた植え込みの花に心が引かれるようで、立ち止まりがちに源氏は歩いて行く。非常に美しい。廊のほうへ行くのに中将が供をして行った。この時節にふさわしい淡紫うすむらさきの薄物のをきれいに結びつけた中将の腰つきがえんであった。源氏は振り返って曲がりかどの高欄の所へしばらく中将を引きえた。なお主従の礼をくずさない態度も額髪ひたいがみのかかりぎわのあざやかさもすぐれて優美な中将だった。


 

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