音はよっぽど遠かった。
それでもいくらか近くはなった。
二人が二本の
そこで二人は元気を出して上着の
そのうち音はもっとはっきりして来たのだ。ひょろひょろした
『ネリ、もう少しだよ、しっかり
ネリはだまってきれで包んだ小さな卵形の頭を振って、唇を
二人がも一度、樺の木の生えた
間もなくそれは近づいたのだ。ペムペルとネリとは、手をにぎり合って、息をこらしてそれを見た。
もちろん僕もそれを見た。
やって来たのは七人ばかりの馬乗りなのだ。
馬は汗をかいて黒く光り、鼻からふうふう息をつき、しずかにだくをやっていた。乗ってるものはみな赤シャツで、てかてか光る
おとなはみんなペムペルとネリなどは見ない風して行ったけれど、いちばんしまいのあのかあいい子は、ペムペルを見て
そしてみんなは通り過ぎたのだ。みんなの行った方から、あのいい音がいよいよはっきり聞えて来た。まもなくみんなは向うの丘をまわって見えなくなったが、左の方から
それは小さな家ぐらいある白い四角の
ペムペルとネリとは、黒人はほんとうに
『ついて行こうか。』
『ええ、行きましょう。』と、まるでかすれた声で云ったのだ。そして二人はよほど遠くからついて行った。
黒人たちは、時々何かわからないことを
二人はいよいよ
そのうちお日さまは、変に赤くどんよりなって、西の方の山に入ってしまい、残りの空は黄いろに光り、草はだんだん青から黒く見えて来た。
さっきからの音がいよいよ近くなり、すぐ向うの丘のかげでは、さっきのらしい馬のひんひん
四角な家の生物が、脚を百ぺん上げたり下げたりしたら、ペムペルとネリとはびっくりして眼を
おとなや女や子供らが、その草はらにたくさん集って看板を見上げていた。
看板のうしろからは、さっきの音が
けれどもあんまり近くで聞くと、そんなにすてきな音じゃない。
ただの楽隊だったんだい。
ただその音が、野原を通って行く
白い四角な家も、ゆっくりゆっくり中へはいって行ってしまった。
中では何かが細い高い声でないた。
人はだんだん増えて来た。
楽隊はまるで馬鹿のように盛んにやった。
みんなは吸いこまれるように、三人五人ずつ中へはいって行ったのだ。
ペムペルとネリとは息をこらして、じっとそれを見た。
『僕たちも入ってこうか。』ペムペルが胸をどきどきさせながら云った。
『入りましょう』とネリも答えた。
けれども何だか二人とも、安心にならなかったのだ。どうもみんなが入口で何か番人に
ペムペルは少し近くへ寄って、じっとそれを見た。食い付くように見ていたよ。
そしたらそれはたしかに銀か
黄金をだせば銀のかけらを返してよこす。
そしてその人は入って行く。
だからペムペルも黄金をポケットにさがしたのだ。
『ネリ、お前はここに待っといで。僕
『わたしも行くわ。』ネリは云ったけれども、ペムペルはもうかけ出したので、ネリは心配そうに半分泣くようにして、又看板を見ていたよ。
それから僕は心配だから、ネリの処に番しようか、ペムペルについて行こうか、ずいぶんしばらく考えたけれども、いくらそこらを飛んで見ても、みんな看板ばかり見ていて、ネリをさらって行きそうな悪漢は一人も居ないんだ。
そこで安心して、ペムペルについて飛んで行った。
ペムペルはそれはひどく走ったよ。四日のお月さんが、西のそらにしずかにかかっていたけれど、そのぼんやりした青じろい光で、どんどんどんどんペムペルはかけた。僕は追いつくのがほんとうに
それからとうとうあの果樹園にはいったのだ。
ガラスのお家が月のあかりで大へんなつかしく光っていた。ペムペルは一寸立ちどまってそれを見たけれども、又走ってもうまっ黒に見えているトマトの木から、あの黄いろの実のなるトマトの木から、黄いろのトマトの実を四つとった。それからまるで風のよう、あらしのように汗と
ネリはちらちらこっちの方を見てばかりいた。
けれどもペムペルは、
『さあ、いいよ。入ろう。』
とネリに云った。
ネリは
番人は『ええ、いらっしゃい。』と言いながら、トマトを受けとり、それから変な顔をした。
しばらくそれを見つめていた。
それから
『何だ。この
そしてトマトを投げつけた。あの黄のトマトをなげつけたんだ。その一つはひどくネリの耳にあたり、ネリはわっと泣き出し、みんなはどっと笑ったんだ。ペムペルはすばやくネリをさらうように
みんなの笑い声が波のように聞えた。
まっくらな丘の間まで遁げて来たとき、ペムペルも俄かに高く泣き出した。ああいうかなしいことを、お前はきっと知らないよ。
それから二人はだまってだまってときどきしくりあげながら、ひるの象について来たみちを
それからペムペルは、にぎりこぶしを握りながら、ネリは時々
私も大へんかなしくなって
「じゃ蜂雀。さようなら。僕又来るよ。けれどお前が何か云いたかったら云ってお
と云いながら、
私のまだまるで小さかったときのことです。
底本:「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫、新潮社
1989(平成元)年6月15日発行
1994(平成6)年6月5日13刷
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年3月17日作成
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