「も少しよく嘗めないとあとで大変ですよ。今度
「なめくじさん。何だか足が
「ハッハハ。なあに。それほどじゃありません。ハッハハ。」となめくじはやはりもがもが答えました。
「なめくじさん。おなかが何だか熱くなりましたよ。」ととかげは心配して云いました。
「ハッハハ。なあにそれほどじゃありません。ハッハハ。」となめくじはやはりもがもが答えました。
「なめくじさん。からだが半分とけたようですよ。もうよして下さい。」ととかげは泣き声を出しました。
「ハッハハ。なあにそれほどじゃありません。ほんのも少しです。も一分五
それを聞いたとき、とかげはやっと安心しました。丁度心臓がとけたのです。
そこでなめくじはペロリととかげをたべました。そして
あんまり大きくなったので
そしてかえって蜘蛛からあざけられて、熱病を起したのです。そればかりではなく、なめくじの評判はどうもよくなくなりました。
なめくじはいつでもハッハハと笑って、そしてヘラヘラした声で物を言うけれども、どうも心がよくなくて蜘蛛やなんかよりは
「なめくじなんてまずいもんさ。ぶま加減は見られたもんじゃない。」
なめくじはこれを聞いて
次の年ある日
そして、
「なめくじさん。こんにちは。少し水を
なめくじはこの雨蛙もペロリとやりたかったので、思い切っていい声で申しました。
「蛙さん。これはいらっしゃい。水なんかいくらでもあげますよ。ちかごろはひでりですけれどもなあに云わばあなたと
蛙はどくどくどくどく水を呑んでからとぼけたような顔をしてしばらくなめくじを見てから云いました。
「なめくじさん。ひとつすもうをとりましょうか。」
なめくじはうまいと、よろこびました。自分が云おうと思っていたのを蛙の方が云ったのです。こんな弱ったやつならば五へん投げつければ大ていペロリとやれる。
「とりましょう。よっしょ。そら。ハッハハ。」かえるはひどく投げつけられました。
「もう一ぺんやりましょう。ハッハハ。よっしょ。そら。ハッハハ。」かえるは又投げつけられました。するとかえるは大へんあわててふところから塩のふくろを出して云いました。
「土俵へ塩をまかなくちゃだめだ。そら。シュウ。」塩がまかれました。
なめくじが云いました。
「かえるさん。こんどはきっと
そして手足をひろげて青じろい腹を空に向けて死んだようになってしまいました。銀色のなめくじは、すぐペロリとやろうと、そっちへ進みましたがどうしたのか足がうごきません。見るともう足が半分とけています。
「あ、やられた。塩だ。
蛙はそれを聞くと、むっくり起きあがってあぐらをかいて、かばんのような大きな口を一ぱいにあけて笑いました。そしてなめくじにおじぎをして云いました。
「いや、さよなら。なめくじさん。とんだことになりましたね。」
なめくじが泣きそうになって、
「蛙さん。さよ……。」と云ったときもう舌がとけました。雨蛙はひどく笑いながら
「さよならと云いたかったのでしょう。本当にさよならさよなら。暗い
三、顔を洗わない
狸は顔を洗いませんでした。
それもわざと洗わなかったのです。
狸は丁度蜘蛛が林の
「狸さま。こうひもじくては全く仕方ございません。もう死ぬだけでございます。」
狸がきもののえりを
「そうじゃ。みんな往生じゃ。
兎も
「なまねこ、なまねこ、なまねこ、なまねこ。」
狸は兎の手をとってもっと自分の方へ引きよせました。
「なまねこ、なまねこ、みんな山猫さまのおぼしめしどおり、なまねこ。なまねこ。」と云いながら兎の耳をかじりました。兎はびっくりして
「あ痛っ。狸さん。ひどいじゃありませんか。」
狸はむにゃむにゃ兎の耳をかみながら、
「なまねこ、なまねこ、みんな山猫さまのおぼしめしどおり。なまねこ。」と云いながら、とうとう兎の両方の耳をたべてしまいました。
兎もそうきいていると、たいへんうれしくてボロボロ
「なまねこ、なまねこ。ああありがたい、山猫さま。
狸もそら涙をボロボロこぼして
「なまねこ、なまねこ、
兎はますますよろこんで、
「ああありがたや、山猫さま。
狸はもうなみだで
「なまねこ、なまねこ。
兎はすっかりなくなってしまいました。
そこで狸のおなかの中で云いました。
「すっかりだまされた。お前の腹の中はまっくろだ。ああくやしい。」
狸は
「やかましい。はやく消化しろ。」
そして狸はポンポコポンポンとはらつづみをうちました。
それから丁度二ヶ月たちました。ある日、狸は自分の
そこで狸は云いました。
「みんな山ねこさまのおぼしめしじゃ。お前がお米を三升もって来たのも、わしがお前に説教するのもじゃ。山ねこさまはありがたいお方じゃ。兎はおそばに参って、大臣になられたげな。お前もものの命をとったことは、五百や千では
狼はおびえあがって、きょろきょろしながらたずねました。
「そんならどうしたら助かりますかな。」
狸が云いました。
「わしは山ねこさまのお身代りじゃで、わしの云うとおりさっしゃれ。なまねこ。なまねこ。」
「どうしたらようございましょう。」と狼があわててききました。狸が云いました。
「それはな。じっとしていさしゃれ。な。わしはお前のきばをぬくじゃ。な。お前の目をつぶすじゃ。な。それから。なまねこ、なまねこ、なまねこ。お前のみみを
狼は狸のはらの中で云いました。
「ここはまっくらだ。ああ、ここに兎の骨がある。
狸は無理に「ヘン。」と笑っていました。
さて蜘蛛はとけて流れ、なめくじはペロリとやられ、そして狸は病気にかかりました。
それはからだの中に
そしてまっくろになって、熱にうかされて、
「うう、こわいこわい。おれは
*
なるほどそうしてみると三人とも地獄行きのマラソン競争をしていたのです。
底本:「新編 風の又三郎」新潮文庫、新潮社
1989(平成元)年2月25日発行
2001(平成13)年4月25日14刷
底本の親本:「新修宮沢賢治全集」筑摩書房
入力:久保格
校正:林 幸雄
2003年8月8日作成
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