楢夫は、じっとそれを
「ははあ、これがさるのこしかけだ。けれどもこいつへ
そしたら、きのこの上に、ひょっこり三
やっぱり、まん中のは、大将の軍服で、小さいながら
小猿の大将は、手帳のようなものを出して、足を重ねてぶらぶらさせながら、楢夫に
「おまえが楢夫か。ふん。何
楢夫はばかばかしくなってしまいました。小さな小さな猿の
「何だい。小猿。もっと
小猿が顔をしかめて、どうも笑ったらしいのです。もう夕方になって、そんな小さな顔はよくわかりませんでした。
けれども小猿は、急いで手帳をしまって、今度は手を
「仲々
楢夫は
「何だい。六十になっても、そんなにちいさいなら、もうさきの
小猿が
けれども小猿は急にぶらぶらさせていた足をきちんとそろえておじぎをしました。そしていやに丁寧に云いました。
「楢夫さん。いや、どうか怒らないで下さい。私はいい所へお連れしようと思って、あなたのお年までお
家来の二疋の小猿も、一生けん命、
「うん。行ってもいい。しかしお前らはもう少し
小猿の大将は、むやみに
見ると、栗の木の三つのきのこの上に、三つの小さな入口ができていました。それから栗の木の根もとには、楢夫の入れる位の、四角な入口があります。小猿の大将は、自分の入口に一寸顔を入れて、それから
「
小猿は三疋、中にはいってしまい、それと
楢夫は、入口から、急いで
栗の木なんて、まるで
「さあさあ、こちらへおいで下さい。」小猿はもうどんどん上へ
楢夫はつかれて、はあはあしながら、云いました。
「ここはもう栗の木のてっぺんだろう。」
猿が、一度にきゃっきゃっ笑いました。
「まあいいからついておいでなさい。」
上を見ますと、電燈の列が、まっすぐにだんだん上って行って、しまいはもうあんまり小さく、一つ一つの
小猿の大将は、楢夫の少し参った様子を見ていかにも意地の悪い顔をして又申しました。
「さあも少し急ぐのです。ようございますか。私共に追いついておいでなさい。」
楢夫が申しました。
「
猿が、一度に、きゃっきゃっ笑いました。生意気にも、ただの兵隊の小猿まで、笑うのです。大将が、やっと笑うのをやめて申しました。
「いや、お帰りになりたい時は、いつでもお送りいたします。決してご心配はありません。それより、まあ、
楢夫も仕方なく、駈け足のしたくをしました。
「さあ、行きますぞ。一二の三。」小猿はもう駈け出しました。
楢夫も一生けん命、段をかけ上りました。実に小猿は速いのです。足音がぐゎんぐゎん
「ああひどかった。あなたもお
楢夫が息をはずませながら、ようやく起き上って云いました。
「ここはどこだい。そして、
大将が申しました。
「いや、ご心配ありません。ここは
楢夫がびっくりしました。
「種山ヶ原? とんでもない
「帰れますとも。今度は下りですから訳ありません。」
「そうか。」と云いながら楢夫はそこらを見ましたが、もう今やって来たトンネルの出口はなく、
大将が、小さな剣をキラリと
「集れっ。」
小猿が、バラバラ、その辺から出て来て、草原
「気を付けっ」「右いおい。」「なおれっ。」「番号。」実にみんなうまくやります。
楢夫は
「演習をこれからやります。終りっ。」
楢夫はすっかり
「
小猿の大将がみんなへ云いました。
「これから演習をはじめる。今日は参観者もあるのだから、
八番の小猿が云いました。
「
「よろしい。」大将は云いながら三歩ばかり後ろに退いて、だしぬけに号令をかけました。
「突貫」
楢夫は愕いてしまいました。こんな乱暴な演習は、今まで見たこともありません。それ所ではなく、小猿がみんな歯をむいて楢夫に走って来て、みんな小さな綱を出して、すばやくきりきり
みんなは縛ってしまうと、
大将が、向うで、腹をかかえて笑いながら、剣をかざして、
「
楢夫は、草の上に倒れながら、横目で見ていますと、小猿は向うで、みんな六疋位ずつ、高い高い
それが、ずんずん、楢夫に進んで来て、沢山の手を出し、楢夫を上に引っ張りあげました。
楢夫は
大将は、ますます得意になって、
「胴上げい、はじめっ。」
「よっしょい。よっしょい。よっしょい。」
もう、楢夫のからだは、林よりも高い位です。
「よっしょい。よっしょい。よっしょい。」
風が耳の処でひゅうと鳴り、下では小猿共が手をうようよしているのが実に小さく見えます。
「よっしょい。よっしょい。よっしょい。」
ずうっと向うで、河がきらりと光りました。
「落せっ。」「わあ。」と下で声がしますので見ると小猿共がもうちりぢりに四方に別れて林のへりにならんで草原をかこみ、楢夫の地べたに落ちて来るのを見ようとしているのです。
楢夫はもう
その時、下で、「危いっ。何をする」という大きな声がしました。見ると、茶色のばさばさの
「ああ山男だ。助かった。」と楢夫は思いました。そして、楢夫は、
「楢夫。ごはんです。楢夫。」とうちの中でお母さんが
底本:「注文の多い料理店」新潮文庫、新潮社
1990(平成2)年5月25日発行
底本の親本:「新修 宮沢賢治全集」筑摩書房
入力:山根鋭二
校正:田中久絵
1999年9月8日公開
2005年10月19日修正
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