けれどもそれは方角がちがっていたらしく雪童子はずうっと南の方の黒い松山にぶっつかりました。雪童子は革むちをわきにはさんで耳をすましました。
「ひゅう、ひゅう、なまけちゃ承知しないよ。降らすんだよ、降らすんだよ。さあ、ひゅう。今日は水仙月の四日だよ。ひゅう、ひゅう、ひゅう、ひゅうひゅう。」
そんなはげしい風や雪の声の間からすきとおるような泣声がちらっとまた聞えてきました。雪童子はまっすぐにそっちへかけて行きました。雪婆んごのふりみだした髪が、その顔に気みわるくさわりました。
「毛布をかぶって、うつ向けになっておいで。毛布をかぶって、うつむけになっておいで。ひゅう。」雪童子は走りながら叫びました。けれどもそれは子どもにはただ風の声ときこえ、そのかたちは眼に見えなかったのです。
「うつむけに倒れておいで。ひゅう。動いちゃいけない。じきやむからけっとをかぶって倒れておいで。」雪わらすはかけ
「倒れておいで、ひゅう、だまってうつむけに倒れておいで、今日はそんなに寒くないんだから
雪童子は、も一ど走り抜けながら叫びました。子どもは口をびくびくまげて泣きながらまた起きあがろうとしました。
「倒れているんだよ。だめだねえ。」雪童子は向うからわざとひどくつきあたって子どもを倒しました。
「ひゅう、もっとしっかりやっておくれ、なまけちゃいけない。さあ、ひゅう」
雪婆んごがやってきました。その裂けたように
「おや、おかしな子がいるね、そうそう、こっちへとっておしまい。水仙月の四日だもの、一人や二人とったっていいんだよ。」
「ええ、そうです。さあ、死んでしまえ。」雪童子はわざとひどくぶっつかりながらまたそっと云いました。
「倒れているんだよ。動いちゃいけない。動いちゃいけないったら。」
「そうそう、それでいいよ。さあ、降らしておくれ。なまけちゃ承知しないよ。ひゅうひゅうひゅう、ひゅひゅう。」雪婆んごは、また向うへ飛んで行きました。
子供はまた起きあがろうとしました。
「そうして
雪わらすは同じとこを何べんもかけて、雪をたくさんこどもの上にかぶせました。まもなく赤い毛布も見えなくなり、あたりとの高さも同じになってしまいました。
「あのこどもは、ぼくのやったやどりぎをもっていた。」雪童子はつぶやいて、ちょっと泣くようにしました。
「さあ、しっかり、今日は夜の二時までやすみなしだよ。ここらは
雪婆んごはまた遠くの風の中で
そして、風と雪と、ぼさぼさの灰のような雲のなかで、ほんとうに日は暮れ雪は夜じゅう降って降って降ったのです。やっと夜明けに近いころ、雪婆んごはも一度、南から北へまっすぐに
「さあ、もうそろそろやすんでいいよ。あたしはこれからまた海の方へ行くからね、だれもついて来ないでいいよ。ゆっくりやすんでこの次の
その眼は
野はらも
雪童子らは、めいめい自分の
「ずいぶんひどかったね。」
「ああ、」
「こんどはいつ会うだろう。」
「いつだろうねえ、しかし今年中に、もう二へんぐらいのもんだろう。」
「早くいっしょに北へ帰りたいね。」
「ああ。」
「さっきこどもがひとり死んだな。」
「
「ああ、もう帰ろう。夜明けまでに向うへ行かなくちゃ。」
「まあいいだろう。ぼくね、どうしてもわからない。あいつはカシオペーアの三つ星だろう。みんな青い火なんだろう。それなのに、どうして火がよく燃えれば、雪をよこすんだろう。」
「それはね、電気
「ああ。」
「じゃ、さよなら。」
「さよなら。」
三人の雪童子は、
まもなく東のそらが黄ばらのように光り、
雪狼どもはつかれてぐったり
ギラギラのお日さまがお登りになりました。
「さあ、おまえたちはぼくについておいで。夜があけたから、あの子どもを起さなけあいけない。」
雪童子は走って、あの
「さあ、ここらの雪をちらしておくれ。」
雪狼どもは、たちまち後足で、そこらの雪をけたてました。風がそれをけむりのように飛ばしました。
かんじきをはき毛皮を着た人が、村の方から急いでやってきました。
「もういいよ。」雪童子は子供の赤い
「お父さんが来たよ。もう眼をおさまし。」雪わらすはうしろの丘にかけあがって一本の雪けむりをたてながら叫びました。子どもはちらっとうごいたようでした。そして毛皮の人は一生けん命走ってきました。
底本:「注文の多い料理店」新潮文庫、新潮社
1990(平成2)年5月25日発行
1997(平成9)年5月10日17刷
初出:「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社
1924(大正13)年12月1日
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年2月21日作成
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