一、濁密防止講演会
〔冒頭原稿数枚なし〕
イギリスの大学の試験では
そのはじめの方をちゞめて見ますとこんな
「濁密をやるにしてもさ、あんまり下手なことはやってもらひたくないな。なぁんだ、
新らしい
できあがった
まだまだずゐぶんひどく
どうもをかしいどうもをかしい、どうもをかしいとみんなの顔つきをきょろきょろ見ながらその割合ざっくばらんの少しずるい税務署長が思ひました。税務署長の考ではうんと悪口を云ってどれ位赤くなって怒る人があるかを見て大体その村の濁密の数を勘定しようと云ふのでした。それがいけないやうでしたから今度はだんだんおどしにかゝって青くなる人を見てやらうと思ひました。
ところがやっぱり面白さうに笑ひます。
税務署長は気が気でなく卒倒しさうになって頭に手をあげました。
全体こんなにおれの悪口をよろこんで笑ふのはみんなが一人も密造をしてゐないのか、それともおれの心底がわかってゐるのか、どうも気味が悪い、よしもう一つだけ山をかけて見ようと思って最後にコップの水を一口のんでできる
「正直を云ふとみんながどんなにこっそり濁密をやった所でおれの方ではちゃんとわかってゐる。この会衆の中にも七人のおれの方への密告者がまじってゐるのだ。」
みんなはしいんとなりました。それからザアッと鳴りました。さあ、こゝだおれを
「おれの方では
二、税務署長歓迎会
税務署長が壇を下りましたらすぐ名誉村長が笑ひながら少しかゞんで署長の前にやって来ました。そして礼を云ひました。
「たゞ今は実に有益なご講演を
税務署長はいよいよ卒倒しさうになって
「いや、それはよろしい。」とかすれた声で返事しました。「では、」村長はみんなの方に向いて
「今晩の講演会はこれで閉会といたします。」と云ってから又署長たちの方に向き直って「さあ、ではどうぞ。」と右手で玄関の方を指しました。署長はなんとも変な気がしましたが仕方なくシラトリ属と一緒に村長たちに案内されて小学校の玄関を出すぐ一町ばかりさきの村会議員の家に行きました。村会議員の家は立派なもので五十畳の広間にはあかりがぞろっとともり正面には
みんなが交る交る税務署長のところへ
「いや、本日はお疲れでございませう。失礼ながら
「や、ありがたう、どうも悪口を云って済まなかった。どうも
「どう致しまして。閣下のやうな献身的のお方ばかりでしたら実に国家も大発展です。さあどうぞ。」
「はっはっは、いや、ありがたう。」なんて云ふ
「や、署長さん。一杯いかゞ、どうです。ワッハッハ。濁り酒、
「いや、わかった、わかった。いや、今晩は実に
「ワッハッハ。やあ、今度はシラトリさん、さあ、おやりなさい。男子はすべからく決然たるところがなくてはだめですよ。さあ、高田の馬場で堀部安兵衛金丸が三十人を切ったのは実際酒の力だ、面白い、牛も酒を
一人が行ったと思ふと又一人が来るのでした。
「署長さん。はじめてお目通りを致します。」
「いやはじめて。」
「はじめて、はてなさっきも来ましたかな、二度目だ、ハッハッハ。署長さん、いや献杯、つゝしんで献杯
「もう沢山、」
「
税務署長はもうすっかり酔ってゐました。シラトリ属も酔ってはゐました。けれども二人とも決して職業も忘れず又油断もしなかったのです。
それでももうぐたぐたになって何もかもわからないといふふりをしてゐました。それにくらべたら村の方の人たちこそ
「いや、もう閣下、ひどくご無礼をいたしました。こんな乱雑な席にご光来をねがひまして面目次第もございません。たゞもうほんの村民の志だけをお
署長はすっかり酔った風をしながら笑って答へました。
「いや、君、こんな愉快なうちとけた宴会ははじめてだよ。こんなことならたびたびやって来たいもんだね。斯う出られたら困るだらう。」
村会議員はちらっと署長を見あげました。本当はまだ酔ってゐないなと気がついたのです。署長が又云ひました。
「どうも斯う高い税金のかかった酒を斯う多分に
「いや、ハッハッハ。ご冗談。」村会議員は少しあわてて台所の方へ引っ込んで行きました。
「もう失礼しよう、おい君。」署長は立ちあがりました。
「もうお帰りですか。まあまあ。」村長やみんなが立って留めようとしたときそこはもう商売で署長と白鳥属とはまるで忍術のやうに座敷から姿を消し台所にあった
三、署長室の策戦
次の日税務署長は役所へ出て自分の
すぐ白服のデンドウイ属がいかにも
「まあ掛け
「ユグチュユモトの村へ出張して
「は、」
「変装して行って
「は、ございます。」
「ぢゃ、ライオン堂へ行ってこれでウ※[#小書き片仮名ヰ、138-4]スキーを一本買ってねそれから広告をくばってやるからと云って何かのちらしを二百枚も貰ひたまへ。そいつを持って入って行くんだ。君の顔は
「は、
デンドウイ属はもう胸がわくわくしました。うまく見付けて帰って来よう。そしたら月給だってもうきっと三円はあがる、ひとつまるっきり探偵風にやってやらう。
「概算旅費を受け取って行きたまへ。」署長はまた云ひました。
「ありがたうございます。」デンドウイ属は礼をして自分の席へ帰ってそれから会計へ行って七日間の概算旅費を受け取って自分の下宿へ帰って行きました。
さて八日目の朝署長が役所へ出て出勤簿を検査してそれから机の上へ両手を重ねてふうと一つ息をしたとき
「どうだったね、少しはわかりましたか。」心配さうにそれにまたにこにこしながら
「どうもいけませんでした。あの村には濁密はないやうであります。」
「さうですか。どう云ふやうにしてしらべました。」署長は少しこはい顔をしました。
「ニタナイのとこに丁度老人でなくなった人があったのです。人が集ったらいづれ酒を
「ふんふん、なかなか君の観察は鋭い。それから。」
「そしたら一人が
「その酒の名前を聞きましたか。」
「私は北の
署長は
「いゝや、北の
「それからあとは毎日林の中や谷をあるいて山地密造酒を探して居りました。」
「あったか。」
「ありませんでした。」
「見給へ。そんな
デンドウイ属はもう頭を垂れてしまひました。そのやつれた青い顔を見ると署長もまた少し気の毒になって来ました。
「いや、よろしい。帰ってやすみ給へ。ご苦労でした。シラトリ君に
デンドウイ属はしほしほ出て行きました。間もなく、例のシラトリ属がすまし込んで入って来ました。
「君、ユグチュユモトへ行ってくれ給へ。
「帰れます。」シラトリキキチ氏はしゃんと礼をして出て行きました。署長はもう一生けん命何かを考へ込んで昼飯さへ忘れる風でした。ひるすぎはそはそは窓に立ってシラトリ属の帰るのをいまかいまかと待ってゐました。
ところがシラトリ属は夕方になっても帰りませんでした。
署長はもうみんなも帰る時分だしと思って自分も一ぺん家へ帰るふりをして町をぐるっとまはりみんなが戻ったころまた役所へ来て小使に自分の
「どうだった。」署長は待ち兼ねてさう
「だめです。」
「いけなかったか。」署長はがっかりしました。
「
「顔色を変へなかったか。」
「少しも変りませんでした。」
「それからどうした。」
「仕方ありませんからそこを出て村の居酒屋へいきなり乗り込んであった位の酒を
「うんうん。そしたら。」
「そしたら瓶詰はみんなイーハトヴの友でしたしはかり売のはたしかに北の
「北の輝の方がいくらか
「さうです。」
「たしかに北の輝かね。」
「さうです。それから酒屋の主人に帳簿を出さしてしらべて見ましたが酒の売れ高がこのごろ毎年減って行くやうであります。」
「をかしいな。前にはあの村はみんな濁り酒ばかり
「けれどもどうも前ぐらゐは
「さうかね。」
「それに酒屋の主人のはなしでは近頃は道路もよくなったし荷馬車も通るのでどこの家でもみんな町から
「をかしいぞ。そんなに町からどしどし買って行くくらゐの現金があの村にある
税務署長は
税務署長の冒険(ぜいむしょちょうのぼうけん)
作家录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语
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