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署長は感慨深そうに腕を組んで眼を閉じた。
「成る程のう。それでわかったわい。ツイこの頃までこの筑豊地方に限って、
「……ハイ……藤六という奴は余程エライ奴じゃったと見えます」
「そうすると丹波小僧の銀次も、藤六のアトを慕うて来た仲間じゃな」
「いや、違います。丹波小僧は、藤六の処を出て、鍋墨の雁八とも別れてから
「……エッ……そんなら親殺しじゃな」
「ハイ。知らずに殺しました訳で……」
「それでも
「ハイ。この間坑夫と喧嘩して殺されました
「ウハッ。あの若い
「ハイ。
「……そうかそうか……あの医者にかかっちゃ堪まらん……フムフム。それからドウなった」
「それと知りました藤六の
「ウムウム。ようよう
「道徳観念が普通人と全く違いますようで……」
「……それもある……が……しかし……」
と云ううちに署長は何やら考え込んだ。いつもの癖で、椅子の中に深く身を沈めると、
「フム。それで……自殺の原因は……」
「ハイ。それがで御座います……ソノ……」
巡査部長は困惑したらしく額の汗を拭いた。
「……わかりませんので……その……僅かの隙に致しました事で……全くその……私どもが狼狽致しましたので……縄を解けば白状すると申しましたので……その……」
「ウムウム。それは聞いちょる。……問題は自殺の原因じゃ。復讐を遂げると直ぐに自殺しよった原因じゃ」
「……………………」
「死に際に何も云わんじゃったか。巡査どもは何も聞かんと云いよったが」
「私は聞きました。皆の衆。すみません……と……」
「皆の衆……その皆の衆というのは山窩の連中に云うた
「ハッ。それは居らなかった筈……と雁八が申しました。お花という女は、まだ
「ウムウム。それは理屈じゃが……しかしお花は、丹波小僧が実の兄という事を、どうかして察しておりはせんじゃったかな」
「イヤ。そんな模様には見受けませんでした。御承知の通りツイ夜明け方の一時間ばかりの間の出来事で御座いますけに……丹波小僧が何もかも先手を打って物を云う間もなく猿轡を噛まして、担いで来たと申しておりましたが……実地検査の結果もその通りのようで……」
「フーム」と署長は考え込んだ。
「
「……………」
「ウム。まあ
それから署長は椅子の中で伸び伸びと大
「アア……アア……ッと……厄介な奴どもじゃ――」
底本:「夢野久作全集4」ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年9月24日第1刷発行
初出:「オール読物」
1934(昭和9)年12月号
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2005年9月17日作成
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