去年の十一月に大阪朝日新聞社が主催となって関西婦人連合大会を大阪に開いたことは、多数の保守的な婦人団体を現代的に覚醒させるために、確かに一つの好い刺激になったと思います。我国の婦人とても、天賦的に
また右の大阪朝日新聞社の大会へ東京から出席された平塚らいちょう女史が、帰来直ちに新婦人協会の創立を発表し、主として全国婦人の連合運動を企図されるに到ったことなども、我国の婦人運動が
平塚さんを首唱者として新婦人協会が成立したということについて、私は心の底から多大の喜びを感じました。それは最近の婦人会における第一の吉報だと思います。日本婦人の総動員はいろいろの意味で非常に必要です。首唱者としても、統率者としても絶好の適任者を得ました。私は平塚さんが進んで自らこの重任に当られた熱誠と勇気とに敬服します。私はその事を聞くや否や、早速新聞雑誌を通じて平塚さんに対する感謝を書いて置きましたから、
平塚さんから協会の創立された通知を受けて以来、私が最も真面目に注視せずにおられなかったことは、協会の第一著の運動が如何なる問題に由って始められるかということでした。私は
女史が政社に加入し政談集会に出入することの自由を要求するために、治安警察法第五条の撤廃を請願することは議論の余地がありません。この問題は私も数年前から機会のあるたびに述べています。しかしこれは男女の性別を問わない所の普通選挙さえ実現するなら、おのずから解決されてしまうべき問題です。平塚さんはこの請願の理由を説明して「私どもはこれを以て近き将来において著手しようとする婦人参政権要求運動の下準備ぐらいに考えている」といわれていますが、私にはかえって順序が顛倒されているように思われます。人ごとに見る所を異にしているからといわれるならそれまでですが、私は政界の急進分子が珍しくも男女平等主義の普通選挙を唱え初めたのに呼応して、なぜこの好い機会に協会の主唱に成る婦人団体総連合の勢力を以て婦人参政権を要求されなかったのかと思います。といって、この方の請願には私も快く賛成を表する一人であることを明言して置きます。
それよりも、私が全く異様の感を持たずにいられなかったのは第二の請願です。花柳病が怖るべき伝染病であり、家庭、社会、及び子孫に対して悲惨なる害毒を流しつつあることは言うまでもないことですが、この種の戦慄すべき病症は、科学的正確を以ていえば、結核や癩病と共になお外にいくつも列挙することが出来ます。花柳病と併せてそれらのものが駆逐されるのでなければ、人類の幸福は常に
また男子にのみ診断書を請求するのも私は不公平だと思います。これについて平塚さんたちは幾多の理由を挙げておられますが、その不公平を弁護する理由として非常に薄弱です。「未婚男女患者の該病患者の数の差異は
なお、平塚さんたちは、この要求は男子に対し「道徳的な家庭婦人の立場からするもの」であり、「かつこの疾病は他のものと異り、その性質上、男子の或不道徳的行為の結果として来たものでありますから、幾分それに対する処罰の意味をも含むもの」であることを理由とされています。私は此処に平塚さんたちが道徳家を以て自ら任ぜられることの大胆に一たび驚き、また人間が人間を罰することの可能を確信せられることの
それよりも更に私の疑問とする所は、この請願において、平塚さんたちが現在の因習的結婚を許容されているらしく想われることです。協会の他の婦人たちは知らず、少くも平塚さんは私たちと同じく恋愛結婚の主張者であるのに、恋愛を基礎条件としない現在の結婚の範囲において、この請願を出されているのは意外です。平塚さんが恋愛結婚の主張を決して放棄されていないことは、協会の事業として別に「恋愛及び結婚の正しき思想の宣伝」の計画があるので推定されますが、それならば恋愛結婚と「花柳病男子の結婚制限」の請願とがどうして調和しているかをお尋ねしたいと思います。
私たちに取っては、恋愛の成立と完成が結婚の基礎であり目的であるのです。結婚が恋愛に先立つことはありません、先ずその結果として来るものだと考えています。しかるにこの請願で見れば、男女相互の間に恋愛の成立することを唯一の重要条件としないで、「先ず相手たる女子に医師の健康診断書を提示し、花柳病患者にあらざる旨を証明すべし」「現在花柳病に
新婦人協会の請願運動(しんふじんきょうかいのせいがんうんどう)
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