打印本文 打印本文 关闭窗口 关闭窗口

邪宗門(じゃしゅうもん)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006/8/16 9:03:37 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语



        五

 でございますから若殿様が、御家督を御取りになったその日の内から、御屋形(おやかた)の中へはどこからともなく、今までにない長閑(のどか)な景色(けしき)が、春風(しゅんぷう)のように吹きこんで参りました。歌合(うたあわ)せ、花合せ、あるいは艶書合(えんしょあわ)せなどが、以前にも増して度々御催しになられたのは、申すまでもございますまい。それからまた、女房たちを始め、侍どもの風俗が、まるで昔の絵巻から抜け出して来たように、みやびやかになったのも、元よりの事でございます。が、殊に以前と変ったのは、御屋形の御客に御出でになる上(うえ)つ方(がた)の御顔ぶれで、今はいかに時めいている大臣大将でも、一芸一能にすぐれていらっしゃらない方は、滅多(めった)に若殿様の御眼にはかかれません。いや、たとい御眼にかかれたのにしても、御出でになる方々が、皆風流の才子ばかりでいらっしゃいますから、さすがに御身を御愧(おは)じになって、自然御み足が遠くなってしまうのでございます。
 その代りまた、詩歌管絃の道に長じてさえ居りますれば、無位無官の侍でも、身に余るような御褒美(ごほうび)を受けた事がございます。たとえば、ある秋の夜に、月の光が格子にさして、機織(はたお)りの声が致して居りました時、ふと人を御召しになると、新参の侍が参りましたが、どう思召したのか、急にその侍に御向いなすって、
「機織(はたお)りの声が致すのは、その方(ほう)にも聞えような。これを題に一首仕(つかまつ)れ。」と、御声がかりがございました。するとその侍は下(しも)にいて、しばらく頭(かしら)を傾けて居りましたが、やがて、「青柳(あおやぎ)の」と、初(はじめ)の句を申しました。するとその季節に合わなかったのが、可笑(おかし)かったのでございましょう。女房たちの間には、忍び笑いの声が起りましたが、侍が続いて、
「みどりの糸をくりおきて夏へて秋は機織(はたお)りぞ啼く。」と、さわやかに詠じますと、たちまちそれは静まり返って、萩模様のある直垂(ひたたれ)を一領、格子の間から月の光の中へ、押し出して下さいました。実はその侍と申しますのが、私(わたくし)の姉の一人息子で、若殿様とは、ほぼ御年輩(ごねんぱい)も同じくらいな若者でございましたが、これを御奉公の初めにして、その後(のち)も度々難有(ありがた)い御懇意を受けたのでございます。
 まず、若殿様の御平生(ごへいぜい)は、あらあらかようなものでございましょうか。その間に北の方(かた)も御迎えになりましたし、年々の除目(じもく)には御官位も御進みになりましたが、そう云う事は世上の人も、よく存じている事でございますから、ここにはとり立てて申し上げません。それよりも先を急ぎますから、最初に御約束致しました通り、若殿様の御一生に、たった一度しかなかったと云う、不思議な出来事の御話へはいる事に致しましょう。と申しますのは、大殿様とは御違いになって、天(あめ)が下(した)の色ごのみなどと云う御渾名(おんあだな)こそ、御受けになりましたが、誠に御無事な御生涯で、そのほかには何一つ、人口に膾炙(かいしゃ)するような御逸事と申すものも、なかったからでございます。

上一页  [1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10]  ...  下一页 >>  尾页




打印本文 打印本文 关闭窗口 关闭窗口