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浅草公園(あさくさこうえん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-12 7:14:07  点击:  切换到繁體中文



          26[#「26」は縦中横]

 前の射撃屋の店。少年はまた空気銃をとり上げ、今度は熱心に的(まと)を狙う。三発、四発、五発、――しかし的は一つも落ちない。少年は渋(し)ぶ渋(し)ぶ銀貨を出し、店の外へ行ってしまう。

          27[#「27」は縦中横]

 始めはただ薄暗い中に四角いものの見えるばかり。その中にこの四角いものは突然電燈をともしたと見え、横にこう云う字を浮かび上(あが)らせる。――上に「公園六区(ろっく)」下に「夜警詰所(やけいつめしょ)」。上のは黒い中に白、下のは黒い中に赤である。

          28[#「28」は縦中横]

 劇場の裏の上部。火のともった窓が一つ見える。まっ直(すぐ)に雨樋(あまどい)をおろした壁にはいろいろのポスタアの剥(は)がれた痕(あと)。

          29[#「29」は縦中横]

 この劇場の裏の下部(かぶ)。少年はそこに佇(たたず)んだまま、しばらくはどちらへも行(ゆ)こうとしない。それから高い窓を見上げる。が、窓には誰も見えない。ただ逞(たくま)しいブルテリアが一匹、少年の足もとを通って行く。少年の匂(におい)を嗅(か)いで見ながら。

          30[#「30」は縦中横]

 同じ劇場の裏の上部。火のともった窓には踊り子が一人現れ、冷淡に目の下の往来を眺める。この姿は勿論(もちろん)逆光線のために顔などははっきりとわからない。が、いつか少年に似た、可憐(かれん)な顔を現してしまう。踊り子は静かに窓をあけ、小さい花束(はなたば)を下に投げる。

          31[#「31」は縦中横]

 往来に立った少年の足もと。小さい花束が一つ落ちて来る。少年の手はこれを拾う。花束は往来を離れるが早いか、いつか茨(いばら)の束に変っている。

          32[#「32」は縦中横]

 黒い一枚の掲示板(けいじばん)。掲示板は「北の風、晴」と云う字をチョオクに現している。が、それはぼんやりとなり、「南の風強かるべし。雨模様」と云う字に変ってしまう。

          33[#「33」は縦中横]

 斜(ななめ)に見た標札屋(ひょうさつや)の露店(ろてん)、天幕(てんと)の下に並んだ見本は徳川家康(とくがわいえやす)、二宮尊徳(にのみやそんとく)、渡辺崋山(わたなべかざん)、近藤勇(こんどういさみ)、近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)などの名を並べている。こう云う名前もいつの間(ま)にか有り来りの名前に変ってしまう。のみならずそれ等の標札の向うにかすかに浮んで来る南瓜畠(かぼちゃばたけ)……

          34[#「34」は縦中横]

 池の向うに並んだ何軒かの映画館。池には勿論電燈の影が幾つともなしに映っている。池の左に立った少年の上半身(じょうはんしん)。少年の帽は咄嗟(とっさ)の間(あいだ)に風のために池へ飛んでしまう。少年はいろいろあせった後(のち)、こちらを向いて歩きはじめる。ほとんど絶望に近い表情。

          35[#「35」は縦中横]

 カッフェの飾り窓。砂糖の塔、生菓子(なまがし)、麦藁(むぎわら)のパイプを入れた曹達水(ソオダすい)のコップなどの向うに人かげが幾つも動いている。少年はこの飾り窓の前へ通りかかり、飾り窓の左に足を止めてしまう。少年の姿は膝の上まで。

          36[#「36」は縦中横]

 このカッフェの外部。夫婦らしい中年の男女(なんにょ)が二人硝子(ガラス)戸の中へはいって行く。女はマントルを着た子供を抱(だ)いている。そのうちにカッフェはおのずからまわり、コック部屋の裏を現わしてしまう。コック部屋の裏には煙突(えんとつ)が一本。そこにはまた労働者が二人せっせとシャベルを動かしている。カンテラを一つともしたまま。……

          37[#「37」は縦中横]

 テエブルの前の子供椅子(いす)の上に上半身を見せた前の子供。子供はにこにこ笑いながら、首を振ったり手を挙げたりしている。子供の後ろには何も見えない。そこへいつか薔薇(ばら)の花が一つずつ静かに落ちはじめる。

          38[#「38」は縦中横]

 斜めに見える自動計算器。計算器の前には手が二つしきりなしに動いている。勿論女の手に違いない。それから絶えず開かれる抽斗(ひきだし)。抽斗の中は銭(ぜに)ばかりである。

          39[#「39」は縦中横]

 前のカッフェの飾り窓。少年の姿も変りはない。しばらくの後(のち)、少年は徐(おもむ)ろに振り返り、足早(あしばや)にこちらへ歩いて来る。が、顔ばかりになった時、ちょっと立ちどまって何かを見る。多少驚きに近い表情。

          40[#「40」は縦中横]

 人だかりのまん中に立った糶(せ)り商人(あきゅうど)。彼は呉服(ごふく)ものをひろげた中に立ち、一本の帯をふりながら、熱心に人だかりに呼びかけている。

          41[#「41」は縦中横]

 彼の手に持った一本の帯。帯は前後左右に振られながら、片はしを二三尺現している。帯の模様は廓大(かくだい)した雪片(せっぺん)。雪片は次第にまわりながら、くるくる帯の外へも落ちはじめる。

          42[#「42」は縦中横]

 メリヤス屋の露店(ろてん)。シャツやズボン下を吊(つ)った下に婆(ばあ)さんが一人行火(あんか)に当っている。婆さんの前にもメリヤス類。毛糸の編みものも交(まじ)っていないことはない。行火の裾(すそ)には黒猫が一匹時々前足を嘗(な)めている。

          43[#「43」は縦中横]

 行火の裾に坐っている黒猫。左に少年の下半身(かはんしん)も見える。黒猫も始めは変りはない。しかしいつか頭の上に流蘇(ふさ)の長いトルコ帽をかぶっている。

          44[#「44」は縦中横]

「坊ちゃん、スウェエタアを一つお買いなさい。」
「僕は帽子さえ買えないんだよ。」

          45[#「45」は縦中横]

 メリヤス屋の露店を後ろにした、疲れたらしい少年の上半身(じょうはんしん)。少年は涙を流しはじめる。が、やっと気をとり直し、高い空を見上げながら、もう一度こちらへ歩きはじめる。

          46[#「46」は縦中横]

 かすかに星のかがやいた夕空。そこへ大きい顔が一つおのずからぼんやりと浮かんで来る。顔は少年の父親らしい。愛情はこもっているものの、何か無限にもの悲しい表情。しかしこの顔もしばらくの後(のち)、霧のようにどこかへ消えてしまう。

          47[#「47」は縦中横]

 縦(たて)に見た往来。少年はこちらへ後(うし)ろを見せたまま、この往来を歩いて行(ゆ)く。往来は余り人通りはない。少年の後ろから歩いて行く男。この男はちょっと振り返り、マスクをかけた顔を見せる。少年は一度も後ろを見ない。

          48[#「48」は縦中横]

 斜めに見た格子戸(こうしど)造りの家の外部。家の前には人力車(じんりきしゃ)が三台後ろ向きに止まっている。人通りはやはり沢山ない。角隠(つのかく)しをつけた花嫁(はなよめ)が一人、何人かの人々と一しょに格子戸を出、静かに前の人力車に乗る。人力車は三台とも人を乗せると、花嫁を先に走って行く。そのあとから少年の後ろ姿。格子戸の家の前に立った人々は勿論少年に目もやらない。

          49[#「49」は縦中横]

「XYZ会社特製品、迷い子、文芸的映画」と書いた長方形の板。これもこの板を前後にしたサンドウィッチ・マンに変ってしまう。サンドウィッチ・マンは年をとっているものの、どこか仲店(なかみせ)を歩いていた、都会人らしい紳士に似ている。後ろは前よりも人通りは多い、いろいろの店の並んだ往来。少年はそこを通りかかり、サンドウィッチ・マンの配(くば)っている広告を一枚貰って行く。

          50[#「50」は縦中横]

 縦に見た前の往来。松葉杖をついた癈兵(はいへい)が一人ゆっくりと向うへ歩いて行(ゆ)く。癈兵はいつか駝鳥(だちょう)に変っている。が、しばらく歩いて行くうちにまた癈兵になってしまう。横町(よこちょう)の角(かど)にはポストが一つ。

          51[#「51」は縦中横]

「急げ。急げ。いつ何時(なんどき)死ぬかも知れない。」

          52[#「52」は縦中横]

 往来の角(かど)に立っているポスト。ポストはいつか透明になり、無数の手紙の折り重なった円筒の内部を現して見せる。が、見る見る前のようにただのポストに変ってしまう。ポストの後ろには暗のあるばかり。

          53[#「53」は縦中横]

 斜めに見た芸者屋町(げいしゃやまち)。お座敷へ出る芸者が二人(ふたり)ある御神燈(ごしんとう)のともった格子戸(こうしど)を出、静かにこちらへ歩いて来る。どちらも何(なん)の表情も見せない。二人の芸者の通りすぎた後(のち)、向うへ歩いて行(ゆ)く少年の姿。少年はちょっとふり返って見る。前よりもさらに寂しい表情。少年はだんだん小さくなって行く。そこへ向うに立っていた、背(せ)の低い声色遣(こわいろつか)いが一人(ひとり)やはりこちらへ歩いて来る。彼の目(ま)のあたりへ近づいたのを見ると、どこか少年に似ていないことはない。

          54[#「54」は縦中横]

 大きい針金(はりがね)の環(わ)のまわりにぐるりと何本もぶら下げたかもじ。かもじの中には「すき毛入り前髪(まえがみ)立て」と書いた札(ふだ)も下っている。これ等のかもじはいつの間(ま)にか理髪店の棒に変ってしまう。棒の後ろにも暗のあるばかり。

          55[#「55」は縦中横]

 理髪店の外部。大きい窓硝子(ガラス)の向うには男女(なんにょ)が何人も動いている。少年はそこへ通りかかり、ちょっと内部を覗(のぞ)いて見る。

          56[#「56」は縦中横]

 頭を刈(か)っている男の横顔。これもしばらくたった後、大きい針金の環(わ)にぶら下げた何本かのかもじに変ってしまう。かもじの中に下った札(ふだ)が一枚。札には今度は「入れ毛」と書いてある。

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