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雪の翼(ゆきのつばさ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:52:51  点击:  切换到繁體中文

底本: 鏡花全集 卷六
出版社: 岩波書店
初版発行日: 1941(昭和16)年11月10日
入力に使用: 1974(昭和49)年4月2日第2刷
校正に使用: 1987(昭和62)年2月3日第3刷

 

柏崎海軍少尉かしはざきかいぐんせうゐ夫人ふじんに、民子たみこといつて、一昨年いつさくねん故郷ふるさとなる、福井ふくゐ結婚けつこんしきをあげて、佐世保させぼ移住うつりすんだのが、今度こんど少尉せうゐ出征しゆつせいき、親里おやざと福井ふくゐかへり、神佛しんぶついのり、影膳かげぜんゑつつにあるごとく、いへまもつてるのがあつた。
 旅順りよじゆん吉報きつぱうつたはるとともに幾干いくばく猛將まうしやう勇士ゆうしあるひ士卒しそつ――あるひきずつきほねかは散々ちり/″\に、かげとゞめぬさへあるなかをつと天晴あつぱれ功名こうみやうして、たゞわづかひだり微傷かすりきずけたばかりといたとき乘組のりくんだふね帆柱ほばしらに、夕陽せきやうひかりびて、一ゆきごとたかきたとまつたはうつたとき連添つれそ民子たみこ如何いかかんじたらう。あはれ新婚しんこんしきげて、一年ひとゝせふすまあたゝかならず、戰地せんちむかつて出立いでたつたをりには、しのんでかなかつたのも、嬉涙うれしなみだれたのであつた。
 あゝ、のよろこびのなみだも、よる片敷かたしいておびかぬ留守るすそでかわきもあへず、飛報ひはう鎭守府ちんじゆふ病院びやうゐんより、一家いつけたましひしにた。
 少尉せうゐんで、豫後よご不良ふりやうとのことである。
 急信きふしんは××ねん××ぐわつ××にち午後ごごとゞいたので、民子たみこあをくなつてつと、不斷着ふだんぎ繻子しゆすおび引緊ひきしめて、つか/\と玄關げんくわんへ。父親ちゝおや佛壇ぶつだん御明みあかしてんずるに、母親はゝおやは、財布さいふひもゆはへながら、けてこれ懷中ふところれさせる、女中ぢよちうがシヨオルをきせかける、となり女房にようばうが、いそいで腕車くるま仕立したてく、とかうするうち、おともつべき與曾平よそべいといふ親仁おやぢ身支度みじたくをするといふ始末しまつ。さて、るものもりあへず福井ふくゐまち出發しゆつぱつした。これが鎭守府ちんじゆふ病院びやうゐんに、をつと見舞みま首途かどでであつた。
 ふゆの、山國やまぐにの、にしおふ越路こしぢなり、其日そのひそらくもりたれば、やうやまちをはづれると、九頭龍川くづりうがは川面かはづらに、夕暮ゆふぐれいろめて、くらくなりゆく水蒼みづあをく、早瀬はやせみだれておとも、千々ちゞくだけてなみも、ゆきや!ゆきおもらるゝ空模樣そらもやう近江あふみくに山越やまごしに、づるまでには、なか河内かはち芽峠めたうげが、もつとちかきはまへに、春日野峠かすがのたうげひかへたれば、いたゞきくもまゆおほうて、みちのほど五あまり、武生たけふ宿しゆくいたころはとつぷりとてた。
 長旅ながたびかゝへたり、まへたうげのぞんだれば、めてなどおもひもらず、柳屋やなぎやといふに宿やどる。
 みちすがらあしこほり、火鉢ひばちうへ突伏つゝぷしても、ぶるひやまぬさむさであつたが、
 まくらいて初夜しよやぐるころほひより、すこ氣候きこうがゆるんだとおもふと、およ手掌てのひらほどあらうといふ、ぞく牡丹ぼたんとなづくるゆきが、しと/\とはてしもあらず降出ふりだして、夜中頃よなかごろには武生たけふまちかさのやうに押被おつかぶせた、御嶽おんたけといふ一座いちざみねこそぎ一搖ひとゆれ、れたかとおも氣勢けはひがして、かぜさへさつつた。
 いちたにたにさんたにたにかけて、山々やま/\峰々みね/\縱横じうわうに、れにるゝがるやう、大波おほなみせてはかへすにひとしく、一夜いちや北國空ほくこくぞらにあらゆるゆきを、ふるおとすこと、すさまじい。
 民子たみこ一炊いつすゐゆめむすばず。あけがたかぜいだ。
 昨夜ゆうべやとつた腕車くるまが二だいゆきかどたゝいたので、主從しうじうは、朝餉あさげ支度したく※(「勹<夕」、第3水準1-14-76)そこ/\に、ごしらへして、戸外おもてると、東雲しのゝめいろともかず黄昏たそがれそらともえず、溟々めい/\濛々もう/\として、天地てんちたゞ一白いつぱく
 不意ふいつもつたゆきなれば、雪車そりまをしてもあはず、ともかくもおくるまを。帳場ちやうばから此處こゝまゐうちも、とほりの大汗おほあせと、四人よつたり車夫しやふくちそろへ、精一杯せいいつぱい後押あとおしで、おともはいたしてまするけれども、前途さきのお請合うけあひはいたされず。なにはしかれくるまうづまりますまで、るとしませう。其上そのうへは、三にんがかり五にんがかり、三井寺みゐでらかねをかつぐちからづくでは、とても一寸いつすんうごきはしませぬ。お約束やくそくなればたう柳屋やなぎや顏立かほだてまゐつたまで、と、しりごみすること一方ひとかたならず。たゞいそぎにいそがれて、こゝにこゝろなき主從しうじうよりも、御機嫌ごきげんようとかどつて、一曳ひとひきひけばゆきに、母衣ほろかたちかくれて、殷々いん/\としてしづきやく見送みおく宿やどのものが、かへつて心細こゝろぼそかぎりであつた。
 酒代さかてをしまぬ客人きやくじんなり、しか美人びじんせたれば、屈竟くつきやう壯佼わかものいさみをなし、曳々聲えい/\ごゑはせ、なはて畦道あぜみちむらみちみにんで、三みちに八九時間じかん正午しやうごといふのに、たうげふもと春日野村かすがのむらいたので、づ一けん茶店ちやみせやすんで、一行いつかうほつ呼吸いき
 茶店ちやみせのものもかこんで、ぼんやりとしてるばかり。いふまでもなく極月しはすかけて三月さんぐわつ彼岸ひがんゆきどけまでは、毎年まいねんこんななか起伏おきふしするから、ゆきおどろくやうなものわすれても土地柄とちがらながら、今年ことし意外いぐわいはやうへに、今時いまどきくまでつもるべしとは、七八十になつた老人らうじんおもけないのであつたとふから。
 みちでも、むらけて、やぶまへなどとほをりは、兩側りやうがはからたふして、たけも三じやくゆきかついで、あるひは五けんあるひは十けんあたか眞綿まわた隧道トンネルのやうであつたを、はらかさはらひ、からうじて腕車くるまくゞらしたれば、あみにかゝつたやうに、彼方あなた此方こなたを、すゞめがばら/\、ほら蝙蝠かうもりるやうだつた、と車夫同士くるまやどうしかたりなどして、しばらく澁茶しぶちやいちさかえる。
 こゑなかあツ一聲ひとこゑ床几しやうぎからころちさう、脾腹ひばらかゝへてうめいたのは、民子たみことも與曾平親仁よそべいおやぢ
 便びんなし、しんひやしたおいしやくなやみかろからず。
 一體いつたい誰彼たれかれといふうちに、さしいそいだたびなれば、註文ちうもんあはず、ことわか婦人をんななり。うつかりしたものもれられねば、ともさしてられもせぬ。與曾平よそべいは、三十年餘みそとせあまりも律儀りちぎつかへて、飼殺かひごろしのやうにしてもの氣質きだてれたり、いま道中だうちうに、雲助くもすけ白波しらなみおそれなんど、あるべくもおもはれねば、ちからはなくてもしうはあらず、もつと便たよりよきはとしこそつたれ、大根だいこんく、屋根やねく、みづめばこめく、達者たつしやなればと、この老僕おやぢえらんだのが、おほいなる過失くわしつになつた。
 いかに息災そくさいでもすでに五十九、あけて六十にならうといふのが、うちでこそはくる/\※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)まはれ、近頃ちかごろ遠路とほみちえうもなく、父親ちゝおやほんる、炬燵こたつはし拜借はいしやくし、母親はゝおや看經かんきんするうしろから、如來樣によらいさまをが身分みぶんすくないのか、とやかくと、心遣こゝろづかひにむねさわがせ、さむさにほねひやしたれば、わすれて持病ぢびやうがこゝで、生憎あいにく此時このとき
 ゆき小止をやみもなくるのである、る/\うちつもるのである。
 大勢おほぜいつてたかり、民子たみこ取縋とりすがるやうにして、介抱かいほうするにも、くすりにも、ありあはせの熊膽くまのゐくらゐそれでもこゝろつうじたか、すこしは落着おちついたから一刻いつこくはやくと、ふたゝ腕車くるまてようとすれば、泥除どろよけかじりつくまでもなく、與曾平よそべいこしつて、はたたふれて、かほいろ次第しだいかはり、これではかへつて足手絡あしてまとひ、一式いつしき御恩ごおんはうじ、のおともをとおもひましたに、かなはぬ、みんなくびめてくれ、奧樣おくさまわし刺殺さしころして、お心懸こゝろがかりのないやうにねがひまする。おのれやれ、んでおにとなり、無事ぶじ道中だうちうはさせませう、たましひ附添つきそつて、と血狂ちくるふばかりにあせるほど、よわるはおい身體からだにこそ。
 口々くち/″\押宥おしなだめ、民子たみこせつなぐさめて、おまへ病氣びやうき看護みとるとつて此處こゝあしめられぬ。てゝくにはしのびぬけれども、鎭守府ちんじゆふ旦那樣だんなさまが、呼吸いきのあるうち一目ひとめひたい、わたしこゝろさつしておくれ、とかういふこゝろく、たうげまへひかへてるし、ぢいや!
 もし奧樣おくさま
 と土間どまはしまでゐざりでて、ひざをついて、あはすのを、振返ふりかへつて、母衣ほろりた。
 一だい腕車わんしやにん車夫しやふは、茶店ちやみせとゞまつて、人々ひと/″\とともに手當てあてをし、ちつとでもあがきがいたら、早速さつそく武生たけふまでも其日そのひうち引返ひつかへすことにしたのである。
 民子たみこ腕車くるま二人ふたりがかり、それから三里半りはんだら/\のぼりに、中空なかぞらそびえたる、春日野峠かすがのたうげにさしかゝる。
 ものの半道はんみちとはのぼらないのに、くるまきしつよく、平地ひらちでさへ、けてさか、一分間ぷんかんに一すんづゝ、次第しだいゆきかさすので、呼吸いきつても、もがいても、腕車くるまは一すゝまずなりぬ。
 まへなるは梶棒かぢぼうおろしてすわり、あとなるは尻餅しりもちついて、御新造ごしんぞさん、とてもふ。
 大方おほかたくあらむと、したることとて、民子たみこあらかじ覺悟かくごしたから、茶店ちやみせ草鞋わらぢ穿いてたので、此處こゝ母衣ほろから姿すがたあらはし、山路やまぢゆき下立おりたつと、爪先つまさきしろうなる。
 下坂くだりざかは、うごきれると、一めい車夫しやふ空車からいて、ぐに引返ひつかへことになり、梶棒かぢぼうつてたのが、旅鞄たびかばん一個ひとつ背負しよつて、これ路案内みちあんないたうげまでともをすることになつた。
 てつごと健脚けんきやくも、ゆきんではとぼ/\しながら、まへつてあしあとをいんしてのぼる、民子たみこはあとから傍目わきめらず、のぼ心細こゝろぼそさ。
 千山せんざん萬岳ばんがく疊々てふ/″\と、きたはしり、西にしわかれ、みなみよりせまり、ひがしよりおそ四圍しゐたゞたか白妙しろたへなり。

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