您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 泉 鏡花 >> 正文

雪の翼(ゆきのつばさ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:52:51  点击:  切换到繁體中文


 さるほどに、やままたやまのぼればみねます/\かさなり、いたゞき愈々いよ/\そびえて、見渡みわたせば、見渡みわたせば、此處こゝばかりもとを、ゆきふうずる光景ありさまかな。
 さいはひかぜく、雪路ゆきみちたと山中さんちうでも、までにはさむくない、みしめるにちからるだけ、かへつてあせするばかりであつたが、すそたもとこはばるやうに、ぞつとさむさがせまると、山々やま/\かげがさして、たちまくれなむとする景色けしき。あはよくたうげとざした一けん山家やまがのき辿たどいた。
 さて奧樣おくさま目當めあてにいたしてまゐつたは小家こいへせがれ武生たけふ勞働はたらきつてり、留守るすやまぬしのやうな、ぢいばゞ二人ふたりぐらし、此處こゝにおとまりとなさいまし、たゝいてあけさせませう。また彼方此方あつちこち五六けん立場茶屋たてばぢややもござりますが、うつくしい貴女あなたさま、たつた一人ひとりあづけまして、安心あんしんなは、ほかにござりませぬ。武生たけふ富藏とみざう受合うはあひました、なんにしろおとまんなすつて、今夜こんや樣子やうす御覽ごらうじまし。ゆきむかまぬかが勝負しようぶでござります。もしみませぬと、とてみちつうじません、ふりやんでくれさへすれば、雪車そります便宜たよりもあります、御存ごぞんじでもありませうが、へんでは、雪籠ゆきごめといつて、やまなか一夜いちやうちに、不意ふいゆきひますると、時節じせつるまで何方どちらへもられぬことになりますから、わたくし稼人かせぎにんうちに四五にんかゝへてります、まんひとつも、もし、やうなひますると、媽々かゝあ小兒こども※(「月+咢」、第3水準1-90-51)あごらねばなりませぬで、うへとも出來できかねまする。おわかれといたしまして、其處そこらの茶店ちやみせをあけさせて、茶碗酒ちやわんざけをぎうとあふり、いきほひで、暗雲やみくもに、とんぼをつてころげるまでも、今日けふうちふもとまでかへります、とこれからゆき伏家ふせやたゝくと、老人夫婦らうじんふうふ出迎いでむかへて、富藏とみざう仔細しさいくと、お可哀相かはいさうのいひつゞけ。
 行先ゆくさきあんじられて、われにもあらずしよんぼりと、たゝずんではひりもやらぬ、なまめかしい最明寺殿さいみやうじどのを、つてせうれて、舁据かきすゑるやうに圍爐裏ゐろりまへ
 おまへまあちつやすんでと、深切しんせつにほだされて、なつかしさうに民子たみこがいふのを、いゝえ、さうしてはられませぬ、お荷物にもつ此處こゝへ、もし御遠慮ごゑんりよはござりませぬ、あし投出なげだして、すそはうからおぬくもりなされませ、わすれても無理むりみちはなされますな。それぢやとつさんたのんだぜ、ばあさん、いたはつてげてくんなせい。
 富藏とみざうさんとやら、といつて、民子たみこおもはずなみだぐむ。
 へい、おくさま御機嫌ごきげんよう、へい、またとほりがかりにも、おとも御病人ごびやうにんをつけます。あゝ、いかい難儀なんぎをして、おいでなさるさきの旦那樣だんなさま御大病ごたいびやうさうな、たゞときならはしうへも、欄干らんかんはうけておとほりなさらうのに、おいたはしい。お天道樣てんたうさま何分なにぶんたのまをしますぜ、やあお天道樣てんたうさまといやることは/\。
 あとにたのむは老人夫婦らうじんふうふこれまた補陀落山ふだらくさんからかりにこゝへ、いほりむすんで、南無なむ大悲だいひ民子たみこのために觀世音くわんぜおん
 なさけで、ゑず、こゞえず、しか安心あんしんして寢床ねどこはひることが出來できた。
 わびしさは、べるものも、るものも、こゝにことわるまでもない、うす蒲團ふとんも、眞心まごころにはあたゝかく、ことちと便たよりにならうと、わざ佛間ぶつま佛壇ぶつだんまへに、まくらいてくれたのである。
 心靜こゝろしづかまくらにはいたが、民子たみこうしてねむられよう、ひる疲勞つかれおぼゆるにつけても、おもらるゝのちたび
 ねやこゑもなく、すゞしいばかりぱち/\させて、かねきこえぬのを、いたづらゆびる、寂々しん/\とした板戸いたどそとに、ばさりと物音ものおと
 民子たみこすべつたゆきのかたまりであらうとおもつた。
 しばらくしてまたばさりとさはつた、かゝときかゝ山家やまがゆき夜半よはおと恐氣おぢけだつた、婦人氣をんなぎはどんなであらう。
 富藏とみざううたがはないでも、老夫婦らうふうふこゝろわかつてても、孤家ひとつやである、この孤家ひとつやなることばは、昔語むかしがたりにも、お伽話とぎばなしにも、淨瑠璃じやうるりにも、もののほんにも、年紀とし今年ことし二十はたちになるまで、民子たみこみゝはひつたひゞきに、ひとツとして、悲慘ひさん悽愴せいさうおもむきいまこゝさゝやぐる、材料ざいれうでないのはない。
 呼吸いきめて、なほすゞのやうなひとみこらせば、薄暗うすぐら行燈あんどうほかかべふすま天井てんじやうくらがりでないものはなく、ゆきくるめいたにはひとしほで、ほのかにしろいはわれとわが、おもかげほゝあたりを、確乎しつかとおさへてまくらながらかすかにわなゝく小指こゆびであつた。
 あなわびし、うたてくもかゝるさいに、小用こようがたしたくなつたのである。
 もし。ふるへごゑまた
 もし/\と、二聲ふたこゑ三聲みこゑんでたが、ざとい老人らうじん寐入ねいりばな、けて、つみ屈託くつたくも、やままちなんにもないから、ゆきしづまりかへつて一層いつそう寐心ねごころささうに、いびききこえずひツそりしてる。
 たまりかねて、民子たみこそつなほつたが、世話せわになる遠慮深ゑんりよぶかく、氣味きみわるいぐらゐにはいへのぬしおこされず、そのまゝ突臥つゝぷしてたけれども、さてあるべきにあらざれば、恐々こは/″\行燈あんどう引提ひつさげて、勝手かつてしなにいていた、縁側えんがはについてようとすると、途絶とだえてたのが、ばたりとあたツて、二三つゞけさまにばさ、ばさ、ばさ。
 はツとつばをのみ、むねそらして退すさつたが、やがて思切おもひきつてようしてるまでは、まづ何事なにごともなかつたところ
 あらはうとするときは、民子たみこころされるとおもつたのである。
 雨戸あまどを一まいツトけると、たゞちに、東西南北とうざいなんぼくへ五眞白まつしろやまであるから。
 如何いかなることがあらうもれずと、ねむつて、行燈あんどうをうしろに差置さしおき、わなゝき/\柄杓ひしやくつて、もれたゆきはらひながら、カチリとあたるみづそゝいで、げるやうにはなしたトタン、さつとばかりゆきをまいて、ばつさり飛込とびこんだ一個いつこ怪物くわいぶつ
 民子たみこおもはずあツといつた。
 夫婦ふうふはこれに刎起はねおきたが、左右さいうから民子たみこかこつて、三人さんにんむつそゝぐと、小暗をぐらかたうづくまつたのは、なにものかこれたゞかりなのである。
 老人らうじんくちをあいてわらひ、いやめづらしくもない、まゝあること、にはかゆき降籠ふりこめられると、ともはなれ、ねぐらまよひ、行方ゆくへうしなひ、じきゑて、かへつてひとなづる、これは獵師れふしあはれんで、生命いのちらず、ひえあはあたへてやしなならひと、仔細しさいけば、所謂いわゆる窮鳥きうてうふところつたるもの。
 翌日あくるひまず、民子たみここゝろこゝろならねど、神佛かみほとけともおもはるゝおいことばさからはず、二日ふつか三日みつか宿やどかさねた。
 其夜そのよかり立去たちさらず、にかはれた飼鳥かひどりのやう、よくなつき、けて民子たみこしたつて、ぜんかたはらはねやすめるやうになると、はじめに生命いのちがけおそろしくおもひしだけ、可愛かはいさは一入ひとしほなり。つれ/″\にはんで、つばさでもし、ひざきもし、ほゝもあて、よるふすまふところひらいて、あたゝかたま乳房ちぶさあひだはしかせて、すや/\とることさへあつたが、一夜あるよすさまじき寒威かんいおぼえた。あけるとてて雪車そりる、すぐ發足ほつそく
 老人夫婦らうじんふうふわかれげつつ、民子たみこかりにも殘惜のこりをしいまで不便ふびんであつたなごりををしんだ。
 かみ使つかひであつたらう、このとりがないと、民子たみこをつとにもへず、看護みとり出來できず、つやがて大尉たいゐ昇進しようしんした少尉せうゐさかえることもならず、與曾平よそべい喜顏よろこびがほにも、再會さいくわいすることが出來できなかつたのである。
 民子たみこをのせて雪車そりは、みちすべつて、十三といふ難所なんしよを、大切たいせつきやくばかりを千尋ちひろ谷底たにそこおとした、ゆきゆゑ怪我けがはなかつたが、落込おちこんだのは炭燒すみやき小屋こやなか
 五助ごすけ
 權九郎ごんくらう
 といふ、兩名りやうめい炭燒すみやきが、同一おなじ雪籠ゆきごめつてふうめられたやうになり、二日ふつか三日みつか貯蓄たくはへもあつたが、四日目よつかめから、あは一粒ひとつぶくちにしないで、くまごと荒漢等あらをのこら山狗やまいぬかとばかりおとろへ、ひからせて、したんで、背中合せなかあはせにたふれたまゝ、うめこゑさへかすかところなに人間にんげんなりとて容赦ようしやすべき。
 おびき、きぬぎ、板戸いたどうへいましめた、のありさまは、こゝにふまい。立處たちどころ手足てあしあぶるべく、炎々えん/\たる炭火すみびおこして、やがて、猛獸まうじうふせ用意よういの、山刀やまがたなをのふるつて、あはや、そのむねひらかむとなしたるところへ、かみ御手みてつばさひろげて、そのひざそのそのかたそのはぎくるひまつはり、からまつて、民子たみこはだおほうたのは、とりながらもこゝろありけむ、民子たみこ雪車そりのあとをしたうて、大空おほぞらわたつてかりであつた。
 またゝに、かり炭燒すみやきほふられたが、民子たみこ微傷かすりきずけないで、まつたたまやすらかにゆきはだへなはからけた。
 渠等かれらあへおにではない、じきたれば人心地ひとごこちになつて、あたかし、谷間たにあひから、いたはつて、おぶつてた。





底本:「鏡花全集 卷六」岩波書店
   1941(昭和16)年11月10日第1刷発行
   1974(昭和49)年4月2日第2刷発行
入力:土屋隆
校正:門田裕志
2005年10月28日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について
  • このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
  • 「くの字点」は「/\」で、「濁点付きくの字点」は「/″\」で表しました。
  • 「くの字点」をのぞくJIS X 0213にある文字は、画像化して埋め込みました。
  • 傍点や圏点、傍線の付いた文字は、強調表示にしました。

上一页  [1] [2]  尾页


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告