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崩れる鬼影(くずれるおにかげ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 15:59:02  点击:  切换到繁體中文



   ルナ・アミーバーの実験


 なんだか訳のわからない器械が並んだ実験室には、東京からこの珍らしい実験を見ようと駈けつけた学者で、身動きも出来ません。
 真中に立っていた谷村博士は、私の入って来たのに気がついて、こっちを向かれました。
「おお民彌たみや君。もう元気になりましたか」
「はい」
「いやア、あなた方ご兄弟のお蔭で、ここにいる一匹のルナ・アミーバーが手に入りましたよ」
 そういって博士は、前によこたわっている大きい硝子製ガラスせいのビールだるのようなものをゆびさしました。しかしその中は透明で、博士の云うものは何も見えません。
「いまはまだ見えますまい」と博士はすぐ私の顔色を見て云いました。「しかし今に見えますよ。偏光作用へんこうさようがうまく行ったらネ」
「偏光作用といいますと」
「この硝子器の中に、ルナ・アミーバーが居るのです。この中をすっかり真空にして、こっちの方から偏光をかけてやると、肉眼でも見えてくるのですよ」
「こいつはどうして捕ったんでしょうネ。大変強い動物でしたのに」
「動物じゃなくて、植物という方がいいかも知れませんよ。――弱っているわけは、あの硝子窓を通るときに、外皮がいひを大分引裂ひきさいたので、地球の高い温度がこたえるのです。そしてこのルナ・アミーバーは、兄さんを胴締どうじめにしていた奴です。あのとき此奴こいつは、兄さんにくるしめられたのです。兄さんは護身用ごしんように、携帯感電器けいたいかんでんきをもっていらっしゃる。あの強烈な電気に相当そうとうまいっているところへ、あの硝子のへつっかかったんで、二重のよわり目にたたり目で、沼の中へ落ちこんだまま、あがりも飛び上りも出来なくなったんですよ。つまり荘六君と民彌君とのお二人が、この怪物を捕えたも同様ですネ」
 私はそのとき、目に見えぬルナ・アミーバーと闘ったことを思いだしました。
「この一匹のほかはどうしたのですか」
「もう月の世界へ逃げかえったことでしょう。今夜月が出ると、その天体鏡てんたいきょうでのぞかせてあげましょう」
「すると、あの小田原の町に現れていたサーベルを腰に下げた老人や、白衣びゃくいを着た若者なども、逃げかえったんですか」
「いや、あれは……」と博士はすこしあかくなって云いました。「あれは私と黒田さんなんです。二人はルナ・アミーバにつかまって、あのとおり彼奴あいつの身体にきこまれていたのです。だからいかにも私たちは空中に飛んでいるように見えましたが、実はルナが飛んでいたわけで、私たちは、ルナの上にっているようなものでした。そして彼奴は、私たちを勝手に裸にしたり、そして間違ってサーベルや白衣を着せたりしたのです」
「ああ、そうでしたか」
 私は始めて、空中を飛ぶ男の謎がとけたのを感じました。
「では、小田原や隧道で暴れたのも、先生たちの力ではなかったのですネ」
「そうですとも。あれは皆ルナ・アミーバーの一隊がやったことです。たまたま中で見える私たちだけが騒がれたわけです」
「しかし先生、あの崩れる鬼影はどうしたのです。硝子窓に、アリアリと鬼影がうつりましたよ」
「あれはこのルナの流動する形が、うっすりと写ったのです。月の光にかしてみると、ほんのわずか、形が見えます。それはあの月光に、一種の偏光がまじっているから、月光に照らされて硝子板の上にうつるときは、ルナの流動する輪廓りんかくが、ぼんやり見えたのですよ」
「ははーん」
 私は、この大きな謎が一時に解けたので、思わず大きな溜息ためいきをつきました。
 そのとき一座がにわかにドヨめきました。
「ああ、いよいよ、ルナ・アミーバーが見えて来ましたよ」


   大団円だいだんえん


 ああ何という不思議!
 硝子樽の中には、いままで何も無いように思っていましたが、ジリジリブツブツと、なんだか紫色の霧のようなものが動揺を始めたと思う間もなく色はくれないに移り、次第次第に輪廓りんかくがハッキリして来ました。やがてのことに、青味あおみびたドロンとした液体が、クネクネとまるで海蛇うみへびの巣をのぞいたときはこうもあろうかというような蠕動ぜんどうを始めました。なんという気味のわるい生物でしょう。のぞきこんでいる人々のひたいには、油汗あぶらあせたまのように浮かび上ってきました。
「ああ、いやらしい生物だッ」
 誰かがベッと、つばいて、そう叫びました。それが聞えたのか、ルナ・アミーバーは、草餅くさもちをふくらませたように、プーッと膨脹ぼうちょうを始め、みるみるうちに、硝子樽ガラスだる一ぱいにひろがりました。
「これはッ――」
 と思って、一同が後退あとずさりをしたその瞬間、がちゃーンという一大音響がして、サッと濛々もうもうたる白煙しろけむりが室内に立ちのぼりました。
ッ――」
 私達は壁際にペタリと尻餅をついたことにも気が付かない程でした。バラバラとなにか上から落ちてくるので、気がついて天井を見ますと、そこには大きな穴がポッカリ明いていました。
「オヤオヤ。ルナが逃げたッ」
「どうして逃げたんだッ」
「弱っていたと思っていたがな」
「いや、これは私の失敗でした」と博士は別におどろいた顔もせずに、静かに口を切りました。
「どうしたんです」
「いえ、彼奴あいつの入っている容器を真空にしたのがいけなかったんです」
「なぜッ」
「真空は、彼奴の住む月世界げっせかいの状態そっくりです。だから弱っている彼奴は、たちまち元気になって、うつわを破って逃走したのです。ああ、失敗失敗」
 こんなわけで、折角せっかく生捕いけどったたった一匹のルナ・アミーバーでありましたが、惜しくも天空てんくういっし去ってしまったのです。
 いやはや、残念なことでありましたが、谷村博士をめるのもどうかと思います。ルナが逃げてしまったのですから、「崩れる鬼影」について私の申上げる話の種も、もうなくなりました。





底本:「海野十三全集 第8巻 火星兵団」三一書房
   1989(平成元)年12月31日第1版第1刷発行
初出:「科学の日本」博文館
   1933(昭和8)年7月~12月号
入力:tatsuki
校正:土屋隆
2005年11月23日作成
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